第39回 金利の中野剛志説とMMT説の差異について(マルクスの価格理論の入口として)
「資本論-ヘーゲル-MMTを三位一体で語る」の、第39回。
前回は、中野剛志著『どうする財源』という本を取り上げて批判を行いましたが、それはそれとして、この本は第七章は「金利の問題」として金利に関する章がありました。
ワタクシとてMMTとマルクスに多大な関心を持っているので、当然ながら金利は関心の中心にありまして、ここは特に興味深く拝読いたしました。
ここで強く感じたのが、金利に関するMMTの議論と中野の議論の差異なんです。
そしてよくよく考えると、この差異こそは、現在この世界では主流であるところの「資本主義イデオロギーに基づく世界観」と、「マルクスやMMTの科学的な世界観」をわかつ、格好の例だと思えてきたのです。
そこで今回は、その話題。
金利の中野説
まず、ここで展開されている彼の議論を「中野説」と呼ぶことになりますが、それは少し後で。
金利について、中野は理論の前に現象論から入ります。
途中から抜粋いたします。
ほうほう。
そしてこう続きます。
ワタクシは、どうしてこれが金利の話なのか、この話がなぜこの章で出てくるのかがぴんと来ませんでした。
その謎は解けていきます。
最後、金利の話になっていますね。
しかしワタクシにはこの理路がわからないのです。
なぜそうなのか?
お読みになった皆さんはわかりましたか?
この論理を受け入れる人は、あらかじめ「貨幣量(民間貯蓄額または日銀当座預金額)が変化すると金利が一定方向に動く」という仮説を受け入れている人だけだと思いますが、たとえばワタクシは、この仮説が一般に成り立つとはまるで思っていません。
よく読み直すと、だいたい①で国債を売買する時にはその金利が決まっているし。
つまり、もしあなたが上の引用で中野の話を理解できたなら、あなたはあらかじめこの仮説を前提にしていたのです。
引用を続けましょう。
中野説を受け入れないワタクシは「その理由」で「金利が上がることはありません」とするのは飛躍だなと思うんですよね。
さて、次ですよ!
一見正しそうな以下の記述にも騙されないでくださいね。
強調は原書のママ。
うん、やはりここなんです。
中野が次の仮説を信奉しているということを改めて確認していただきたい。
つまり「日銀は日銀当座預金の量を増減させることによって、金利を希望する方向にコントロールできる」という仮説の。
こちらの方を「金利の中野説」と呼びましょう。
「コントロールできる」と「外生的」、その大きな違い
MMTの方では、たとえば「中央銀行が金利を外生的に定めている」というような表現がなされます。
要は「中央銀行が目標値を決めている」です。
金利の中野説との違い、わかりますよね。
この理解こそは、実は決定的なところです。
金利の中野説における中央銀行は、ちょうど自然災害と闘う防衛隊のような、あくまで受け身の存在になっています。
対して、金利に関するMMTの理解は、逆なのです。
通貨の巨大なモノポリスト(独占供給者)である中央銀行が金利を定め、世界をその定めに従わせている。
よって、準備預金を増やす(減らす)「から」、金利が下がる(上がる)ではなくて、巨大のモノポリストが金利を決めることによって、準備預金量や国債残高をはじめとした、さまざまな数字がそれに対応して動く。
もちろん、モノポリストがあたかも「自然に従属しているフリをする」ことはできてしまい、それが不透明な資金の動きの温床になり得るのですね。
この理解によってこそ、そういうことは止めようよというMMTの提案(国債は廃止、金利はゼロに固定)に繋がっていくのです。
「価格は需要と供給で決まる」説は何も説明していない、と言う話
ところで、「価格は需要と供給で決まる説は何も説明していない」。
このことはマルクスが資本論で何度も強調しており、ワタクシも今はそう思う事柄です。
金利の中野説の前提には、金利という”ある種の価格”が需要と供給で定まるという仮定が入っていました。
しかしそれがダメなのです。
ダメでないと思うあなたは「価格は需要と供給で決まる」教の洗脳によって、それが正しいという思い込みが刷り込まれていたんです。
くどいですが、ワタクシもそうでした。
高校や大学の入門的な教育、そして「みんなもそう思っている」ことによって。
だからこれを読んでくださっている「価格は需要と供給で決まる」教徒の皆さんの洗脳を解くのも簡単ではないと思っています。
だから!
まずは、上の中野説とMMT説の違い、これを腹に落とすことを最初の一歩にすることがでしょう。
ワタクシがそうだったからです。
そうして資本論に取り組めば、佐々木隆治が近著「マルクス 資本論 第3巻 シリーズ世界の思想」(第37回で取り上げました)の中で「マルクス均衡」と呼んでいるところの、マルクスの価格の理論がわかっていく。
ワタクシとしては、なんとかしてそれを表現していきたいと思っています。
(それを「マルクス均衡」と呼ぶかどうかは別として)
それでは!
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