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『何に見える?』

「君にはこれが何に見える?」
言われて初めてそこにあるものを見る。
俺は見たままを答えた。
「違うよぉ、それはこれそのものだろ?
私が言いたいのはね、これが何に見えるかってこと」
俺にはそれが、それ以外の何ものにも見えない。
俺はそれが何とか別のものに見えないか凝視した。

「いや君ね、見ようとしてもダメだよ、
見えるものを聞いてんだからさ」
俺は見ようとするのを諦めた。
「おい、勝手に諦めるんじゃないよ、
私はこれが何に見えるかって聞いてんじゃないか
それに答えないとは、失礼だろ」
とうとう彼を怒らせてしまった。
俺はどうすればいいんだ。

「おいおい何だよ。落ち込んでんじゃないよ。
私が悪者みたいじゃないか」
俺は謝ってから自分が謝ったことに対して後悔した。
なんで俺、謝ってんだ、、、?
自己嫌悪が自己嫌悪を呼び、
俺はその場に頭を抱えてうずくまってしまった。
見えない、俺にはそれがそれ以外の何ものにも見えない。
涙がとめどなく流れ、視界は歪みきっている。
俺はその歪んだ世界でそれを見直してみた。

あ、もしかして、、、
俺はそれがそれ以外に見えたうれしさに
彼に向かって見えたものを伝えた。

「ちが~う」
俺の答を身を乗り出して待ち構えていた彼は
拍子抜けした顔で椅子に沈み込んだ。
「まったく、世界をちゃんと見ていないね、君は」
俺はまた謝った、さめざめと涙を流しながら。
呆れ顔で出て行く彼をうなだれたまま見送る俺。

しばらくそのまま動けずにいたが、
そういや彼に、何に見えたら正解か
聞かずじまいだったことに気が付いた。
そして再び、自己嫌悪、、、。

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