nekoie 完成お披露目編
2021年をちょっと過ぎた頃に、家が完成した。
築30年ほどの中古戸建をリノベーションした、ねこたちと夫婦で暮らす新居だ(ばんざーい!)。購入から完成に至るまで初めてづくしで、住む空間について考える時間は想像以上に得るものが多かった。「暮らす」という体験を見つめ直すとてもいい機会になったし、まさに今も現在進行形で自分の中で体験の価値がゆるやかに変わっていっている。
そんなわけで、“nekoie”と私たちが呼んでいるこのリノベーションプロジェクトのこれまでとこれからについて、自分の記録として不定期に書き留めていってみる。
nekoie発足
自分たちの家を作るにあたり、設計を一級建築事務所knofさんにお願いした。知り合って以来、いつか自分の家を作るなら絶対お願いしたい!!と心に決めていた素敵なお二人だ。ログを振り返ると5年ぶりの連絡で、当初は別の相談だったのが紆余曲折を経てこのプロジェクトが発足した。
knofさんの作る空間は、住人と一緒に過ごした時間だけ育っていくような不思議な魅力がある。素材を引き立たせたかっこよさが突き抜けているのに、どこか温かい。それらを象徴するのがご自宅兼事務所だ。痺れる。
私たち夫婦の嗜好性は、結婚指輪のオーダーからして「長いこと打ち棄てられたような指輪」だったように、小綺麗で真新しいものとは正反対らしい。家にも同じことが言えそうかなとぼんやり思っていたところ、knofさんの事務所を訪ねてみてそれが確信に変わった。
ハウスメーカーが提案するようなキレイで新しく見えるリフォームじゃなく、時間の経過をそのまま味わう家を一緒に作って欲しい!
誰よりもねこたちの為に!!
そして立ち上がったSlackチームの名前が"nekoie"だった。
自分たちが住みたい空間の定義
家の要件として最初から思い描いていたのは、この2つ。
1. ねこたちが住みやすい家
2. 朽ちていく様(=時間経過)を楽しめる家
1は、ねこたちが幸せそうにしていることが何より人間の幸せなので。「ねこが主で、人間はそこに間借りしているような感じ」って打ち合わせで誰かが言っていた記憶がある。つまりそういうことです。
家の主となるねこたち。この写真にふたりの関係性がよく表れている。
2は、今回購入したのが築30年ほど経った中古物件で、その味を活かしたい意図だ。購入前に前所有者さんに中を見せていただいた際に何だか田舎のおばあちゃん家に来たような安心感があって、その居心地の良さにほぼ迷わず購入を決意した経緯がある。内装について思うところはあれど、この家の素材そのものを上手く使いたいと思っていた。
また、戸建てということで改装箇所は内外あるが、外面はどうでもよかったので、内装に全振りしようと決めていた。前所有者さんが各設備を小まめにケアしてくださっていて補修の必要がほぼ無かったのも有り難かった。
私たち自身これまでにない景色が見たくて、あとはknofさんにいいように料理してほしいとお任せした。かなり漠然とした注文だったが、結局この2つが最後まで一貫した判断軸になったのはとても良かったと思う。
制約を活かす
どんな家にするか考えを膨らませる傍ら、分かったことがあった。この家は「木質パネル構造」といって、柱ではなく壁の面で構造を支える設計で出来ていた。アメリカで主流のツーバイフォー工法の仲間らしい。そのため、大きく間取りを変えるにはリスクが伴いリノベーションの事例もあまりないようだ。壁をぶち抜く野望が…。。
出だしからなかなかハードル高めで頭を抱えたが、この工法、実は構造むき出しの状態が一番かっこいいのでは?ということにknofさんが気付いてしまう。さすがの視点。
この画像のように綺麗にはいかないかもしれないけど、マテリアル感、というかマテリアルそのもの!間違いなく好きなやつ!制約だと思っていたことは、それでしか出来ない独自性に成り代わった。
ベースコンセプト
そうしてご提案いただいた内装のベースコンセプトが
「PEEL & INSERT」。
表面に貼られたクロスを剥ぎ取り(PEEL)、
むき出しの壁構造そのものを仕上げとすることで経年の変化を楽しみながら過ごせる空間を実現し、暮らしに必要なものを追加していく(INSERT)
PEELした面は木質パネル、INSERTするアイテムは私たちの好きな黒色、ということで全体の雰囲気が見えてきた。
(※これらは提案内容に近い画像をピックアップしたもので、実際の提案資料とは異なります)
この時点でもうワクワクが止まらない。
