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キャベツ畑の中の悪意 成夫の視点から


「おい!どうしたんだ??」
聞こえていない?

「おい!」


追いかけるか、どうするか。


「ナル、あっちでメロンソーダ配ってる。行こ!」
「泣いてる」
「は?俺が?泣いてねーじゃん」

「俺、後から貰う、ちょっと行くわ」




超加速であの子の後を追っかける。 


ハァハァーー   ハァーーーー

額に噴き出た汗を手で拭いながら、

道路の端に寄って階段を駆け上がっていくあの子を目で追う。2階の踊り場まで来た!!
四角い10センチほどの風通しだ、隙間から見える。顔を膝に埋めて震えている??

やっぱりだ、泣いている……。


「ど、う、し、た?」
手をブンブン振る。


一瞬、膝との隙間から目線が合う。
袖口で涙をふいているのか。

笑ってるのか?
泣きながら、笑ってるよ。
髪に留めている銀色の飾りが、
光に反射してよく見えないや。

首をイヤイヤというように振ると、背を向けて階段を駆け上がって行き、クリーム色のドアの奥へ吸い込まれてパタンと閉じた。   

なんだったんだろ。
大丈夫なのか……。

あの子のママいるよな。

月曜に聞くか、そうだ!メロンソーダだ。なくなってないよな、急いで公民館へ戻らんと。   


⌘⌘⌘


「たっだいまーーーー」
「餅、3個ゲットーーー!シャーッ!!」

「メロンソーダ3杯も飲んだ。最高!」


「ママ、大漁だぜ!」
ビニール袋にパンパンに入った戦利品を掲げた。
コアラのマーチだろ〜〜、うまい棒だろ〜〜、うまい棒なんか11本もあるんだぜ。果汁グミのみかん味に、ハイチュウのぶどうとりんご。

「良かったね。ナルの好きなお菓子ばっかり」
「女子と交換したんだ。占いのプチプチよりうまい棒のがいいじゃん」


女子…あの子、あれからどうしたかな。

「ママ、そういやさ、今日隣の子泣きながら走ってた。でさ、追っかけてきたら俺を見て、泣いてるのに笑ってたよ」
「そう。お隣、今日はママいたんだよね?」

「余所者って何?」
「何でそんな事聞くの?」


「お菓子くれたじいちゃんが言ってた」
「えっ?」

「余所者の子にあげるもんはないんだと」
「えっ?」

「余所者って何だ?保育園は途中からだけど、小学校もずっと一緒だぞ」
「何だろね…ママも分からないな……」


⌘⌘⌘


ナルにばれたかな。

「余所者」の事は子供は知られてはいけない。
胸が痛まない訳じゃない。どうしたら良いのだろう、自分の子と歳が同じ子が悲しい思いをしていいだなんて思ってはいない。
けれど……。


まさか!?

話をしている時にあの子に聞こえてしまった?

あそこの奥さん、声が大きいんだもの!私は悪くない、悪くないよ、余所者は余所者らしくしてなくちゃ。それが決まりだもの。


そもそも、態度だって良くないわよ。ツーンとしちゃって可愛げがないったら。


そっと忍足で覗き穴から、お隣の様子を伺う。
ヒャッ!!!!!

ドアが開く。お隣の奥さん、あの子も出てきた。夕方から何処に行くのだろ。お祭りのお手伝いには呼ばれてないはず。何よ、あの澄ました格好。あんなヒラヒラした白のスカートで何するんだか。


タイラマートには売ってないわね。イテューにもない、街のデパートだわ。何故あなたがデパートで私がタイラマートなのよ。だから、「余所者」って言われるのよ。気に入っていたはずの裾にジップがついたジーンズが色褪せて見えた。


そろそろ盆踊りの準備に行かないと。お付き合いもホトホト疲れる、けれど、余所者扱いされるよりはマシか。

白のヒラヒラじゃ、祭りの手伝いなど出来んわね。土地の者にならんと。馴染む努力をせんと。あそこんちが悪いのよ、私は関係ない。


皆の輪から外れてはいけない。
目立ってはいけない。
乱す者は、はぶかれてしまう。
はぶかれた者と関わってもいけない。
家まではぶかれてしまう。
何故、あなたは分からないのよ??


皆と一緒でなくちゃいけない。
はみ出すと、いられなくなる。
ここにいなくちゃならないんだもの。
ナルの為だもの。


⌘⌘⌘  


「おはよう」
「ナル、おはよう」
いつもの朝だ、いつも同じ時間に家を出る決まり。


「あの、さ、お祭りで、泣いてた?」
あの子の顔が強張った。

「ううん。泣いてないよ」
そう言って石を蹴った。赤で、女の子の絵がプリントされた靴だ。下を向いて涙が今にも溢れそうな顔で、笑っていた。土曜の顔と一緒だ。


ママも同じ顔をしていたよな。
何だか、もう聞いてはいけない気がして、


「今日さ、早帰りだな」
「1時半下校だね」

「帰ったら何する?」
「ん、学校から本借りてきて読もうかな」


「俺はびっくりマンシール交換会だ」
「セイくん達と?」


「ヒョーーーー」
飛行機の真似をして、手を広げてくねくね歩くと、
あの子はクスクス笑った。


「ブイーーーーン」
僕は、何度もおどけてみせた。
また、クスクスと笑った。2人で笑った。



良かった。あの子は、僕の友達はいつも通りだ。
チクリと感じた胸の痛みは気のせいだ。



こちらの短編のオムニバスです




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