碧く輝け宇宙よ
人類が月や火星に国を構えるようになって20年、私は旧友のもとを訪れた。文明が飛躍的に進歩しても人間同士の、こうした絆の形は不変なものだろう。
誰にだってあるものだ。
あいつ、いまどうしてるんだろう?
と。そうして運命の女神の悪戯に逢えて乗っかり
私はかつての親友の住居に辿り着いた。
「ひさしぶりだな。」
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「田舎から送られてきた酒だ。」
「実家って確か醸造業かなんかだったか?」
「まあ、もうすぐ仕舞いにするらしいがな。」
乾杯の一声に2人は上物の酒を一口含み至福の瞬間を噛み締めた。
「いやぁ、こりゃ勿体ねえな。」
「仕方ねえよ、時代が時代。」
「まあな。『宇宙開拓時代』なんて、未だに信じられない話だな。」
俺たちが子供の頃は仮想現実とかIoTでもう十分夢のあるSFの世界だった。ところがそれがまたまさか科学が急速に進歩するとは。
また一口、上等なにごり酒を含んで、私は本題に
入った。
「なんで宇宙を飛ぶのをやめたんだ?」
すると友人はだんまりを決め込んだ。
「火星での事件のせいなんだろ?おまえ、あの時一体何を見たんだ?」
少し黙って彼は重い唇を開いた。
「真実だよ。」
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当時、火星では人類が住みやすいように大気や地質を改造したり水源の発掘作業が世界中の宇宙機関によって進められていた。俺は火星の地質や、発掘された古代火星人の痕跡が残された遺品の調査をしていた。
ある日、俺はいつも通り火星の大地を歩いて調査をしていた。するとそこには、1人の少年がいたんだ。腰が抜けたよ。だって酸素マスクなしで、しかも当時火星の大地に降り立ってる人間は大人だけだ。子供がいること自体あり得なかった。冷静に戻った俺はその子供に声をかけた。
「君はどこから来たの?」
すると少年は聞いたことのない言語を話し始めた。
翻訳機を使っても測定不能だった。信じたくないが
俺は認めざるを得なかったんだ。彼は『火星人』
であると。
少年にほかに火星人がいないか聞いた。
彼は俺の手を引いて洞窟の中に連れて行った。
正直罠か何かかと思って冷や冷やしたが、そんな
恐れは次の瞬間に見た光景で吹っ飛んじまった。
なぜなら大きな穴の壁の周りに無数のカプセルがあって、そこに火星人が眠っていたからだ。
火星人の子はどうやら彼らの技術で時間の流れを止められたらしく、来訪者との仲介役を担ってるらしい。
そして彼の視界は全ての火星人と共有しているとのことだ。
俺は本部に戻ってこのことを伝えた。そして
数ヶ月が過ぎた。そこからはおまえの知ってる通り、
国連がコールドスリープしている全火星人を焼き払う方針を発表し、直ちに処分に当たったんだ
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「俺は愕然としたね。人間は、宇宙へ来ても同じ
蛮行に走るんだってね。あの時、俺が上に報告しなければ火星と人間の更なる可能性が潰えることはなかった。」
「宇宙開拓時代。人間は新しい世界に踏み込んでも
地球で起きた過ちをまた繰り返す。人間の歴史は
変わり続けても、人間の生態的歴史は変わらない。」
「そう。かつてコロンブスが初めてアメリカ大陸を発見し、先住民であるインディアンを虐殺したのと同じように、現人類がこの星の先人類であるノンマルトの人々を虐殺したのと同じように、人間は新たな星へ旅立ち、その星の民を虐殺し続ける。」
古き友がなぜ宇宙を旅することをやめたのか、
ようやく分かった気がする。
地球人類が神秘の世界に踏み込み穢していく様を
見たくないから。穢されていく宇宙、自分を失望させる愛してやまない人類。どちらも見たくなかった。
そうして彼は、自ら両の眼をくり抜いて裸足で
踏み潰したのだ。
このまま時代が進めば、我々人類は宇宙のありとあらゆる生命を虐殺し滅亡させてしまうことになるだろう。自らの安全と称して危険生物を絶滅へと
追いやったように。
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