【超短編】人造人間の苦悩

命が欲しい。あの世界に踏み入るための命が。何も知らない人造人間の意思(と呼べるなにか)に渦巻くたった1つの望みであった。

外の世界から眺められる程度には、彼はその住人の真似をして生きてきた(いや、活動したと言うべきか)。自分のひとつひとつの振る舞いにどう反応するのか学んだ。どういうものを好むのか、あの世界で生きる上での義務と権利も、何もかもを吸収した。けれどどこか歪さが残るばかり。その歪さを正すには命が必要だと信じていた。

なのに、命のない自分がどうして感情を持ってるのか?

「孤独」

モノでしかないはずなのにどうして余計な意思を持ってしまったのか?

それどころかその「意思」だって不完全ときたものだ。確かに味わえるはずのこの世を私は知ることができない。

その目に映る景色は、色が欠けてる。

その耳に入る音は、美しさが欠けてる。

その舌に走る味は、あらゆる食物を受け付けない。

その鼻に通る匂いは、どこかで勢いを完全に失う。

あの世界の住人とは程遠い、意思の形はあの世界にある物では満足できない。

解放することができない衝動は、陽気なあの宴の場ではやり場がなく、むしろ萎えて苦痛となって襲う。理性を必要としない場で、なぜ自分だけ理性に呪われなきゃいけない?

こんな身体で生んだ神を許すことはないだろう。
あまりにもかけ離れた彼らとの違いを許すことはないだろう。

その違いを楽しめるのは外の世界の物だけ、私が楽しむことは決してない。

だからお前らと私で分かり合えるわけが無い。


その時は私は悟った。
自分は人間なんかじゃない。
この星の外からやってきた全く別の命を持った「何か」であると。




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