金ピカ本の小ネタ4:通貨のピラミッド?
軽い気持ちでときどき「MMT現代貨幣理論入門」の翻訳の問題点をチェックしてきましたが。。。
金ピカ本の小ネタ
金ピカ本の小ネタ2: この翻訳じゃJGPはわからんって
金ピカ本の小ネタ3:IOUはIOUだろ!
おまけ「お金は『借用書だ』論」入門−第三回:負債論という背景
大きな問題点が明らかになっています。
なんと、FAQ(よくある質問と答え)を中心としたわかりやすいコラムがほとんど省略されていたんです!
原書で読んだ人は気づかない。しかもなぜか第一章だけは4つあるコラムが訳出されている。。。自分などは、第一章がまあちゃんとしていたので安心して人にお勧めしちゃってたわけですよ。
初心者用の入門書でFAQを省略するってどういうこと??
というわけで、某所でそれを補う活動をしておりますので、よろしければいらしてください(笑)
「通貨のピラミッド構造」という訳語
今回は、ここです。「通貨のピラミッド構造」という訳語。
「債務のピラミッド」「負債のピラミッド」みたいな言い方はするけれど、「通貨のピラミッド」とは要注意。
通貨というと、円とかドルとかユーロとかがあって「円が強い」とか「ドルが基軸通貨」とかいうから、強い通貨が上とか思ってしまいませんか?
そういう勘違いが起こらないように「通貨(currency)という言葉には複数の意味があるから注意して!」という話が、翻訳書では省略されたコラムにちゃんと書かれているわけですよ。
そのコラムはここに翻訳しましたが、当該箇所を引用するとこんな感じ。
「通貨」という言葉は、主権政府によって採用された勘定貨幣単位を表すだけでなく、主権政府によって発行され、勘定貨幣単位で表されるマネートークンを示すためにも普通に使用されるものだ。 米国では、通貨には財務省が発行するトークンコインとFRBが発行するトークン紙幣がある。 言い換えれば、「ドル」という用語は紛らわしい。主権通貨(勘定貨幣)と米国政府が発行するマネートークン(紙幣やコイン)、どちらの場合もあるのだから。
まあ、こんなの小さな話なわけですが、原書が厳密に表現しようとしていることを金ぴか本が曖昧にごまかしていることが読み取れると、けっこう暗い気持ちにりますね。
負債のピラミッド、ヒエラルキー
この話、絵にすると素っ気ないんです。
一番上に政府の負債(国債と準備預金)、その下に銀行の負債(預金)、最下層に銀行以外の負債。
四角形でなく三角形という形なのが重要です。
なぜ三角形か。それはレバレッジとかかわるからです。世にIOUはたくさんありますが、量としてはこうなっています。
政府の円建て負債 < 銀行の円建て負債 < 銀行以外の円建て負債
銀行預金の話が分かりやすいでしょうか。
預金準備率ってありますよね。法定預金準備率が10%だとすると、銀行は準備預金(統合政府の負債)の9倍の預金を貸出すことができるようになりますね。
貸し出すということは、貸し出される側、企業や家計はローンという負債を発行していることになります。そして企業の負債(IOU)はこれだけではありませんね。未払い金とか、買掛金とか。
というわけで、必ず上の不等式は成立している。ピラミッド構造になっていますよね、という現実把握の話。そして上位のIOUほど受け取ってもらいやすいという階層性も確かにある。
Pyramiding currency
ピラミッドの話は、前の章の最後に予告されています。一見、微妙なところなのですが、わかってしまえばアッと思うようなインチキがここに埋め込まれているんです。微妙ですが、はっきり違います。
金ぴか本の文章はこう。
次節ではまず、銀行が中央銀行の準備預金を利用して銀行間の勘定決済をどのように行うかを分析する。
これが「ピラミッド構造」の議論にもつながってくる。負債にレバレッジをかける現代の経済では、自分が自分の負債を、「負債ピラミッド」におけるより上位の負債に交換するのが一般的である。
結局、すべての道は中央銀行 – 主権国家自身の銀行 – に戻ってくるのだ。
問題は、第二文。これです。「自分が自分の負債を、「負債ピラミッド」におけるより上位の負債に交換するのが一般的である。」
これは、本当はこんな感じです。
Nyun訳
『そこから繋がる議論が「ピラミッド構造」の話だ。負債がレバレッジされる現代の経済においては、負債の発行者は自分の負債を「負債ピラミッド」におけるより上位の負債に交換できるようにしておくのが一般的だ。』
一応原文。
In the next section we will begin with an analysis of how banks clear accounts among themselves by using central bank reserves.
This also leads to a discussion of “pyramiding”: in modern economies that leverage liabilities, it is common to make one’s own IOUs convertible to those higher in the debt pyramid.
Ultimately, all roads lead back to the central bank – the sovereign’s own bank.
念のための解説
これはレイが使う通貨(currency)ってのは貨幣単位であることをきちんと読み取っているかどうかなんですが、念のため解説しておきましょう。
一人暮らしのあなたが急病になって、それに気づいたお隣のオバチャンに命を助けてもらったとしましょう。いつかお礼をしたい。そのために、あなたはIOUとして「お手伝い券」を発行してもいいわけです。
けれども、ふつうは円建ての商品券とかお礼に現金を包むとかですよね。it is common とはそういうことで、お隣さんだけではく、会社間の取引でも給料の支払いでも、本来は円建てである必要がないですよね。お互いが合意すればユーロだって人民元だってかまわないはず。けれど、みんな円でやっているでしょう?
みんながそうすることによって国の債務にレバレッジがかかっているのがこの社会。そうではないですか?というお話でして。
ご参考
Stephanie Bell, "The hierarchy of money" (1998) pdf
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