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「動く」全体戦略の構築──『プランニングの基本』から【9】

『この1冊ですべてわかる プランニングの基本』(高橋宣行著)一部公開第9回、最終回は「相手を動かす仕組みをどうつくるか」について。
「あの人」を攻略するために、何を、どうすると振り向いてくれるのか。買い続けてくれるのか。大切なのは相手の顔が浮かんでいるかどうかです。

「第3章 プランニングの工程──創造的プランナーの段取りとコツ」より

「コンセプト」「コア・アイディア」を核に戦略化

あらゆるモノゴトにコンセプトがあります。そしてコンセプトは展開(戦略・戦術)を前提に創られています。

言ってみれば、戦略のないコンセプトも、コンセプトのない戦略もありません。ただモノゴトの方向性を示す役割があるため、「初めにコンセプトありき」と言われます。

「どうなるといいのか…」、コンセプトと戦略・戦術が一体となって、初めて課題解決に向かいます。

戦略・戦術は、もともと戦争や政治闘争の用語として古くから使われていました。今は勝つための全体戦略と作戦を、市場競争の手法としてマーケティングでは取り入れています。そして、統合的な「売れる仕組みづくり」へと発展させていきます。

「あの人」を攻略する仕組み

STEP4「動く」〈全体戦略の構築〉は、ギューッと絞られてきた考え方(コンセプト)をシンボル化(言葉にしたり、ビジュアルにしたり)し、それを伝えるために相手にどのようにコミュニケートするか、どう相手の気持ちに刺さり込むか。そのために、いろいろなアイディアを組み合わせ、全体構想を描き、実践することです。

プランニング図20

とくにSTEP4「動く」は、より現場感が求められ、相手に合わせて設計図を書かなければなりません。相手を動かすための仕組みになっているか、ここが「へそ」です。図20で言えばⒷを明快にした上での、Ⓐ全体戦略づくりになっています。

もう少し言葉を足せば、

Ⓐの、最適な仕組みをつくって最大の効果を上げるための戦略化ができるか。その時大切なのは、相手の顔が浮かんでいるかどうかです。

したがって、Ⓑの「相手」(攻略したい相手・想いを伝えたい相手)がとても重要です。戦略と言うと大層に聞こえますが、基本はひとつです。

「あの人」を攻略するために、何を、どうすると振り向いてくれるのか。手を出すのか。買い続けてくれるのか。

あの人に「好き」と言わせるための手法と手順が、このステップだと考えてください。相手が見えていなければ、絶対に戦略など組み立てられません。

 車を運転するビール好きの「あの人」に飲んでもらいたい

例えばキリンビールでは、激しい競争状態にある「第3のビール」でのニッチな市場ではなく、「アルコール0.00%」という新しいコンセプトとキーワードで、まったく新しいターゲットをつくることに挑戦。完全ノンアルコールで暮らしを変えることを狙い、運転する人もOLも主婦も昼間のビジネスマンもターゲットにして成功しました。

一見、凄いキャンペーンですが、根っこは、個人個人の快適な暮らしを求めるニーズです。

「おいしいビールが飲みたい。しかし、この状況では…」
「それにはノンアルコールビール0.00%がある」

生活者の暮らしぶりを探り、そのシーンにメッセージを送ります。

いい商品も、いいプランニングも、必ず相手が見えます。だから戦術も明快だし、ブレもありません。人を「動かす」には、「あの人にこうしてあげたい」と相手の顔を想い浮かべて戦略を組み立てるのです。初めから戦略というカタチがあるわけではありません。

「みんなに」ではなく「あなたに」

大多数の人間を振り向かせようとすると、相当なパワーが必要です。そして、このモノ余り社会でみんなにジャストミートすることはありません。一方で、自分の考えを絶対「あの人」に伝えたいと思うと、発想や行動はより明快になるしスムーズです。

あの人の興味や好奇心や悩みを深掘りするほど、深いコミュニケーションが得られます。相手が見えるから、コンセプトもコア・アイディアも戦略・戦術も組み立てられるのです。

全体論とか、統一性とかは、仕組みのカタチのことではなく、相手の「あの人」に1本の筋道でマーケティングが統一されているかどうかです。

課題解決を主テーマにするビジネスパーソンにとって、個を想定し、深掘りし、相手の気持ちにまでたどり着くから、「そこまで考えたのか!」と相手に言わせられるのです。

※この連載の続きは『この1冊ですべてわかる プランニングの基本』で!

プロフィール

高橋宣行(たかはし のぶゆき)

1968年博報堂入社。制作コピーライター、制作ディレクター、制作部長を経て、統合計画室、MD計画室へ。制作グループならびにMDU(マーケットデザインユニット)の統括の任にあたる。
2000年より関連会社を経て、現在フリープランナー。企業のブランディング、アドバイザー、執筆活動などで活躍。著書に『高橋宣行の発想ノート』『高橋宣行の発想フロー』『高橋宣行の発想筋トレ』(以上、日本実業出版社)、『博報堂スタイル』『今どきの、発想読本 「コラボ」 で革新』(以上、PHP研究所)、『オリジナルシンキング』『コンセプトメイキング』『「人真似は、自分の否定だ」』(以上、ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『発想職人のポケット』(小学館)他がある。


※著者が本書のねらいを語った「はじめに」も小社公式サイトで公開しています。

※『この1冊ですべてわかる ○○の基本』シリーズラインアップはこちら!


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