春の寝息

なんとなくを繰り返していたら、もう春になっていた。いつも3月になると、焦燥より安堵のほうが先に来る。だから、3月が好きだ。

外れたままだったベランダの網戸を元に戻した。本棚を綺麗にした。あの人にもらったものを机の奥にしまった。4年前の日記はもう読めなかった。

忘れてしまった人が増えた。忘れてしまった過去も増えた。私もきっと誰かの中で名前も顔も出てこないくらいに忘れられているのだろう。

忘れるにまかせるということが、結局最も美しく思い出すということなんだ。
川端康成

本当は私は誰にも忘れられたくなんてなかった。

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