『結局、仮説で決まる。』発売直前試し読み#3 ~良い仮説とは、どういう仮説か?~
■一見、良さそうに思える仮説
次に、“良い仮説”と“悪い仮説”について考えてみましょう。私は、自分が講師を担当するセミナーや研修の中で「あなたにとって良い仮説とは何ですか?」という問いかけをします。ぜひ、皆さんもご自身にとっての“良い仮説”とはどのようなものか、まず考えてみてください。
以前、セミナーでこの質問をしたときに、様々な(本当に十人十色の)回答が出てきましたので、その一部をこちらで紹介しておきましょう。
検証可能な仮説
事実(ファクト)に基づいている仮説
データで確認した内容から言える仮説
解の方向性を絞るために有効な仮説
みんなが納得できる仮説
すべてのリスクが考慮されている仮説
説明がつく仮説
現実的で飛躍がない仮説
精度の高い仮説
限定的でなく、様々な前提や条件が考慮されている仮説
いかがでしょうか。どれも、それなりに理に適っているように見えますよね。では、これらの中で比較的よく登場する“良い仮説”と多くの人に思われているものについて考えてみましょう。
1.検証可能である仮説
仮説は仮説のまま持っていても、アイデアのストックとしてはいつか使えるかもしれませんが、目の前のゴールに対しては何の価値も発揮しません。その仮説が正しいかどうかが客観的、合理的に検証・確認できて、はじめて意味を成します。
ところが現実的には、すべての仮説が検証可能であるとは限りません。単に検証するためのデータが手に入らない、存在しないといった情報不足が理由となっているケースは少なくありません。
例えば、「この商品が売れなかった理由の1つは、パッケージのデザインが気に入らなかったからかもしれない」という要因仮説を検証したいとします。
ところが、買った人からは購入後のアンケートなどで購入理由を聞くことができますが、そもそも購入していない人は、その人を特定することができないため、“買わなかった理由”を確かめることは極めて困難です。
となると、この仮説は、立てることはできても、検証できないことになります。
一方、もしかしたら本当は事実を言い当てた妥当な仮説である可能性があるため、仮説の中身が良いか悪いかという評価はできません。ただ、実務上扱いづらい仮説ということにはなるでしょう。
逆にとらえれば、いくら妥当性がありそうな仮説であっても、検証不可能な仮説だけを挙げても、実務上そこから先に進めなくなってしまいます。実際に仮説を立てるときには、この「検証可能性」についても、ある程度想定しながら考えることも必要です。
しかし、検証可能であること(=自分たちが情報を持っている範囲の内容)に必要以上に思考を奪われてしまうと、いつも見ているあのデータや表、グラフがチラチラ頭をよぎり、そこに思考がロックインされて(固定されて)しまうという“よくある落とし穴”に陥りがちです。
しっかり仮説を立てて、その検証に必要な情報を特定して、実施して……というサイクルを回し始めた仮説検証型の取り組みの初期では、このような状況がよく起こりがちです。まずは、既存の情報に囚われず広く自由に仮説を挙げ、そのあとに検証可能性を考えてみるという進め方がおススメです。
一方、中長期的には、仮説検証型の取り組みを繰り返すことで、組織やチームにとって(自分たちの業務遂行に必要な仮説を検証するために)必要な情報は徐々に明確になってきます。そうなれば、この検証不可能という問題は解決されていくはずです。理想的には、その状況に近づけていきたいところですね。
3回にわたってお届けしてきた『結局、仮説で決まる。』の発売直前試し読みはここまでとなります。
本書の第1章ではこの後も「事実に基づいている(精度が高い)仮説」「データで確認した内容から言える仮説」など、「一見良さそうに見える仮説」の問題点について解説したうえで、仮説立案の原則と例外ケースを解説しているほか、最終的に良い仮説としてどのような方向を目指すべきなのかを述べています。
また、下記の目次にありますように、続く章では「仮説立案におけるゴールをどこに設定すべきなのか」「良い仮説作りはどうやればいいのか」「それを検証する方法は?」など、仮説設定を通した問題解決・企画立案に必要な一連のプロセスを解説しています。ぜひ、読んでみてください。
『結局、仮説で決まる。』目次
序章:どうして様々な方法論が活かせないのか?
第1章:良い仮説、悪い仮説
第2章:目的のない仮説は意味がない ──ゴールの定義
第3章:良い仮説をつくるためのテクニック
第4章:仮説をつくる実践ケース
第5章:データ分析による仮説検証
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