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◎もしもしからだ はじまります



2020年は、「まさかこんなことになるとは」な出来事が続発した1年だった。


まず、今も続くこのコロナ禍のこと。

1年前の今は、横浜にダイヤモンドプリンセス号が着いた頃で、まだそんなに危機感はなかった。


その頃、私は劇団で「無言劇」の稽古をしていた。
無言劇とは書いて字のごとく、役者が全く喋らない演劇のこと。
ちょうど自分の書く会話劇に疑問が出て来た時で、「このまま誰かの悩みばかりを種にセリフを書いてていいのか?」「演劇でしかできない表現ってなに?」と思って、いっそ言葉を全部排除した劇をやろうと思い立ったのだ。


その劇で、私は今までの演劇観がまるごとひっくり返るような大きな衝撃を受けた。


冒頭、植物に扮した俳優が、土に模した一枚の布から出て来る場面。
役者の身体がぐーっと伸びると、布がその身体にぴーんと引っ張られる。
布はそのままはち切れるぎりぎりのところまでいき、ふいにぱっ…と地面に落ちた。


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これだ……!と思った。

その時、私は「うおおおお」と叫びたいくらいに感動していた。
「今、この光景は、世界中でここでしか見られなかったのだ」と強く感じた。自分で書いた劇なのに、それは自分の想像を超えていた。
そうか、これが演劇なのかもしれない、と思った。
身体がそこにあること。それによって世界に変化がもたらさせること。再現不可能な何かを見届けられること。
感情や理屈だけではない景色が、そこにはあった。そして、何よりその景色を生み出した俳優の身体に惚れ惚れした。


その時、私は今後の芝居の方向性を決めた。

「もっと身体のための芝居をしたい!」

そう思ってやる気満々になった矢先。

あの緊急事態宣言が出た。

目に見えないウイルスに私たちはなすすべもない。
ある国の、たった一人がかかったウイルスが、こんなに身近にまで迫ってくるなんて。
演劇で試したいあれこれを考えながら、世間のほとんどの人がそうだったように、私も家でじっと過ごすしかなかった。


すると、案外おもしろかったのだ。
外に出なくなって、じいっと身体を観察する時間が増えた。

ウイルスを取り込んでしまう無防備な口と鼻の形状のこと。
1日中座っていたことで負担がかかり、激痛が走ってようやく気付いたお尻の存在意義。
部屋の中で過ごす時に、知らず知らずにしている身体の数えきれないほどの癖。

身体を観察していると、飽きることがなかった。
ふとそれを小説にまとめてみようと思い、誰かに見せるあてもなく、身体のための作品を立て続けに書いた。それが夏の頃。


そして、二つ目の「まさかこんなことになるとは」がやってくる。

その小説を元にして書いた戯曲が、ある賞の最終候補に選ばれたのだ。
応募しておきながら忘れていたので、知らせを受けてニトリの駐車場でめちゃくちゃ驚いた。「なんで???」と思った。
やっぱり、コロナ禍で「身体」に対する意識が高まっているんだろうか。
それがたまたま戯曲賞の流れとマッチしたのだろうか…?


この戯曲賞には「最終審査が公開される」という特徴があった。つまり、審査員が候補に残った戯曲について意見を言うのをそのまま見聞きできるのである。

公開審査当日、自分の戯曲に対して審査員の口から
「コロナ禍になって、身体の感覚がぐっと内側に向いたのかな」
という声を聞いた時は、もう本当にパソコンの前で(配信映像を見ていた)うんうん頷いた。
やっぱり身体の書き方とか、視点で選んでもらったようだった。

しかしやはり色々よくないところがあって、
「色んなところがあまい」
という言葉を聞いた時は、なんでかげらげら笑ってしまった。「そうですよね」という感じだ。自分の身体にこもって書いた昨日だから、読み返すと、リサーチも全然足りていないし、言葉の選び方も未熟、反省点を上げればきりがない。「ドラマがない」「もっと詳しく書けばいいのにと思うところがある」などの指摘はすべてその通りで、清々しい程だった。

身体についてもっともっと、真剣に取り組まねばならない。
そう決意した瞬間だった。


2年前、noteで【からだの感覚を取り戻す】というコラムを週一で更新していた。
これは保健教材の出版社で働いていた時に勉強したことを、書き残せないかと思って始めたものだ。鼻や髪、口や歯…人間の身体の色々な部位について書いた。正直、「身体」のテーマで2年も続けるのは無理があるのではと思い、去年は新たに「食」をテーマに1年書いた。

しかし、あれから2年経って色々な「まさかこんなことになるとは」な出来事があった。
そして今、新たに書きたい身体感覚がたくさんある。

結局身体にかえってきた。
今日から1年間は、【もしもしからだ】と銘打って、ちょっとした「身体の気付き」を書いていければと思う。


もしたま~に読んでくださる人がいるなら、こんなに嬉しいことはない。
気長に、気楽に。それでは、またよろしくお願いいたします。


(もしもしからだ①)


【戯曲賞に応募した作品は以下で読めます。よろしければ|丁寧なくらし】
https://www-stage.aac.pref.aichi.jp/event/detail/000467.html