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クイズ!ブルートレインが走るのは今どこだ

以下は件のブルートレインの車内ルポです。

 私は少し鉄分が人より濃いめなので、ブルトレに乗りたくて乗りたくて、たまらなくなって乗ってきました。荒い揺れがテッチャンにはかえって心地よいものでした。

 このブルトレの車内ルポ。2015年現在どこを走っているブルトレなのか、わかりますか?

 非髭面の、イギリス人だが自分はウェールズ人だと言い張るルイーズのイヤホンから、なんだか分からない洋楽がジャカジャカと流れていた。小さな液晶画面随分とボロい初代アイフォンだ。寝台列車特有の、微妙に薄暗い照明の中で、ステファン・ドナルドソンとかいう作家の、ずいぶん分厚い黄ばんだペーパーブックスをブルトレの寝台二等席上段で脚をブラブラさせながら読んでいた。

 列車がスピードを上げるにつれ揺れがどんどん激しくなった。ルイーズの眉間の皺が徐々に深くなり、オウ、メン、とかなんとか言って、彼はついに読むのを諦めた。

 よく揺れてるよな、というようなことを私の上の席で寝るニュージーランド人のピートが言った。二人は古い友達で、今回久しぶりに二人で連れだって一ヶ月間東南アジアを周遊している最中だということだった。

 先ほどから、鉄道マンなのか、鉄道警察なのか区別の付かない制服のデップリ太った浅黒いおっさんがしょっちゅう通路を通り、そのたびに目が合った。腰につけたトランシーバーからなんだかよく分からない間延びして言語が漏れ聞こえていた。

 小豆色の作業着をきたおばさんが夕食をまた売りにきた。「ディナー、ディナー、ハンドレッドシックスティ」とおばさんが何故か毎回ルイーズに話しかけ、そのつど「ハンドレッドでなら買うけどな」とルイーズが英語で返していた。

 このやりとりはこれでもう三度目で、どうせまたくるんだろうと思い、「See you later(また会おうな)」なんてふざけて私が言うと、「See you by minute」とルイーズがボケを被せてきて、私はピート一緒になって笑った。ピートも髭面だった。ルイーズの髭はブラウンで、ピートのは金髪の髭だった。

 白人の彼ら二人は料金の安い上段で寝ていて、私が下段。私の向かいのもう一人の下段の人は、気づいたときにはカーテンを閉めてしまっていたので中の様子は分からない。しかし、呼吸をするときの鼻息が時折ヒューヒューと黄色いカーテンの隙間から漏れ聞こえはしていた。

 外の暑さとは裏腹に、車内はこれでもかと天井の空調からの冷風が吹き付けた。寝ていると顔の横辺りに風が当たって、雪山のロッヂにでもいる気分になる。

 隣のブースは白人のカップルで、電車の中が冷えるのを見越してか、セーターにニット帽を二人で方を寄せ合って一つのベッドに腰掛けていた。頼むから夜中におっぱじめないでくれよと思った。白人の奴らがときにそういうことを平気でやることは、何十ものゲストハウスに泊まってきた経験上よく分かっていた。

 あれはオーストラリアのゲストハウスだったか。夜中の二時、二段ベッドが軋む音がする。どちらかが、もう片方のベッドへとそっと進入する音だった。そして布団がごそごそと動き、ふうーっ、と大きな鼻息、「ンゥ、、、」という小さな声と、二人の唾液が交わる音が小さく聞こえ、やがて鼻息はさらに荒くなっていく。

 カップルは、ヤリたいなら個室に泊まれ。安く男女混合ドミトリーに泊っておいておっぱじめてんじゃねえオマエら全部バレてっからな。翌朝そのせいで寝不足になったヤツら全員朝寝坊して、起きるや口々にリビングで悪口言いまくってんの知らないのは当人だけだかんな。ド変態オランダ人。

 しかし考えてみるとこの列車なら、走行音がめちゃくちゃがうるさいのでもしかしたらやっても聞こえない。

 そうなると俄然、わたしも彼女と乗車してイチャイチャしてみたくはなるが、あいにく私にはいま彼女がいない。どうやら隣はそうした白人のカップルで、そのまた隣は若い台湾人のグループのようだ。しかし全体を見渡すと、白人とアジア人とでは白人の割合の方がかなり多いように見えた。また、日本人は一人もいない。


「スナーック、フィフティ」

 今度は持ち物を変えてきた小豆色制服のおばさんが四度目の襲来をかけてきた。

「It's ok」

 ルイーズがまた相手をしていた。

 列車の揺れは時に上下に、時に左右に大きく揺れつつ、時速三十キロほどの低速でバラックのような家々の間を縫うようにして夜を駈けた。ときおり独特のフォルムの寺院がライトアップされているのが暗い車窓の中を流れ、かと思えば裏路地の家族団らんの夕食風景が通り過ぎたりもした。

 車内を散策に出かけると、車両と車両の間の連結部を覆う幕が破れ、そこから雨が吹き込んでいた。そこをさらに進むと食堂車があり、九時もすぎていたので鉄道員達と例の小豆色の制服のおばさんたちが通路で雑談をしていた。奥の食事用のテーブルでは白人たちがタイ料理でビールを飲んで、酔っぱらっているのか大きな声で何かをしゃべり、ときおり歌ったりしながらタバコを吸って、随分楽しそうにやっていた。

 自室に戻る途中、通路を通ったとき二等席の上段で、白人の男の上にまたがっている白人の若い女と目があった。そして、食堂車から再び戻ってきたときにはカーテンは閉められていた。中の様子は気にはなったが、詮索するのははばかられた。

 そう考えると、贅沢にも一等車のチケットを買ったカップルは、いまごろそういったことを組んず解れつよろしくやっていらっしゃるのだろうかと思うといてもたってもいられなくなる。寝台列車には、彼女とエロいことをするという心のトキメキも含めての、えも言われない風情があった。

ーーーゴゴゴゴゴゴゴゴゴォォォウ。

 鉄橋の上を通ったのだろう。音が変わり震動はなくなったが、すぐにまたいつものガタガタとした揺れと、音とが戻ってきた。

ーーーガガン!

 また一つ大きく揺れた。一等車の連中はこれだけ揺れれば自分であくせく体を動かさなくても随分いい気持ちになれるかもしれなかった。

「ワーオ」

 と隣から声がした。発音からして、台湾人だろうか。この列車では日本人にはまだ会っていなかった。

ポーーーーーー、、、。

 と言う間の抜けた汽笛とともに車窓に反対方向に向かう列車が通り過ぎる光が見え、ディーゼルエンジンの排気ガスの臭いが軽く車内に漂った。今度は窓の外がピカピカと光り、列車はスコールの中に突入した。窓を大粒の雨が打ち付け始めた。天井から、雨粒の大きさが伺い知れるバチバチという気合いの入った雨音が聞こえてきた。

 列車は、夜の雨の中をひたすら北へ北へと駈けていた。

 といった感じなのですが、いかがでしょう。

 実際、ちょっとググれば分かりそうなものだと思いますが、このものすごい異空間っぷりが少しでも伝わればと思いありのままの車内の様子を事細かに写実的に文章にしてみました。どの辺りを走っているのか、ちょっと想像をして当ててみてください。結構思った通りの王道の感じだと思います。あ、でも、ドコからドコ行き、といった都市名まで当てたらすごいかもしれません。全然反応なかったら悲しいけれど、自己満なのでそれはそれで良しとするほかはないのが道理。


正解は次回!

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