〆切本
しめきり。
そのことばを人が最初に意識するのは、おそらく小学生の夏休みです——。
本書は、明治から現在にいたる書き手たちの〆切にまつわるエッセイ・手紙・日記・対談などをよりぬき集めた“しめきり症例集”とでも呼べる本です。
いま何かに追われている人もそうでない人も、読んでいくうちにきっと「〆切、背中を押してくれてありがとう!」と感じるはずです。
だから、本書は仕事や人生で〆切とこれから上手に付き合っていくための“しめきり参考書”でもあります。 〜本書まえがきより〜
どんな仕事にも〆切はあります。企画書、プレゼン資料、納品物。
この本には名だたる文豪、作家たちの〆切とまつわるエピソードが綴られた言わば言葉のプロフェッショナルによる〆切言い訳集。たとえば、
”用もないのに、ふと気が付くと便所の中へ這入っている。”
”鉛筆を何本も削ってばかりいる。”
”二十分とは根気が続かない”
”私は毎日、イヤイヤながら仕事をしているのである。”
”今夜、やる。今夜こそやる。”
”ところが、忙しい時には、ねむい。”
などなど。
誰もが経験したことのある〆切に苦しめられた時の気持ちを代弁してくれる言葉の数々。
そして本書は、“〆切”の効能•効果についても興味深く掘り下げている。
「いくら時間があっても、それで仕事ができるものではない。」とはエッセイストの外山滋比古氏。
昔から、“京の昼寝”と言って農家や田舎の人たちは朝から晩までよく働く勤勉なのに対して都会の人間はぶらぶらと遊んでいるようでいて実はいろいろな事を考え、そして実績も出していく。
もちろん田舎の人たちのライフスタイルが悪いという意味ではなく、問題は時間があり過ぎることがいい仕事につながらない場合もあると指摘。
〆切<終わり>が迫っているという危機感が自分の能力を飛躍させ、苦しさの後にはきちんと報いあると説いている。
確かに仕事を先にのばせば、どんどんやりにくくなり、出来栄えもイマイチ。
今日やる仕事を明日やろうと思っていても、明日にはまた明日の仕事が待っていて、気がつけばどこから手をつけていいのか分からない状態、まさに巧遅は拙速に如かず。
〆切というヤツは自分をみがく砥石にもなり、また自分を苦しめるムチにもなる。何より人生そのものに寿命という〆切がある。この〆切は明日かもしれないし50年後かもしれない。やっぱり今日できる事は今日やるのが一番だと頭ではわかっているけど、やめられないのが人の常。
夏目漱石から村上春樹まで90人の書き手による〆切話は、一流の作家たちも自分と同じ事でつまずき、乗り越えているんだと、読み終わるとなんだか勇気がわいてくる一冊。
〆切を明日に控えている人にこそ、パラパラめくってみると気持ちが楽になれますョ。
と、書きながらこの原稿も〆切当日にギリギリに書き終わったのでした。
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