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わたしと、リトアニア民芸

突然ですが、かなりの気まぐれで「わたしと、○○」シリーズをやってみたいと思います。


なんでかといいますと、ここで色々と書き留めるにあたって、純粋にもっと自分が「好き」とか「伝えたい」と思うことを書きたいな、と思うからです。


それに、駆け出しながらライター業をしばらくやってみて思うのは、自分の好きなこと・経験に基づいたことは心のこもった記事を書けるし、伝えたいメッセージを盛り込めるということ。当たり前といえば、当たり前だけどね。

自分のポリシーから、身近に感じられない記事執筆は引き受けないのです(取材をするしないにかかわらず、自分まわりの事象や出来事を書きたいのです)が、人生の中で深めてきた思考や経験に基づいた文章を書いていると、まとまらなくてもキーボードを打ちながらぐんぐん湧き出てくるもの。

それは、今までテキトーなブログみたいなページを更新していた頃からそうでしたが、書くことを「しごと」にしたとき、明確に「こんなことを伝えたい!」とメッセージを設定できるのが、個人的には面白いしうれしいな〜と。


とはいえ、このnote自体とても自由に書いているので、別にテーマなんて何でもいいやんって思うのですが、今は思考メモのような要素だったり、もしくは「分かりやすく書こう」という意識がそれなりに強いため、それとは別に、純粋に自分のまわりにあるもの・好きなものについて掘り下げることもしてみたいな~、なんて思ったり。


一方で、全体的にちょっとマニアックな趣味嗜好なせいか「これを書いたところで、見てくれる人はいるのかな?」と渋ってしまうトピックもあるのですが、自分にとって「いい・好き」と思う何かが、誰かのインスピレーションを掻き立てるきっかけになっちゃったりなんかしたら、この上なくうれしいものね。

それは、結局わたしが文章で表現をする「核」でもあるのだけど。


ということで、前置きがか〜な〜り長くなりましたが、自分が好きなもの・縁のあるものごとについて、ゆるく自由に語る「わたしと、○○」、はじめます。


初回は「わたしと、リトアニア民芸」について。


この「民芸」「工芸」「手仕事」はそれぞれ微妙に言葉の定義が異なるかとは思いますが、ここでは「機械生産ではない、人の手によって作られたもの全般」を「民芸(たまに、手仕事って書いちゃっている)」と指すことにします。

で、このテーマを最初に持ってきた理由は、わたしのリトアニア渡航の動機に深く関係しているのと、ちょうどこれを書いている今、ちょうどオンライン上で毎年恒例の民芸市に代わる民芸品販売サイトがオープンしたからです。


おそらく多くの人にとって「リトアニア」と「民芸」というイメージが結びつかないのではないかしら。いや、どうなのかな。

そこらへんはよく分かりませんが、そもそもリトアニアと聞いて「ああ!あの国ね」なんてピンとくる人自体が少ないことは、自分の経験上よく承知しています。


どちらかといえば「元ソ連=旧共産圏」のイメージが強い、という人も多いらしく(うちの両親なんかは、まさにそう)、学生の頃はじめて「リトアニアに行く」といったときの困惑した顔ときたら。


でも、それはほんの一面というか、日本の政党や大企業だけが日本を象徴しているわけではないのと同じように、リトアニアにもいろいろな顔があるもの。

中でも個人的に大好きな「リトアニアの民芸」を巡るお話を、つらつらと書き連ねます。


リトアニア民芸って何?

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(先日のオールドタウンで見かけた、リトアニアのイースター飾りVerbosとイースターエッグ。ちょっと色がどぎつい&一部斬新なデザインあり)


まず、個人的にリトアニアの民芸から受ける全体的な印象は「素朴」「土着的」「あたたかみを感じられる」でしょうか。


素朴、というのは、基本的に自然素材からできているから。代表的なのは藁細工のSodas(トップの画像のやつです)や、さまざまな木を彫ったカトラリー、柳をはじめとした多様な素材で編まれたかご、あたりかしら。

農業もしかりですが、手仕事も家族など小規模で作っているところが多く、材料から自分たちで育てている場合もある。


さすがに今は、時代の影響で鮮やかな化学塗料・染料を使ったのかな?というものもよくあるので、自分で購入するときは、極力そのへん避けるようにしています(それでも、止むを得ない、というものは、ある)。


