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英会話について⑤あなたの身体の声を聞いて


どうしようもなく眠い日、というのがある。
寝不足だったり、風邪気味だったりとわかりやすく理由が見つかる時はいい。しかし、特段体調も悪くないし、外も比較的いい天気だし…など、いくら考えても「これだ!」とすっきりする答えが見つからない時がある。
そんな時に受けた英会話の話だ。


「ええーっと…何て言えばいいんだっけ…」
そう言ってしばしば口ごもる。伝えたい内容に適した英単語が全く出てこない。頭がぼーっとして、会話が中断する。相手は粘り強く待ってくれているが、このまま事態が改善する兆しはない。
私は「あー、ごめんなさい。今日は調子が悪いみたい」とギブアップした。

すると、その講師は「OK」と言い、今日はフランクな話にしようと提案してくれる。フランクな話…?と思っていると、「あなたは、一日何食ごはんを食べてる?」と質問が飛んできた。

「何食…?普通に、三食かなあ」
「三食ね、うんうん。それはなぜ?」
「え?」
「どうして一日三食食べるの?」
「えっと…小さい頃からそうやってきたし、社会がそういうルールになってるから?」
「ふうん。そっかそっか」

講師は顎に手をやって、少し目線を泳がせた後、再びこちらをまっすぐ向いてこう言った。

「それは、君の意志?」
「え?」
「君は、三食食べたいって思ってるの?」

あー、うーん…と言ってしばし考える。何となく講師が言いたいことがわかってきた気がするものの、これはおそらく責められているのでは…?と薄々感じ始めてきた。眠そうに授業に出てしまったことを、注意しているのだと思った。

「自分で決めているかはわからないけど、お腹が空いたら食べているよ」

そう答えると、相手は間髪入れずにこう言った。

「それは本当に身体の声?」

身体の声。あまりにも自然に出て来たその言葉に、意表を突かれた気持ちになる。

「本当に身体が食べたいタイミングで、適した量を食べられてる?」

よりかみ砕いてくれたその言葉に、「そこまでできていない、何となくで食べてしまっていると思う…」と答える。すると、講師は自分もお腹を指さして言った。

「わかるよ。自分もそうだったから。5年前まで、体重が今より15キロも多かったんだ。ここに浮き輪が付いていてね」

相手がお腹を掴みながら海に浮いているジェスチャーをするので、思わず笑う。相手も笑いながら、「本当に、身体の声が全然聞けてなかったんだよね」と言った。

「身体がつらい時って、やっぱり何かしら身体の声が聞けてない時だったりするんだよ。だから、最初にまず2食にしてみたんだ。そして、起きる時間と寝る時間を、いくつか実験してみて、自分に一番適したサイクルを見つけた」

だからそんなにスリムになったの?と聞くと、うんうんと頷く。

「でもね、それは社会で言われてる『この時間に寝るといい』っていう時間でもないし、『このくらいは寝た方がいい』っていう睡眠時間でもなかったんだよ」

相手は、まっすぐにこちらを見て言った。

「いい?自分の身体のことは、自分で決められるんだ。食べる回数も、量も、全部自分で決めるんだよ。あなたの身体のことは、あなたの身体に聞いて決めなきゃだめだ」

あああ…本当だね、本当にそうだね…思わず声が漏れていた。最後に相手は「なんか今日の授業は何を教えてるのかわからなかったね」と言った。でも、私はこれまで受けた授業の中でも上位に入る、とてもよい教えをもらったなあ…としみじみ思っていた。


(あなたも生きてた日の日記⑭:英会話について⑤)