エントリーシートで悩む学生と話してみた
(1)「好き」が創る「仕事の楽しさ」
「受験先組織に惚れろ」志望動機を考える学生によく言う言葉です。でも、企業に惚れるとはどういうことでしょう。まずは、このことについて考えていきます。次の文章は、前トヨタ自動車社長、渡辺捷昭氏が新入社員の時のエピソードです。
「トヨタ自動車の前社長(現副会長)・渡辺捷昭さんの入社時の配属先は、人事部厚生課・給食係だったそうだ。当時伸び盛りの同社は、大量の大卒事務職を採用して配属先がなくなり、人事部のリザーブ要員とされてしまったのだ。仕事は、独身寮や社員食堂で作って出す食事や料理・給仕する人を管理すること。当初は「毎日やることがないままに過ごしていた」そうだ。大卒で天下のトヨタに入社したら、だれもが自動車に関わる大きな仕事ができると疑わなかっただろう。何のために採用されたのか、自分は必要とされていないのだと思い、腐っていてもおかしくない。いつまでも何もしないわけにもいかない。そう思った渡辺さんは現場に足繁く通ってみた。じっと見ていると、社員食堂にはたくさんのムリ、ムダ、ムラがあることに気がついた。そこから渡辺さんのトヨタ流カイゼン活動が始まった。たとえばご飯を一つひとつ弁当箱に詰める作業をなくして、おひつから本人が自由によそえるようにした。単純な話だが、詰める作業がなくなり、ご飯のムダもなくなった。食べる側にとってもストレスがない。他にも思いついたことを次々と実行に移し、社員食堂に経営管理手法まで導入していった。そうした活動が当時始まったばかりのTQC(全社的品質管理)運動のメンバーの目に留まり、渡辺さんは若くしてチームに抜擢された。「社員食堂が私の原点です」と渡辺さんは述懐している。「『トヨタの上司は現場で何を伝えているか』(PHP新書、若松義人著より引用)(役職は2010年当時)」
さて、トヨタ自動車の渡辺捷昭氏の話ですが、「トヨタ流カイゼン」を心から信奉し入社していることが分かる逸話だと感じます。本気で惚れているからこそ腐らずにやりがいをもって働けたのではないかと考えられます。ここまで人を惚れさせるものを持ったトヨタ自動車も凄いと思いますが、ここまでトヨタ自動車に惚れることができた渡辺氏も相当なものです。この記事を読んだときに、企業に惚れるとここまでやれるんだと目から鱗だったことを覚えています。
就職活動で考えると、ここまでやってくれることが分かれば、企業はその人を欲しいと思いますよね。志望先を徹底的に研究し、このように惚れることが志望先から必要とされる第一歩となると感じませんか。自社の本質を見極め、心から自社に惚れてくれた学生は、欲しい後輩であり、欲しい新入社員です。
では、皆さんは、どのような企業研究を行うと、ここまで惚れることができると考えますか。是非、考えてみてください。そして研究して惚れてください。
(2)働く覚悟を持つと本気さが伝わる
企業の理念や社長の言葉などなど、企業研究を行う中で見かけることもあると思います。実を言うとあの企業の理念や社長の言葉などは企業研究の中で最も重要なものなのです。だって、組織の根幹を示す考え方なのですから。でも、理念とかってなんか大きなこと過ぎてよくわからないと思いませんか。ここでは、企業理念や社是をホンダ技研の例で考えてみます。
本田技研工業(株)のホンダフィロソフィー
基本理念
「人間尊重」と「三つの喜び」(買う喜び・売る喜び・創る喜び)
社是
わたしたちは、地球的視野に立ち、世界中の顧客の満足のために、質の高い商品を適正な価格で供給することに全力を尽くす。
運営方針
・常に夢と若さを保つこと。
・理論とアイディアの時間を尊重すること。
・仕事を愛しコミュニケーションを大切にすること。
・調和のとれた仕事の流れを作りあげること。
・不断の研究と努力を忘れないこと。
ホンダフィロソフィーは、「人間尊重」「三つの喜び」からなる"基本理念"と、"社是""運営方針"で構成されています。ホンダフィロソフィーは、ホンダグループで働く従業員一人ひとりの価値観として共有されているだけではなく、行動や判断の基準となっており、まさに企業活動の基礎を成すものといえます。ホンダは「夢」を原動力とし、この価値観をベースにすべての企業活動を通じて、世界中のお客様や社会と喜びと感動を分かちあうことで、「存在を期待される企業」をめざして、チャレンジを続けていきます。<本田技研工業株式会社HPより引用>
さて、いかがでしょうか。すごく大きなこといってますよね。でも、本田技研の社員たちはこのフィロソフィーをよりどころに仕事をしているのです。本田技研という会社を考えるとき、この考え方に立ち戻って指針とされているものと理解してください。この、フィロソフィーに対して本気だと思える次のようなエピソードがあります。
ホンダが1970年にアメリカで施行されたマスキー法のCAA基準(排ガス規制の基準)をクリアする低排気エンジンとしCVCCエンジンを開発していたとき、本田宗一郎(本田技研工業創業者)はこの法律に反対していたビックスリー(当時世界を牛耳っていたアメリカの自動車メーカー3社)打倒のチャンスと捉えた。しかし、ホンダの開発技術者たちは排気に含まれる大気汚染物質を減らし、子どもたちの未来に良い環境を残すために開発をするのだと、宗一郎の考え方に異を唱えた。彼らは競争に勝つことを開発の目的にするのではなく、自動車産業の社会的責任を果たすというより高い視点に立って開発に取り組んでいた。CVCCエンジンの開発を成功させることは、ホンダという一企業にとっても大きなメリットをもたらすが、開発技術者たちは、それ以上により大きな社会的な善(社会善)に自らの仕事の意義を見出していたのである。これを聞いた宗一郎は自分の狭い見方を恥じ大局的な見方を失いつつあると感じて引退の時期を悟ったという。(野中郁次郎 ハーバードビジネスレビュー 賢慮のリーダーより引用)
本田宗一郎氏は本田技研工業の創業者で名経営者と呼ばれた人ですが、この事件をきっかけに自ら引退を選んだそうです。企業の価値観(基本理念・社是・運営方針など)とはこれほど重いものなのです。
(3)今日のまとめ
当然のことですが、採用に当たってこの価値観と異なる人は採りません。逆に、この価値観と同じベクトルを持った人は是非欲しい人材となります。志望企業の企業理念や社是を読み、それがどのように社員に浸透しているかを会社説明会などで実感してください。もし、それが実感でき、ワクワクしたとしたら、その会社を受験してみるべきです。また、そのワクワクを語ってください。それが、良い志望動機になっているはずです