クロスを剥ぎ取ったらどんな状態になのか、本当にこのコンセプトが活きるのか未知数だったけれど、なるようになりながら面白い方向に転べば良い。解体工事が始まるまで宝箱を抱えているような気持ちだった。
ねこと人の住み心地
「部屋の中に、ねこが好きそうな凹凸が突然あってもいいです」「ねこは上下運動が好きなので多分こんなのがあったら喜ぶはず…」「脱走防止のために二重扉はマストで!」みたいな調子で、打ち合わせの最中はほとんどねこたちの生活動線を考えていた気がする。
そして思い出したように、「服に毛がつかないようにクローゼットはねこの出入り不可で」「作業用とゲーム用の部屋がそれぞれほしい」と人間側の要望を付け加えていった。
ねこサイドはとにかく自由でカオス、人間サイドは機能性・合理性の追求と真逆の要件だ。どうやってこれらを一度に解決出来るのか疑問だったが、それは間取りが解決してくれた。
先述したような制約のもと何度かの検討を経て、最小限の構造変更で最高に機能的な間取りが完成してしまった。私はもっとぶっとんだ案も好きだったけれど、自分たちの生活動線を考えるとそれ以上文句のつけようがなかった。
間取り、つまり枠組みが決まると部屋の機能毎に考える頭を切り替えられるので、詳細を詰めていきやすくなった。
設計工程の具体的な内容はそれだけで何本か書けそうなのでまた別の機会にまとめたいが、間取り変更についてイチオシのやつを紹介したい。
1F・2Fに設置されていたトイレのうち、寝室&リビングのある2Fのトイレを撤去してねこ専用トイレスペースとする
これ、深夜にトイレ行きたい時とか絶対不便なやつなのだが、普段リビングで過ごすであろうねこたちを思うと人間は多少不便してもいいよねってことで決めた案だ。たいへんnekoieらしいし実際そうしてみて大正解だった。
そんな風に、ねこ>人な住空間が組み上がっていった。
とんでもないものが完成
購入の意思決定から約半年、ついにnekoieが完成した。
長い道のりだった。けれど、決まってから形になるまではあっという間だったように感じる。というわけでいよいよお披露目タイム。
まずは、この家を象徴する2Fのリビング。
(※竣工直後でカーテンがないため謎の黒い布がはためいています)
ベースコンセプトのPEELは大成功で、様々な色や木目のパネルがパッチワークのように紡がれた壁面が姿を表した。施工当時のメモ的な走り書きがそのまま残っているのも味わい深い。オイルを塗ると色味が落ち着いてさらに雰囲気が出た。
2Fには立派な屋根裏収納があったのだが、その分天井が低く窮屈な感覚だったので骨組みだけ残して丸ごとキャットウォークにしてしまった。天窓からの日差しを感じる抜け感が心地良い!!!
リビングの過ごし方の基本想定はねこに目線を揃えた床座(椅子を使わず床に座る)で、視点が下がるので空間をより広く感じられるようになっている。床からはちょっと腰掛けたり寄っかかれる立ち上がりがあって家具がなくても成立しているし、施工時には配線隠しにも一役買って一石二鳥だった。ねこたちも好んで歩いているので一石三鳥か。
食事スペースは、タイル貼りの床面とカウンターでねこも人もお揃いに。そして象徴的なキャットタワーでねこたちは屋根裏へ。人がごはん食べる時にねこが縦横無尽に行き来するのはどうなのか、という見方もあるが、カウンターを使う時もあれば気分次第でどこでも食卓を広げられるから問題ない。
中央の引き戸の奥は寝室で、とにかく寝ることに集中出来る真っ黒な空間だ。寝室には引き戸の他にねこ専用出入り口があと2つあるので、冷暖房効率を損なわずねこたちが自由に行き来できる。何より寝る時に近くに来てほしい気持ちの表れだ。
引き戸の左下の床は井戸のように1Fに通じる穴が開いていて、ねこたちが1F⇔2Fを行き来できる“キャットウェル”となっている。ステップはあるものの人間が足を踏み外したら普通に落ちるので要注意w
ちなみに引き戸の正面上部には収納階段があるので、床板を持って上がれば人間も屋根裏で過ごすことが出来る。割と広い。一部はアクリル板が敷いてあり、ねこたちの肉球眺め放題だ。
続いて、リビングの延長上にあるゲーム部屋。
これはもう、ここに一番お金と時間をかけたといっても過言ではないこだわりを詰め込んだ満足の出来栄え。夫婦の趣味であるゲームに没頭できて、且つねこたちが楽しめるスペースとして完成した“キャットヒル”。
写真に写っていない壁二面にディスプレイアームを取り付けてゲームや動画視聴が出来るようになって!いる!!段が円形なので向く方向を選ばないし、好きなところに好きなように腰掛けられる自由さが何とも最高だ。窓際席も良いし、今は一番奥のお籠もりスペースでこれを書いている。奥の壁には爪とぎ用の麻材を貼ってある。