たとえば、藁細工のSodasが、陽射しを受けて黄金色に光る様子の、なんと美しいことか。

フレッシュな柳のかごや木製カトラリーは、使い込むごとに色を深めていき、年季が入ると重厚感すら漂うもの。


どれも基本的に大きな機械を使わず、できるだけ人の手で加工し、作り上げる。だから、細やかながらもあたたかみを感じられるし、中には日本人であるわたしには考えつかないような斬新な仕様に「おお!大胆ですね~」と驚かされるものも、確かにある。

それも含めて「人の手の跡」が見られて面白いのよね、民芸って。


陶器とかイースターエッグのように柄のあるものは、基本的に自然からインスピレーションを受けたものが多い。

そのへん、北欧諸国のデザインと似ている部分なのかな〜とも思うのですが、やっぱり国が変わるとセンスも異なるものらしい。

リトアニアのそれは、より素朴で土着的なイメージのものが多い。ように思う。ああ、自然信仰の名残が見られるなあ、とも。


そうそう、忘れてはならないのが、リネン。今でこそリトアニア国内で亜麻を育てるところは滅多になくなってしまったけれど、紡績工場・機織り工房はちょこちょこある。なので「リトアニアリネン」ってことで、衣服や雑貨の作り手さんが結構います。

きっと世界じゅうどこでもそうだったように、かつての暮らしの中では上手に機織りができ、裁縫や編み物が得意なお嫁さんが「よい」とされていたそうな。家族分の衣服をつくるのは、重大で立派な仕事だったわけだからね。いやあ、すごい。


あとは、編み物。実は「編む」という技法自体、リトアニアの中では比較的新しいみたいなのですが、棒編みも、クロシェットも、両方さかんです。

伝統衣装の一部に、ビーズの入った美しいリストウォーマーがあります。刺繍じゃなくて、ほそ~い毛糸にちっちゃなビーズを通し、繊細な模様を編み上げる。この技法は今でも残っていて、実物を目にするたび「これ、つくるのにどれくらいの時間がかかるのだろう」と、勝手に途方にくれています。


ほかにも紹介しきれないほど、リトアニアの手仕事はたくさ~ん残っていて、多くはリトアニア産の自然素材を上手に使って、粛々と手を動かしている。

民芸品ってその地に根付いたものだから、必然的にローカルメイドであるという意味でも、民芸って国を支えているんだなあ、と思います。


「自然と人とが寄りそう暮らし」の、おだやかな理想のひとつ

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(分かりづらいですが、うちにあるかごのひとつ。つなぎ目の文様がバルトっぽい)


これまで紹介したリトアニアの民芸たち、何がスゴイって、今でも人々の暮らしの中にかなり密着しているんだな~という場面によく遭遇すること。


時々行くスーパーでは、おばあちゃんが柳の木で編まれた丈夫なかごを持って買い物に来ているのを見かける。

市場を覗けば、蜂蜜を売るお店の横に、必ずといっていいほどビーワックスキャンドルが置いてあり、冬には蝋燭を買い求める人をちらほら見かける。

かつて滞在した農園では、収穫したハーブをかごに入れることがあり、道具倉庫にはコンテナがわりとして、柳の大きなかごに工具をいっぱい入れていた。料理の相棒は、オークの木でできた木製スプーン。


もちろん、すべての人がそういう暮らしをしているわけでは決してないのですが、少なくともわたしが知っていること・経験した範囲では、かごやリネン・木工品を中心に、今でも丁寧に作っている人たちがいて、大切に使っている人たちがいます。


で、そういう様子を見ていると「民芸と暮らしの距離が近いんだな〜」と思うし、それがわたしにとって「自然と人とが寄りそう暮らし」の、穏やかな理想のひとつなのかも、とも思うわけです。



そもそも民芸品って、本来の「暮らし」の中で必要だな~と湧き出たアイディアを形にしているものであり、長い時間と労力をかけて探究するから「美しさ」と「実用性」がバランスよく備わっていくわけで。


