マガジンのカバー画像

超ショートショート

42
超ショートショートとは、短くて不思議な物語。 「誰でも必ず小説が書ける超ショートショート講座」という本を読んで 「僕にも作れそう…!」そう、思いnoteで投稿することに決めました…
運営しているクリエイター

#小説

エモーションロッカー【ショートショート】#40

エモーションロッカー【ショートショート】#40

「感情のお預かりが完了いたしました。この感情は3日間を過ぎますと・・・」

AIコンシェルジュが説明を終える前に、ビジネススーツを着た男はボックスから出ていった。ボックスの外からは、まだAIが説明を続けている声が微かに聞こえている。

その男は大きなキャリーバッグを引きながら「エモーションロッカー」と書かれた看板の入口から出てきて、バスロータリー方面へと歩いていった。その男の表情は、まるで長時間我

もっとみる
パティシエの優先座席【ショートショート】#40

パティシエの優先座席【ショートショート】#40

この街の各交通機関には「パティシエ優先座席」が設けられている。

この街の市民の10人に3人はパティシエで
店舗数は美容院や歯科医院よりも多い。

これは地元出身の国会議員である
甘杉議員の働きかけによるものだ。

スイーツのトレンドは週単位で変わる。
それほどに、この街の市民はスイーツに目がない。
また最近ではスイーツの売り上げの一部が活用され
「パティシエ専用パスポート」制度が導入された。

もっとみる
失恋焼きそば #29

失恋焼きそば #29

失恋したら焼きそばを食べる。

そんな習慣がY市民の中で、
じわりじわりと広がりを見せている。

はるか昔、顔のタイプを
ソース顔、しょうゆ顔などと
調味料に例えるというようなことが
流行ったという。

(カランコロンカラン)

今日も失恋焼きそばを提供しているお店に
うつむきながら入ってくる人がいた。

「焼きそば…ください」

「お味は、ソース、しょうゆ、塩など
 他にも色々あるんですが、どれ

もっとみる
失恋宝くじ #23

失恋宝くじ #23

マッチングアプリを手がける企業が
新たに「失恋宝くじ」というサービスをスタートさせた。

失恋をした人の元へ宝くじが届くというサービスだ。
落ち込み度合いによって宝くじの枚数も変わってくる。

失恋の有無はアプリ内で
当事者同士の申告によって確認される。

宝くじなので当選確率は決して高くないが、
ハズレてもチケットがあれば
マッチングアプリ会社と提携する
エンターテイメントモールで映画や食事を

もっとみる
バーチャル社長 #21

バーチャル社長 #21

バーチャル社長とは、ネット上のビッグデータを活用することで
社員、ステークホルダーとのコミュニケーションや経営を行う
人工知能が搭載された社長のこと。

以前の社長は、常に眉間にシワを寄せながら仕事をしていた。
そのため話しかけづらいオーラが醸し出され、
社員との距離感を遠くさせていた。
それが、コロナ禍も相まって
じわりじわりと業績にも影響が出てきていた。

そこで社長は、
緊急事態宣言下にでき

もっとみる
スベりアレルギー #20

スベりアレルギー #20

スベりアレルギーとは、
ギャグや冗談が全くウケないと眼の痒みや鼻水くしゃみといった
アレルギー反応が引き起こされる状態のこと。

無論、ウケつづければ症状は出ないが、
緊張感のある場面や大舞台でスベると
最悪、取り返しのつかないことになる。

これは誰にでも発症するが、そもそも普通の人はウケを狙う機会が少ないので
大半は発症したことに気づかずに日常生活を過ごしている。

(出囃子)

「はい、どう

もっとみる
人生ガチャ #19

人生ガチャ #19

ある晴れた日、若い夫婦に待望の第一子が誕生した。
2人にとって子どもが産まれるのは喜びもひとしおだった。
しかし、夫婦は悩んでいた。この子をどのように育てようかと。
そこで病院内に設置された「人生ガチャ」を利用することにした。

