ちょっこら哲学でもしてみませんか?~「プロタゴラス」~

 「哲学書を読んでみたいけど、少しハードルが高いな」と感じる方に向けて、入口になれるようなシリーズを書いていこうと思っています。

今回はプラトンの著作である「プロタゴラス」を紹介していきます!

0.そもそも、おもしろいの?

 哲学者といえばソクラテスって方も多いと思います。だけどソクラテス自身は書物を一冊も残していません。

 弟子であるプラトンがソクラテスのエピソードを紹介しているのです。そのエピソードの一つが今回の「プロタゴラス」です。

 「プラトンとかソクラテスとか、なんか遠い昔の人たちの話を聞いて楽しいの?」と思う方もいるでしょうが、そんなことありません。おもしろいです。

 探偵ものって、僕は割と好きなんです。探偵が名推理を繰り広げて、犯人をどんどん追い詰めていくところって快感じゃないですか?

 もしもその感じが好きだったら、「プロタゴラス」に限らず、プラトンの本で繰り広げられる議論も十分に楽しむことができるはずです。なぜなら、探偵の推理とソクラテスの議論が似ているからです。

 どんなところが探偵ものと似ているか、まずはソクラテスの議論の運び方を見てみましょう。

 ソクラテスの議論のやり方は大体決まっています。

 まずは相手の言葉を聞きます。普通の人が聞くと、「なるほどな」と思ってしまいます。しかし、ソクラテスは違います。そこで相手の意見で当たり前に同意できそうなものをピックアップします。そしてその意見をきっかけに議論を推し進めることで、はじめ相手が主張したかったこととは反対のことを導き出してしまうのです。

 これってやっぱり探偵ものに少しにていませんか?

 まずは犯行現場を見ます。普通の警察が見ると、「自殺か」と思ってしまいます。しかし、名探偵は違います。そこで犯行現場のどうってことのない証拠をピックアップします。その証拠をきっかけに推理を推し進めることで、真犯人を導き出してしまうのです。

 ね、こう並べてみれば似て見えてこないですか?

 


1.登場人物

 たくさんの登場人物が出てきますが、この2人だけが重要です。

ソクラテス・・・主人公。ソフィストの活動に疑問を持っている。当時36歳くらいで、血気盛んにソフィストに食らいついていく。

プロタゴラス・・・百戦錬磨の老獪なソフィスト。当時60歳近く。

 この二人、ソクラテスとプロタゴラスがバチバチな対話を繰り広げていきます。



2.ソフィストって?

 上で当たり前のようにソフィストって言いましたけど、そもそもソフィストってなんでしょうか?

ソフィスト・・・当時の先進的な知識人。主に弁論の技術を教えることで生計を立てている。

 こんな感じです。「ふーん、弁論の技術ねぇ、あんまりピンとこないね」と思われるかもしれませんが、今でいえば自己啓発業界の人が、このソフィストと重なる部分があるのではと思います。

 当時ソクラテスが暮らしていたアテネでは、直接民主主義を採用していたんです。要は、国民全員が政策決定に関わっていたということです。

 今の日本は政治と言ったら政治家さんがやるものです。もちろん国民は投票することで政治に参加はできます。しかし、政策を決定するのは政治家だけです。だから、国民みんなを説得するってことはあまり重要じゃないです。

 対して当時のアテネでは、国民みんなが政策決定に関わっているので、政治家は、社会的に成功するために国民みんなを説得しなきゃいけなくなります。そうなると弁論術ってことがとても大事になります。

 だからソフィストって人たちが弁論術を教えるってことに需要があったわけなんです。

 ただ、ソフィストってちょっと眉唾ものって思われたりもしてたんです。特に保守的な人にとっては。「なんだか、人を煙に巻くみたいな語り口を教えている胡散臭いやつがいるぞ」って感じで。

 これって自己啓発界隈と似ていませんか?社会的成功のための方法をお金をもらって教えること、そしてその存在が少し眉唾ものだということ。

 もちろん自己啓発全てを否定するわけではありません。価値のあるものもありますが、ほとんどがパチモンみたいなものです。これはソフィストについても言えますが。

 

3.なんでソクラテスはソフィストが嫌いなの?

 先ほどの人物紹介で、ソクラテスは「ソフィストの活動に疑問を持っている」と書きました。なぜそう思っているのでしょうか?

 先ほど「ソフィストは自己啓発と近いじゃん」という話をしたのですが、この理由においては少し事情が違ってきます。

 ここでのポイントは道徳や人格など、人としての善さに関わることです。

 自己啓発って全部じゃないですが、要はお金をより稼げるようになる方法論が最重要じゃないですか。対して、人格とか道徳とかってあまり重要視されてはないと思います。

 例えば、「自己啓発で確かにお金は儲かるかもだけど、立派な人格者になれるの?」って聞かれたら、多くの人が「う~ん」と微妙な反応をするでしょう。最低限人としてのマナーは守るけど、そこまで道徳みたいなものを気にしないというのが多くの自己啓発の立場じゃないでしょうか。

自己啓発と立派な人格は別物だということです。

 対してソフィストは、多少眉唾ものであるにしても、人間の徳について教えることができる存在だとされていました。

つまりソフィストは立派な人格と関わりがあるとされていたのです。

 ここで「徳」について簡単に捕捉を。徳とはそのもの固有の優れた能力のことを指しています。ナイフならよく切れるのが徳、馬なら速く走るのが徳。

 すると、人間の徳は何でしょうか?徳と聞くと道徳的な事と感じるかもしれませんが、それだけでなく、勇気や知力なども含まれています。ここで話題の弁論術も、徳のひとつというわけです。

 だから「弁論術=徳=立派」みたいになります。ソフィストは弁論術という人間の徳を「人に教える」ことができると言い張っています。人に徳を教える方法論があるということです。

 なんか人間としての徳を教えるってなんか傲慢な気がしませんか?そこにソクラテスは「あれ?」って思うわけです。


4.最後に

 というわけで、最強のソフィスト・プロタゴラス vs アンチソフィスト・ソクラテスの議論が繰り広げられていくのです…

 以上の背景が分かれば、「プロタゴラス」を楽しめるんじゃないかなと思います、と言って締めたかったのですが、あまり「プロタゴラス」の個別の話題には触れられなかったです。

 どちらかといえば、プラトンの本(主にソクラテスが出てくる対話篇といわれるもの)を読むときの背景みたいな話になってしまいました。

 「プロタゴラス」の内容についてはまた次回踏み込んでみようかなと思います。

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