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◎あなたも生きてた日の日記㊴ ゲストハウス、各自のルール


昨年から徐々に、各地で滞在制作をする機会が増えてきた。
滞在場所に応じてホストの方々が寝泊まりする場所を手配して下さる場合も多く、この話をするとよく友人に「いいなー」「旅行みたいで楽しそう」と言われる。

ただ、その環境は様々だ。宿泊するのはゲストハウスやレジデンス施設であることが多い。いつでも清潔で、プライバシーが必ず守られる環境であるとは限らない。他にも寝泊まりしている人や、場合によってはそこに住んでいる人もいる場所に一定期間滞在する、というのは自宅と違って様々なストレスがあるのも事実だ。たまに「あーこれは潔癖の人だったら絶対に無理だろうな」という所にあたることもある。
ただ私は今のところ楽しく過ごせているようで、特同期間に滞在する様々な人との生活が(特に生活習慣の違いが)おもしろいなーと感じている。


特に展示やパフォーマンスの本番前には、同じ催しに出展するアーティストがたくさん泊っていて刺激的だ。

世界各地で展示している人は、初めてかぐようなスパイスの濃厚な香り漂うお茶を持ってきていたり、色鮮やかで厚さも様々な布を何種類も持ち運んで、気温に合わせて寝床をコーディネートしたりする。
他の国の芸術祭の話を聞いたり、昔出展した催しのトンデモ話などを教えてもらったりしているとあっと言う間に夜がふける。年齢もばらばらなので、先輩方のここに来るまでの生き様を聞くと、「本当に、人間の生き方って様々にあるんだなあ~」としみじみ思う。写真や映像、絵画に音楽、アーティストとひとくくりに言っても表現方法や信念は多種多様だ。

もちろん、滞在しているのはアーティストだけではない。全国のゲストハウスを転々として住み込みで働きながら生きているという人や、長年勤めてきた会社を辞めて次の会社に転職するまで日本全国を旅行している最中という人、大学院でその地域の文化を研究しているため、定期的に滞在しているという人もいる。

このように様々な考えや生き様の人々が集まる場所に泊まるわけなので、生活習慣の違いがばんばん浮き彫りになる。朝型の人や、夜型の人。みんなでご飯を食べるのが好きな人や、一人で食事したい人。音楽があった方がいい人や、無音が好きな人。冷蔵庫内のものを共有してもいい人と、個人で管理したい人。施設内でスリッパを履くのか履かないのかに至るまで、本当に細かいルールがあって、それを同時期に滞在した者同士で逐一確認しつつ決めていく。何となくでいける時もあるし、厳密に決める時もある。メンバーと滞在期間によっても変わってくるのだ。これが結構骨が折れる。

ただ、そんな中でも「自分をいかに楽に過ごさせることができるか」に長けた人たちがいて、その人々の独自ルールを知るのはとても楽しい。ので、今回は「へ~それいいなあ」と思った、これまで会った人々のルールを書き留めておきたいと思う。

◎布を持ち歩く
ある時、「ひざ掛け?ストール?バスタオル?」と何とも言い難い大きさの布を持っている人がいて、つい「いい色ですね」と声をかけてしまった。アフリカに滞在した時に買ったそうで、軽いわりに通気性と保温性に長けている布らしく、「いらないんじゃないかな」と感じた時も滞在前には必ずカバンに入れるという。「ストールとかタオルとか、名前が付いてないから何て言っていいかわかんないんだけど、でも布なんて名前が付く前はみんなそんなもんでしょ」というさっぱりとした言い方が恰好よかった。食事の際に椅子が固いと言って折りたたんで上に座っているのを見て、「座布団にもなるのか…」と思った。
その人が布をぱっと広げると、印象的な柄が目に入って「あっあの人の空間だ」と感じたことをよく覚えている。布一つでこんなに生活が豊かになるんだな、と初めて気づいた出来事だった。

◎他人と自分の食事を完全に分ける
複数人で滞在していると、「今日取材した人からたくさん野菜をもらったので皆さんで食べて下さい~」みたいなことに度々なるのだけど、この先の行動は人によって結構違う。
「ありがとうございます。じゃあカレー作るんで、よかったらみんなで食べませんか?」と提案して、希望者の分もまとめて料理する人。「じゃあ野菜いただきます~」と言って自分の分だけ調理する人。「あ、せっかくですけど大丈夫です」と言って絶対に手を付けない人。
最後の人は徹底していて、冷蔵庫の中に入っている「誰でも使っていいよ」という調味料にさえ手を出さず、持参したもので料理していた。もちろん振舞ったり、振舞われたりすることもない。聞くと、あまり詳しくは言えないけれど、海外に滞在していた際に食べ物周りの事情でもめたことがあり、食事周りの責任を曖昧にすることはやめているのだという。「借りっていうのは、そこにやっぱり上下関係みたいなのが生まれるからね」と言っていたのが印象的だった。

「自分が心地よく過ごせるために」という独自ルールを知るは、どこに行っても楽しい。普通に過ごしているようでも、自分だって相当変わった生活のくせがあるのかもしれない。


(あなたも生きてた日の日記㊴ 身体感覚について⑩)