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#小説
エモーションロッカー【ショートショート】#40
「感情のお預かりが完了いたしました。この感情は3日間を過ぎますと・・・」
AIコンシェルジュが説明を終える前に、ビジネススーツを着た男はボックスから出ていった。ボックスの外からは、まだAIが説明を続けている声が微かに聞こえている。
その男は大きなキャリーバッグを引きながら「エモーションロッカー」と書かれた看板の入口から出てきて、バスロータリー方面へと歩いていった。その男の表情は、まるで長時間我
パティシエの優先座席【ショートショート】#40
この街の各交通機関には「パティシエ優先座席」が設けられている。
この街の市民の10人に3人はパティシエで
店舗数は美容院や歯科医院よりも多い。
これは地元出身の国会議員である
甘杉議員の働きかけによるものだ。
スイーツのトレンドは週単位で変わる。
それほどに、この街の市民はスイーツに目がない。
また最近ではスイーツの売り上げの一部が活用され
「パティシエ専用パスポート」制度が導入された。
こ
失恋焼きそば #29
失恋したら焼きそばを食べる。
そんな習慣がY市民の中で、
じわりじわりと広がりを見せている。
はるか昔、顔のタイプを
ソース顔、しょうゆ顔などと
調味料に例えるというようなことが
流行ったという。
(カランコロンカラン)
今日も失恋焼きそばを提供しているお店に
うつむきながら入ってくる人がいた。
「焼きそば…ください」
「お味は、ソース、しょうゆ、塩など
他にも色々あるんですが、どれ
バーチャル社長 #21
バーチャル社長とは、ネット上のビッグデータを活用することで
社員、ステークホルダーとのコミュニケーションや経営を行う
人工知能が搭載された社長のこと。
以前の社長は、常に眉間にシワを寄せながら仕事をしていた。
そのため話しかけづらいオーラが醸し出され、
社員との距離感を遠くさせていた。
それが、コロナ禍も相まって
じわりじわりと業績にも影響が出てきていた。
そこで社長は、
緊急事態宣言下にでき
スベりアレルギー #20
スベりアレルギーとは、
ギャグや冗談が全くウケないと眼の痒みや鼻水くしゃみといった
アレルギー反応が引き起こされる状態のこと。
無論、ウケつづければ症状は出ないが、
緊張感のある場面や大舞台でスベると
最悪、取り返しのつかないことになる。
これは誰にでも発症するが、そもそも普通の人はウケを狙う機会が少ないので
大半は発症したことに気づかずに日常生活を過ごしている。
(出囃子)
「はい、どう
憎悪を収集するロボット #18
SNSが誕生し、インターネット上に悪口や皮肉などが
可視化されるようになってからというもの、
新たなヒト・モノ・コトが誕生しては、それらに侵食され消えていく。
誕生しては蝕まれて消え、誕生しては蝕まれて消え、
このサイクルが常態化していた。
この日も、社会のインフラになるだろうと期待された
あるWEBサービスが惜しまれつつ、サービスを終了した。
その頃からか、各地で黒い煙のようなものが
モクモ
酔っ払う資格 #17
昨今、飲酒運転を始めとする飲酒関連の事故・事件が年々増加している。
これに対し、加害者に対する罰は度々厳しくはなっているが、
世間の処罰感情に反して判決が軽い!などとSNSは度々荒れていた。
複合的な要因も重り不寛容な雰囲気が徐々に醸成されていき
国民の不平不満は募るばかりであった。
この事態を受けて、
政府は飲酒に免許制度を導入することに決定した。
つまり、試験を受け合格しなければ外でお酒が
アニマルカースト #15
人間社会の学校生活においてスクールカーストと呼ばれる
人気の度合いを表す序列が存在するように
ここ動物園内にもアニマルカーストが存在する。
ニホンザルたちは、パンダの人気っぷりを恨めしく思っていた。
「なんだい、特別、愛嬌があるわけでもないってのに、
パンダのところに連日人間たちが詰めかけてやがるんだい。
おかげで俺たちのエリアは閑古鳥が鳴いているよ。」
ニホンザルたちは、この状況を覆すべ
映えテロリスト #14
近年“映え”テロ事件が多発している。
「映えることが正義」を信念に掲げ、
各地にゲリラ的に現れ
世のパッとしないヒト・モノ・コトを
目立ち、美しいものに変えていく。
被害にあった人たちは、
不思議と嫌な気持ちになる人はいない。
メディアもネタに困らないと
映えテロリスト集団を追いかけ続けた。
しかし、全てのものを映え終えたとき、
映えテロリストは、この世から概念もろとも忘れ去られていった。