青年の青臭い告白~ユウと僕①~
僕「なぁ、なんで僕ら生きてるんだろう…」
ユウ「なんだ、中二病が発動か?」
僕「茶化さず聞いてよ。ユウはさぁ、何のために生きてる?」
ユウ「何のためって、理由なんてないよ。俺はただ自分がなるべく楽しくなるように生きるだけさ。目的なんてないさ。逆にお前は何かあるの?」
僕「よくわからなくなったから聞いてるんだ。」
ユウ「そのうち自分探しの旅にでも出るか?」
僕「別に行かないよ。ただ、漠然とそう考えちゃうんだよね。」
ユウ「そんなもん、考えるだけ意味ないんじゃない?もっと気楽にいけばいいっしょ?」
僕「そうかもだけどさ、ユウは空しくなんない?目的のない人生なんかさ?」
僕とユウとは保育園からの幼馴染だ。高校2年生になる今日までずっと一緒にいる。今は電車に乗って家に帰っている途中。ふと変なことをユウに口走ってしまった。普段はそんなこと話はしないのだが。最近、人生がむなしくて仕方がない。別に死にたいって程深刻なわけじゃない。ただ、眠りにつく瞬間とかに、このまま眠り込んで一生起きなかったらどれだけ楽だろう、なんてことを考えることが多くなった。とにかくモヤモヤしてるんだ、最近。だからそんな言葉がふいに出たんだと思う。
ユウ「お前最近辛気臭いな。休み時間中ずっと本なんか読んでるし。なんか変な思想でもすりこまれてんじゃないか?」
僕「本を読むようになったから変わったんじゃなくて、変わったから本を読むようになったんだ。」
ユウ「あ、そう。で、どんな本読んでんの?」
僕「ソクラテスとか。」
ユウ「ソクラテス?ソクラテスって、なんかテツガウシャってやつ?」
僕「そうだね。」
ユウ「お前やっぱり疲れてるよ。」
僕「疲れてるのは確かかもね。でもユウ、僕は考えないとどうもソワソワしてならないんだ。」
ユウ「・・・。で、そのソクラテスさんとやらは、お前のそのソワソワを何とかしてくれるのか?」
僕「うーん、時代劇を見てる感じかな。」
ユウ「それ、どんな感じだよ?サムライでも出てくるのか?」
僕「だから茶化すなってよ。そうじゃなくって、時代劇って基本勧善懲悪じゃない?」
ユウ「水戸黄門のこと?黄門様が助さん角さんの力と印籠の権力で相手を一方的にねじ伏せるやつ。」
僕「なんか黄門様に恨みでもあるの?」
ユウ「いやいや、俺は事実を言っているまでだ。」
僕「まぁ、いいや。僕はそこまでは言わないけど、黄門様って相手を悪者として断罪するだろ?自分の行為が絶対に正しいみたいに。ソクラテスも自分の活動がいいことだって疑わないみたいなとこがあるなって、思うんだよね。」
ユウ「ふーん。てかさ、お前はなんで哲学の本なんて読もうと思ったんだ?」
僕「・・・ユウはさ、道徳とかってどう思う?」
ユウ「道徳?小学校でやったあの説教臭い奴か?」
僕「あれもまぁ、一部だけど、もっと幅広い問題で、善く生きるってどんなことか、とか、人生に生きる意味ってどんなものか、とか、そんな疑問にかかわることだよ。」
ユウ「なるほど、お前はそんな説教に毒されちまったのか・・・」
僕「待ってって。別に毒されちゃいないよ。小学校の道徳ってなんか結論ありきで、子供だましだなって僕も思うさ。そんな風な説教じゃなくて、シンプルにさ、善く生きるってどう生きることなんだろうなって、最近よく考えるだよね。」
ユウ「俺には十分説教臭いけど。なんか、お年寄りを大事にするとかそんなことか?」
僕「それも小学校の道徳のお説教じゃん。」
ユウ「お、ではお前はお年寄りを大事にしないのか?」
僕「あーもう、違うって!」
ユウ「ごめん、ごめん」
僕「例えばさ、お年寄りを大事にするのがいいことってするじゃん?でも、いつでもそうすればいいってわけじゃないでしょ?お年寄りを大事にしすぎるのは逆に若者差別にもなるわけじゃん?」
ユウ「別に俺は差別するほど大切にしろとはいってない。」
僕「そうだとは思うけど、お年寄りを大事にするっていうだけじゃ、善く生きることが何なのか、わからないだろ?人生はもっといろんな場面があるわけだし。」