天井を抜いたら三角屋根が出現し、そこに大きなAKARIが満月のように浮かび上がって、他では見たことのない最高オブ最高の贅沢空間が出来上がってしまった。床の左官は世界一。
階段を降りていく。
2Fに全振りしたので、予算の都合上それ以外の部分は黒いクロスを貼って仕上げた。黒の中にも風合いがあって、階段部分は元のままなのに印象がまるで変わってとても良い。手すりもあつらえたように馴染んでいる。
玄関。
和室の障子が、ねこ脱走防止の鍵付き二重扉に生まれ変わった。障子と障子の間に金網を挟んだ、無骨でかっこいい造作扉だ。入り口からこれはアガる。
先ほどのキャットウェルは1Fから見るとこのようになっている。2Fのキャットタワーと同じく直線と曲線を組み合わせたステップがかわいい。と同時に、支えている真っ黒なねじとボルトが井戸のつるべの縄のようで、また違った趣がある。
作業部屋もPEELして、障子を一箇所残したところ物凄い雰囲気漂う部屋になった。 ここにPCデスクや筋トレグッズが配置されることになるのだが、一体どんな空間になるのかまるで想像がつかなくて心躍るw何故かめちゃくちゃ集中出来そうな気もする。
残る部屋はあと一つ。
これまであれだけ空間を自由に出来たのは、何よりこの部屋あってこそだ。
一部屋まるごとWIC(ウォークインクローゼット)というか倉庫!
仏間だった和室のくぼみというくぼみに棚を仕込んで家のありとあらゆるものをここに仕舞い込むことにした。解体時に思いがけず床下収納まで見つけてしまい、半端ない収納力を誇る。引越しの搬入時に、ほぼ全ての段ボールがここに収められたのは壮観だった。
変わってゆく「暮らすこと」の価値観
nekoieに住み始めて2週間と少し経ってみて、変わったのは単に居住空間だけではなかった。私自身の「暮らすこと」の意味合いがゆっくりと大きく変わっていっているのを、日々感じる。
生活の基本は衣食住と言われるが、思い返してみるとこれまで自分の中で「住」が満たされない分「衣・食」に必要以上にこだわって歪なバランスになっていたんじゃないだろうか。食費はかさんでいたし、服は今のWICにぎりぎり収まってない。
満たされないというか、正確には我慢しなければならない、ということかも知れない。気に入った賃貸の部屋があっても、壁に穴を開けてはいけないし、必要なところにコンセントがなかったり冷蔵庫の開きが逆だったりする。あくまで間借りしているだけなんだな、と痛感する度になんだかどうでも良くなる。
「家は綺麗にしなければならない」と幼少期から親に口酸っぱく言われ続けてきたが、自分が良ければ何でもいいじゃんと思っていた。これまでも引越し直後だけは環境変化の新鮮さが手伝って小まめに掃除していたが、気付くとおざなりになっていた。なんなら掃除は夫に丸投げしていたくらいで、私は渋々少し手を動かす程度だった。
掃除は私にとって強いられるものだったし、そういうところに「住」の占める割合の少なさが見て取れるようだ。
それが、今は朝起きて一番にすることが掃除になっている。
過去こんなに気持ちよく掃除機を手にしたことがあるだろうかっていうくらいなのだが、家が出来上がるまでの経緯を振り返ると自然な帰結のようにも感じる。
リビングの床が出来た時、左官屋さんが投稿したインスタストーリーを教えてもらった。それを見て、曲面の多いこの難しい作業をなんて完璧に仕上げてくれたんだ、と胸を打たれた。しかも、この床は使い込んでいくほどに見た目も機能性もより良くなっていくらしい。そんなの、見てみたいに決まってる。
今の家に対する責任は私たちにあるのだ、と思うと、knofさんを始め職人さんたちの技術の結晶をいい加減には扱えない。最高の状態を保ちたい、と思えるから自然と手が動く。多すぎる服は煩わしく感じてきたから不思議だ。
そうして過ごしていると、一分一秒の感じ方まで変わる気がしてきた。ただ生活して時間が過ぎていくだけじゃなく、この家を自分たちが育てていくんだ、という感覚。やればやるだけ空間も時間も濃密になっていくようでとてもワクワクする。
新品のキッチンのステンレスは早速ねこの爪痕がくっきりついたし、最高の左官の床も実は引越し直後にねこの吐いた跡が酸化してちょっと白くなってしまった。でもPEELされたこの木の壁を眺めていると、最高の状態は新しい状態の維持とは違うんだと思えてきて、全部nekoieらしい痕跡だなと許せる。そのくらいの雑さとゆるさで、自分たちらしく暮らしていきたい。
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