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ライ麦畑でつかまえてのこと。③

◯です。ライ麦畑でつかまえての感想の続きです。

僕はきっと気違いなんだと思うよ。 ―P.209 L.4より引用

ホールデンは女友達のサリーを電話で呼び出し、劇場とかスケートとかにデートに行きます。その後、バーで二人は休憩がてら過ごすのですが、そこで喧嘩になり、ホールデンは彼女を残しバーを飛び出します。

その時に、彼女に悪いことを言ってしまったことを反省し、この台詞を頭に想像したのでした。

ホールデンは、インチキばかりのこの世界から一刻も早く逃げ出したかったのだと思います。

そして、一緒に逃げようと彼女に提案し、スイッチが入ってしまい、彼女に暴言まがいのことを言ってしまい怒らせてしまいました。

ホールデンって寂しがり屋だと思うんです。色んな人をインチキインチキ言っておきながら、人に会ったり呼んだり話しかけたり。

だからサリーと一緒に逃げることで、自分の寂しさを埋めようとしたのではないでしょうか。暴言はよくないけれど。

けれども、冷静になったときに、自分はサリーが行くと言ったとしても連れて行かないだろうと悟ったのでした。

そこんところにホールデンの現実見てる感じがなんか伝わってきます。

気違いなんかじゃないよ。誰だってそういう時もある。

とにかくね、僕にはね、広いライ麦の畑やなんかがあってさ、そこで小さな子供たちが、みんなでなんかのゲームをしてるとこが目に見えるんだよ。何千っていう子供たちがいるんだ。そしてあたりには誰もいない―誰もって大人はだよ―僕のほかにはね。で、僕はあぶない崖のふちに立ってるんだ。僕のやる仕事はね、誰でも崖から転がり落ちそうになったら、その子をつかまえることなんだ。―つまり、子供たちは走ってるときにどこを通ってるかなんて見やしないだろう。そんなときに僕は、どっからか、さっさととび出して行って、その子をつかまえてやらなきゃならないんだ。一日じゅう、それだけをやればいいんだな。ライ麦畑のつかまえ役、そういったものに僕はなりたいんだよ。馬鹿げてることは知ってるよ。でも、ほんとになりたいものといったら、それしかないね。馬鹿げてることは知ってるけどさ。    ―P.269 L6より引用

このライ麦畑でつかまえてを象徴する台詞。

ホールデンが妹のフィービーと再会した際、自分が何になりたいかを妹に話します。それがこの台詞です。

ホールデンはインチキな大人が大嫌いです。

まわりの大人、まして同世代までもがインチキと化してしまい、ホールデンはそれに絶望していました。

そんなインチキに子供たちがならないことを阻止したいのかなあって思いました。

ホールデンは子供たちの純粋無垢な心が好きで、それをいつまでも変わらないように守りたいと考えているのだと考察します。

でも、これからホールデンが生きていく世の中、つまり現実はインチキだらけです。

現実を認めなければならない時間が迫っている。それが思春期であるのだと思いました。

今の君とちょうど同じように、道徳的な、また精神的な悩みに苦しんだ人間はいっぱいいたんだから。幸いなことに、その中の何人かが、自分の悩みの記録を残してくれた。君はそこから学ぶことができる―君がもしその気になればだけど。そして、もし君に他に与える何かがあるならば、将来、それとちょうど同じように、今度はほかの誰かが、君から何かを学ぶだろう。これは美しい相互補助というものじゃないか。こいつは教育じゃない。歴史だよ。詩だよ。                            ―P.295 L.3より引用

ホールデンが今まで接してきた中で一番いい先生である、アントリーニ先生の言葉。

何かを残すことってとても大切だと思っています。

文章は資産であり、いつか本を残したいと言っている友人がいます。

彼は主にライフハックに関する発信をしているのですが、この記録を何らかの形で残しておくことで、ほかの誰かが友人から学びます。

こんな風に、残していけば知識は伝染していくのです。

これらの記録があるおかげで、未来は過ごしやすくなるのだと思います。

ぼくがコレクションをしているのだってそう。

コレクションに資料的価値を見出し、記録として残しておくことで、絶対誰かしらが忘れないで覚えていてくれるから。

この「ライ麦畑でつかまえて」という作品は、ホールデンの後語りのようなものです。病気になったホールデンが、この物語を語っているのです。

このように、ホールデンも自分の物語を人に話すことで、記録することを実践しています。

先生の言葉は幾分響いたのだと思います。

そのホールデンの物語を、サリンジャーは記録し、世に広めました。この物語に影響を受けた人が、またこの記録を広めていくのです。

もちろん架空の話ですが。


次回でライ麦感想は最終回です。ありがとうございました。



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