ユウ「それなら、他人の嫌ことをしないことがいいことだ、とかって言えばいいんじゃないか。」
僕「なるほど。ではユウくん。いくつか質問してもいいか?」
ユウ「なんだ、急に偉そうに。」
僕「君は他人に嫌なことをしないのがいいことだと言ったね。」
ユウ「おう。」
僕「ということは、それはどんな時でもそうかね?」
ユウ「まぁ・・あえて嫌なことをするのはよくはないはな。」
僕「ではユウくん。誰かがあなたに暴力をふるおうとしてきたら、どうしますか?」
ユウ「暴力をふるうなら警察に電話するな。あれだったら慰謝料ももらうかな。」
僕「その相手は警察に捕まったり慰謝料を払うことで、嫌な気持ちにはならないのですか?」
ユウ「そりゃなるだろうね。自業自得だね。」
僕「となると、警察に通報して慰謝料を請求することはいいことだといえるのかね?」
ユウ「まぁ、暴力ふるうやつが悪いわな。」
僕「では、ユウ君は相手に嫌なことをすることで、いいことをしていることにならないかね?」
ユウ「この場合はそうなるな。」
僕「では、相手に嫌なことをしないというのは、いいこととは言えなくなりませんか?」
ユウ「・・・なんか、お前むかつくな。」
僕「ごめん、ごめん。今のは僕の本心というよりも、ソクラテスの真似をしてみようとしただけだよ。」
ユウ「今のが?」
僕「うん。」
ユウ「いったいどんなことがソクラテスの真似だったんだ?」
僕「まぁ、うまくいってるかわかならいけどね。ソクラテスは『善とは何か?』みたいなことをいろんな人に問いかけまくったみたいなんだ。」
ユウ「不審者じゃん。」
僕「・・・それでね、相手が何か答えたとするでしょ?そしたらソクラテスは、相手の答えを利用することで、相手が意図していない悪い結果を導き出してしまうんだ。」
ユウ「意地の悪い不審者じゃん。」
僕「悪く言いすぎじゃないか?」
ユウ「だって、相手を論破して喜んでるだけでしょ。」
僕「いや、ソクラテスの目的は論破することじゃなんだよ。ソクラテスは善とは何かを考えてもらうために、わざわざそんなことをしてたんだ。多くの人は善についてわかってるつもりでいるけど、実は何もわかっていないんだ。だからそのことに気づかせようとしてたんだよ。そして善について考えるよう、人々を仕向けたんだ。」
ユウ「あぁ、それ知ってるぞ。無知の知、ってやつだろ?」
僕「最近では、不知の自覚っていう風に訳されてるらしいけどね。」
ユウ「ふーん。でも、なんか偉そうだな。」
僕「うん、そこがちょっと僕も引っかかるところなんだよね。」
ユウ「お、今度はソクラテスを擁護しないのか?」
僕「別にもとから擁護するつもりもないけど。ただ、さっき水戸黄門みたいって言ったじゃん。」
ユウ「おう。でも全然水戸黄門じゃなくない?さっき水戸黄門は自分のことを絶対に正しいと思っているって言ったけど、ソクラテスはそれを決めつけず、いろいろと頭ひねって考えようとしてたんだろ?」
僕「うん。でもある面ではソクラテスも自分の善さを疑ってないような気がするな。」
ユウ「どこが?」
僕「ソクラテスは問答することで善の内容をいろいろと吟味してはいたよ。でも、問答して相手に善について考えさせること自体は、当たり前にいいことだって決めつけてると思うんだよな。」
ユウ「なるほど。神や仏の使いにでもなったのかって感じはするわな。」
僕「だからユウにもソクラテスっぽい問答をしてみて、どんな感じなのかを知りたかったんだ。」
ユウ「なんだ、俺はモルモットってか?」
僕「実験結果は、やっぱり水戸黄門みたいな感じがするかな。問答すること自体がやっぱり独善的というか、何かを押し付けてこようとしてる感じで、ソワソワするんだよね。」
ユウ「ふーん・・・あ!」
僕「どうした?」
ユウ「駅、通り過ぎてる。」
僕「あ」
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