一番目の女神

  「懐古」
夕暮れの小さな部屋
細い綺麗な指で銀のキイを押える
彼女は私の一番目の女神で
薄紫のひかりを奏でた笛吹き
古い木の机の上に
並べられた葦のかけらと水
メトロノームの硬さすら
彼女が和らげる
橙の時がみちる緩やかな
疲れの中で
追いつこうと重ねた私の音符



私はオーボエを吹いていたことがある。
独特の音色と複雑な構造とダブルリードの繊細さが本当に好きだった。ずいぶんと触れていないけれど、また演奏したいと思うくらい今も好きだ。
YouTubeで木管三重奏の『落ち葉の舞う季節』を聞いていた時、ふと2つ上の先輩のことを思い出した。彼女もオーボエだった。先輩とこの曲を演奏したことはもちろんないし、先輩がこれを吹くのを聞いたことはない。
もう使われていない古びた校舎の、がらくたと乾いたペンキに塗れた狭い図工準備室に、放課後、ちょっと遅れて入ってくる。丁寧な動作で楽器を扱う先輩を見るのが本当に好きだった。
うつくしいひとだった。
多分、あのころ、先輩は私の一人目のミューズだった。

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