人生ガチャは、「社長の人生」「アーティストの人生」といった
あらゆる人生がデータ化されたチップ付きカードとなって
カプセル玩具に入っているガチャガチャである。

生まれた

もっとみる
憎悪を収集するロボット #18

憎悪を収集するロボット #18

SNSが誕生し、インターネット上に悪口や皮肉などが
可視化されるようになってからというもの、
新たなヒト・モノ・コトが誕生しては、それらに侵食され消えていく。
誕生しては蝕まれて消え、誕生しては蝕まれて消え、
このサイクルが常態化していた。

この日も、社会のインフラになるだろうと期待された
あるWEBサービスが惜しまれつつ、サービスを終了した。

その頃からか、各地で黒い煙のようなものが
モクモ

もっとみる
酔っ払う資格 #17

酔っ払う資格 #17

昨今、飲酒運転を始めとする飲酒関連の事故・事件が年々増加している。
これに対し、加害者に対する罰は度々厳しくはなっているが、
世間の処罰感情に反して判決が軽い!などとSNSは度々荒れていた。

複合的な要因も重り不寛容な雰囲気が徐々に醸成されていき
国民の不平不満は募るばかりであった。

この事態を受けて、
政府は飲酒に免許制度を導入することに決定した。
つまり、試験を受け合格しなければ外でお酒が

もっとみる
うるさい冷蔵庫 #16

うるさい冷蔵庫 #16

「お肉腐りかけてるでー、はよ使いやー」
「はいはい、わかってるわかってる。」

地元の掲示板サイトで無料で譲り受けた冷蔵庫。
いつの頃からか、僕に話しかけてくるようになった。

「今日、昼のテレビでお肉使ったレシピやってたでー」

食材の賞味期限のことを知らせてくれたり
料理の提案までしてくる。
なんて便利なものを手に入れたんだ!

...と思っていたのも
最初の2、3日だけ。

今ふたたび、新し

もっとみる
アニマルカースト #15

アニマルカースト #15

人間社会の学校生活においてスクールカーストと呼ばれる
人気の度合いを表す序列が存在するように
ここ動物園内にもアニマルカーストが存在する。

ニホンザルたちは、パンダの人気っぷりを恨めしく思っていた。
「なんだい、特別、愛嬌があるわけでもないってのに、
 パンダのところに連日人間たちが詰めかけてやがるんだい。
 おかげで俺たちのエリアは閑古鳥が鳴いているよ。」

ニホンザルたちは、この状況を覆すべ

もっとみる
映えテロリスト #14

映えテロリスト #14

近年“映え”テロ事件が多発している。

「映えることが正義」を信念に掲げ、
各地にゲリラ的に現れ
世のパッとしないヒト・モノ・コトを
目立ち、美しいものに変えていく。

被害にあった人たちは、
不思議と嫌な気持ちになる人はいない。

メディアもネタに困らないと
映えテロリスト集団を追いかけ続けた。

しかし、全てのものを映え終えたとき、
映えテロリストは、この世から概念もろとも忘れ去られていった。

もっとみる
フェイススマイル #11

フェイススマイル #11

TVを見ていると、ニュース速報が流れてきた。
字幕スーパーによると
国民から喜怒哀楽の「喜」の感情が失われたという内容だった。

すると突然、緊急特番へ切り替わる。
急遽、キャスターと共に登場した専門家は、
この状況に焦ることなく
淡々とニュース速報の内容について解説し始めた。

専門家によれば
「原因のひとつとして、ここ数年にわたり
 過度に不安を煽る内容を流布し続けたからではないか」と、こう分

もっとみる
UVカットビール #10

UVカットビール #10

クラフトビール市場が成熟した今、
新しい角度のクラフトビールが発表された。
その名も「UVカットビール」。

このビールを飲むと日焼け対策ができるというものだ。
大手ビール会社が化粧品会社と手を組み開発された。
これが美容意識の高い中年層のビジネスマンにウケて、
ビアガーデンで飛ぶように売れた。

ある昼下がり、ビアガーデンでそのビールを飲んだ男。
その後、トイレを済ませ、手洗器にある鏡を見て

もっとみる