『9人の翻訳家 囚われたベストセラー』レビュー

レジス•ロワンサル監督『9人の翻訳家 囚われたベストセラー(Les traducteurs)』 (2019)のレビュー。

この映画は、複雑で美しいミステリー映画だ。
文学を愛する者と金儲けが全ての出版社との闘い。本が燃えるシーンは心が苦しい。トリックが複雑なミステリー映画であるが、いくつかの文学作品が背景に重なり合い、この映画を成り立たせている。
単に作家と出版社の関係に留めずに翻訳家の立場を入れることで、この物語は深みを増す。各国の翻訳家たちの交流はシニカルで面白い。
あまりにお金を追求すると、人間の尊厳や想像力を失う。芸術だけでは生きていけない。
翻訳された物語は世界中の人々に読まれ、心に届く。読者にとってどの出版社が出したかはもはやどうでもいい。作家にとっては、出版社の利益の道具として自分の作品を奴隷に出すのは死にたくなるほどのことだろう。たとえどれほど印税を得たとしても。
文学を愛する翻訳家たちは人間でありAIではない。だから要約ではなく創造し、作品を新たに生み出すのだ。素晴らしい翻訳はそのようにしてできているのだと思う。

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