【書評】『菓子屋横丁月光荘』ほしおさなえ【2023/09/22】

菓子屋横丁月光荘 歌う家

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評価:7(10)
こんな人にお勧め:癒されたい人,俗世のノイズから解放されて穏やかな気持ちで過ごしたい人


川越が舞台の小説。

どうやら、調べると、かつては江戸時代の城下町として栄えたという。
現代においても古き街並みが残っているようで、作中でも描かれるこの古風な空間は、なんとも言えないノスタルジックな気持ちにさせられる。

そして、主人公の遠野守人が家の声が聞こえるという不思議な力を持っているのだが、このような「不思議」なものだと認識出来れば、現実における精神疾患のようなものも肯定的に捉えられるよな、と勝手な事を思ったりもしている。

僕はこうした潜在的恐怖に悩まされる事があるので、(幻聴があるわけではないが)、今作のような、心の繊細さというか、深い傷を過去に負った主人公の姿を見て、それでも今の生活があるという所から、癒されるのだと思う。

物語自体は川越に住む人達、特に古風で落ち着く生活を営んでいる人達の日常を描く。
菓子屋横丁というだけあって、その雰囲気は現代の刺激に塗れた社会から完全に浮世離れしている。
そして、この町に住む登場人物達がとても好きだ。
日本人の情というか、優しさみたいなのを感じさせる。
こういった近隣住民との繋がりという、暖かい関係性には凄く魅力を感じる。

今作には、実生活で存在していそうな、否、存在していて欲しい、心の暖かい登場人物が多くいる。
中でも気に入ったのはべんてんちゃんというボーイッシュな女子大学生で、彼女は遠野を仙人と言うが、彼女自身も相当浮世離れしているように感じる。
こういった人がどこかにいるのかと期待するだけでも、人間は生きる希望を感じられる。

そして、思い出が家に記憶として残るという世界観も、人の優しい気持ちが伝わってくる。
遠野に聞こえてくる声が、意味のあるものだとどこかで思える、そういった希望は、ふとした偶然の結び付きに意味を見出す、ちょっとだけ空想チックな喜びを満たしてくれるのだ。

とても癒された。



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