ブックレビュー:「ぼくにはこれしかなかった」
【「ローカルブックストアである 福岡ブックスキューブリック」と同時に、本屋をやるにあたって読んだ先人の書です。店頭にはまだ置いてありません。】
「ぼくにはこれしかなかった。」早坂大輔・木楽舎
人には誰しも欺瞞というものが存在する。嘘を吐き、時に自分を騙す。そうやって人間をあらぬ方向に流していく世間の濁流の先にはどんな結末が待ち受けているだろうか。ポツポツと御託を並べ自身の苦しみを一向に受け付けず、挙句の果てには自己肯定感が低いと言って逆説的にそのプライドの高さを認めもしない。そういう人間の一面を映し出そう。
岩手県盛岡でカルチャー系書店を興した早坂さんは、専門学校卒業後にさまざまな職を渡り歩いた。その中にスーツを着る仕事もあったが、管理職という重責が彼をすり減らしてしまった。それがきっかけで同業で起業をするがうまくいかず、共同代表の友人と別れてしまう。本屋を始めたのはその後だという。
正直言って、今のBOOK NERD店主とは思えないほど人生を迷走している。自分の理想じゃないことを認めることにも時間がかかるし軌道修正も腰が重い。もちろん、本屋になった後を充実させるために書いてないこともたくさんあるだろう。同時に、理想と現実の間に乖離と矛盾を抱え、どうにもならなさを抱えるヒトの習性を、余すことなく描いていると思うのである。情けなくて、不器用で、こんな人生、どうするんだよと文句の一つでも言ってやりたい。いう相手がいないだけでみんなそう思ってる。これが自由の刑か。
世界の摂理というのは常に裏表である。私たちは世の間に生まれながらそれを嫌悪し、そこから脱却しようともがく。しかし何者かになりたいという憧れは同時に、自分の死に場所を選ぶということである。うまく自立するということはうまく依存するということでもある。現状に満足しないというのは自己肯定感が低いということでもある。実際のところは、この境界に線を引くことは難しい。そんな半生を記述するというのはより難しいことである。本を書く時くらい、カッコつけたくなるものだ。この本にはそんなことは微塵もない、こともなく、そういう気持ちが垣間見える部分こそ内省を求められるような気持ちになるものだ。とにかく本書は、人生と仕事という難題の答えを探している人はもちろん、人生における覚悟とか、家族とか、価値基準とか、そういうセンシティブな選択に生々しい助言を与えてくれる一冊である。
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