何より、人によって生み出され、人によって長く使われてきた民芸は、経年変化を伴って、さらに美しさを増すもの。色が濃くなったり、傷やシミが付いて「味」が出たり。

そういう意味で、わたしが本当に興味のある範囲って「暮らしの中に生きる手仕事」なんだろうな〜と、よく思います。

だから、人々の生活を支えるのに大切な役割を担っている民芸は「自然と人との暮らし」を体現する上で欠かせない要素だとも。


リトアニアに昔から伝わるRomuvaやPeganのような自然信仰(ざっくりいえば、日本の八百万の神みたいな感じです)が、人々と民芸品を「暮らし」の面で強く結び付けているのも、わたしがわざわざ「リトアニアの民芸」に魅力を感じる理由のひとつです。


リトアニアのお祭りと町と、民芸品

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(ふらりと入ったお店で、つい購入。認証マークの色はレベルによって変わります)


信仰・歴史など、さまざまな角度から民芸品を観察する余地があるけれど、いまだにリトアニア国内では大きなイベントがあるたび、かなりの規模で民芸市が開かれるってのも、なかなかすごいな〜と感心しながら見ています。

今年はさすがに中止となりましたが、ちょうど毎年この時期には「カジューカス祭(Kaziuko Muge)」という一大イベントが開催され、町中に出店が並ぶのですが、まあ手仕事関連の出展者の、なんと多いことよ。


日本のお祭りやイベントって、クラフトマーケットじゃない限り、出店は食品や謎のゲームが多い印象なので、リトアニアの民芸が持つパワーってすごいと思うのです。

初めてカジューカス祭を訪れた時は、出展者のあまりの多さに「手仕事で生計を立てている人(兼業しているかどうかまではわからないが)、こんなにたくさんいるんだな〜」と純粋に感動しました。


で、最初に述べたとおり、今年はなんとオンラインショップが立ち上がりました。わたしのリトアニア渡航の大きな目的のひとつが実はカジューカス祭だったこともあり、嬉しかったです。

そして、色々悩んだ挙句、ひとつだけ小さな買い物をしました。オークの細い幹をくり抜いて作った、素朴なペン立て。いわゆる伝統的アイテムではないけれど、何気にずっとほしかったので。


オンラインで決済を済ませ「嬉しいけど、お祭りのようなコミュニケーションがないのは寂しいな」なんて思っていたところ、なんと生産者の方から電話があり「直接届けに行きます」とのこと。

そして本日、本当に車でやってきて、しかも丁寧に梱包までしてくれて(NOプラスチックで素晴らしい!)、直接「ありがとう」をいえました。


それとは別に、ちょうど昨日は用事があったので、久しぶりにオールドタウンエリアへ行きました。雪が溶けて、以前に比べると営業中のお店の種類も増えていた。

所用を済ませた帰り、ちょっと気になっていたお店へ。入ってみると、なんと一角には小さなかごが並んでいるではないか。

近づいてみれば、リトアニア政府機関から認定を受けた、Lithuanian National Heritageのマーク付き。これは伝統的な技法でモノづくりをするマスターに与えられる認証です。


やはり、この辺でもっとも手仕事に触れることができるのは、オールドタウンエリアのようです。民芸品を扱っているお店が多い、という意味でね。


さっそくお店のお姉さんにかごのことを尋ねると「それ、オークの木でできているんだけど、サイズや色違いがもっとあるよ〜」と次々持ってきてくれました。悩みに悩んで(といっても、わたしの買い物は結構早い方だと思う)、ベージュっぽい色味の小さめバスケットをお持ち帰り。一緒に、主にシュガーをすくうためのスプーンと、蜂蜜をすくう道具(あれ、なんていうんだろう)も。

ふらりと立ち寄って、気軽に手仕事品を購入できるのって、すごくいいな〜と思いました。やっぱり、暮らしとの距離が近いんだな。


ちなみに、このバスケットは台所の野菜を入れるために買いました。これもこれで、ずっとほしかったのです。スプーンは塩用に、蜂蜜の道具はもちろん、蜂蜜用に。

わたしの暮らしの中で、どんどんわたしならではの「味」が出てくるのを、楽しみにしているよ。

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2020年〜2021年、ワーホリ制度を利用しリトアニアに滞在していました。そこで見たこと、体験したこと、感じたことなど。 ときどき思い出し…

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