上村 慎二/かみむら農園
国内10人ほどの有機イチゴ農家!誰もが安全な作物を
■プロフィール
東大阪大学柏原高校を卒業後、幼い頃からの夢だった板前や、運送会社のトラック運転手などさまざまな職業を経験。
35歳の時に妻の実家で食べたナスに感動したことがきっかけで、就農を決意。有機農業の第一人者、上田義輝氏のもとに弟子入りし、1年余りにわたって栽培の基本を学んだのち、2010年に独立就農。
経営が軌道に乗った矢先に、農作業中や選果作業中に、畑で倒れたり、体調不良を感じることが多く、トマト(ナス科)に対するアレルギーがあることが判明。
栽培品目の見直しを迫られるなかで、食物アレルギーを持つ多くの人のために、化学肥料と農薬を使わない有機農法を極めようと決意。
日本では10人程度しか存在しない、完全有機栽培のイチゴ農家として注目されるようになる。
一般社団法人「日本有機農業普及協会(JOFA)」が主催している「オーガニックエコフェスタ 栄養価コンテスト」に2017年から出品し、大根部門で最優秀賞を2回、イチゴとほうれん草は2年連続でファイナリストに選出される。有機JAS認定農家。
■農業を職業にした理由
妻の実家を訪ねた時に、義父が家庭菜園で作ったナスの料理を食べて、「自分もひとを感動させられるくらい美味しい野菜を作りたい!」と35歳で就農を決意。
大阪から京都府八幡市に移住して就業支援センターに相談したが、当時は農業に関する知識がゼロだったため、まともに相手にされなかったが、3カ月後に再び相談に行って、有機農業の第一人者、上田義輝氏を紹介され、弟子入りすることになる。
1年あまりかけて有機農業の基礎を学んだ末、5アールの畑を借りて独立。小松菜を中心にトマトやピーマンなどの少量多品目栽培を始めたが、病害虫で全滅したり、納品先から「葉っぱがボロボロで売れない」と取引を断られたこともあった。
しかし、野菜のえぐみの原因になる窒素系肥料の硝酸が残らないよう、おからや竹チップパウダー、油カスなどの植物性有機肥料にこだわるようになった結果、糖度15度のほうれん草の生産に成功し、3年目にして軌道に乗る。
ところが数年後、ナス科に対するアレルギーが判明したことで、トマト栽培を断念。化学物質過敏症のお客さんに出会ったことも影響して、栽培品目を見直して、オーガニックを極めようと決意する。
冬の収入源として始めたイチゴは、200株からスタートして、徐々に株数を増やし、2022年には1万2,000株まで拡大。日本に10人程度しかいない化学肥料、農薬不使用のイチゴ農家として注目される存在になった。
■農業の魅力とは
支えてくれる人たちに恵まれていたと思います。「ひとを感動させるものを作りたい」と35歳で就農を決意しましたが、最初は有機と慣行の違いも、水耕栽培すら知りませんでした。
脱サラして大阪から移住した時も、妻は「あなただったらできる」と反対せず、就業支援センターでの相談に同行してくれました。そこで紹介された上田義輝さんは、天才的な感覚で野菜を作る有機栽培の第一人者で、僕が今やっている植物性肥料を使う方法は「野菜の味は肥料の味」という教えをそのまま受け継いでいます。
えぐみの元となる硝酸態窒素を残さないための土づくりをしていますが、当初は手探りでやっていたことを、数値化して客観的にみられるようになったことは自信につながりました。
アレルギーのせいでトマト栽培を断念する時にも、ビオ・マーケットの会長が「全量買うから安心して作りなさい」と背中を押してくれたことで、栽培品目の見直しに踏み出せました。今ではSNSなどを通じて有機イチゴの問い合わせが青森など全国各地から寄せられます。
世間には、化学物質過敏症などが原因で、食べることが生死に直結する人もいます。僕も娘がいますが、子供たちは親が選んだものを食べるしか選択肢がありませんから、誰もが美味しく食べられるえぐみの少ないオーガニック野菜を作るのが生産者としての使命です。
■今後の展望
全国で耕作放棄地が問題になるなか、京都・八幡市は大きな農業生産法人が複数あるため農地の空きがありません。
僕も5アールからスタートして、80アールまで農地を広げましたが、あと5年、55歳までに1町分(約1ヘクタール)を今より増やせなければ、現状の規模を維持する計画です。
もしプラスで1町分広げられたら、ニンジンやじゃがいも、玉ねぎなどに挑戦したいと考えています。というのも娘が通う八幡市の小学校では、カレーセットができる有機野菜の要望が多いうえ、隣の京田辺市は有機農業の生産者が少ないので、有機野菜を給食に取り入れたいという私立学校もあるのです。
またイチゴについては、京田辺市の山城北農業改良普及センターの呼びかけで、近隣のイチゴ農家4戸を集めて、病害虫対策や天敵農法などの技術を研究しています。また、誰もがオーガニック野菜を取り入れられる環境を作るために、現在、アグリイノベーション大学校で有機農業を教えています。
生産者として、後進を育てることで、一人でも多く有機農業を志す人を増やしていきたいと考えています。
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