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打ち砕こうとする者たちの軌跡

周囲を高い山に囲まれ、隔絶した村落があった

ある年、これまでにない干ばつが続き、村の主な食糧資源である耕作が打撃を受け、飢饉を迎えようとしていた
村長(むらおさ)である長老は過去の経験から、雨が降ることを辛抱強く待つことを村民に説いた
しかし、備蓄してある水と穀物はもって3か月。焦燥と絶望感から、ついに2人の若い男が長老の指示に反し、それぞれ村を出て活路を見出す旅に出た。祖先がこの地に村を築いて数百年。外の世界については誰も知らない状況であった

ある若者は北へ向かった。村の北方は最も険しい山岳地帯となっていたが、この若者は村一番の力持ちと言われており、また幼いころから父に連れられ狩猟を営んでおり、山の状況を知悉していた。苦難の末、北方の山を越えたある日、周囲を川と壁に囲まれた巨大な街を発見した。しかし、正面に見える、橋となる門は固く閉ざされ、そこからうかがい知れる川幅と水深は、橋以外の手段で渡ることを困難としていた。また壁際に複数位置していた塔には人影があり、絶えず周囲を監視している圧を感じていた。

別の若者は西へ向かった。西側も山地ではあったが、北よりは高さも傾斜も緩やかであった。幼い頃より、西側の山を決して越えてはならぬと伝え聞いており、ある者はそこを超えると異形の人と獣が共存しており、我々をエサとして食らうと語った。しかし、伝聞に反し、緩やかな山を越えた先には、故郷と瓜二つの村があった。早速、見つけた住人にわけを話すと、その村の長のいる屋敷へと招かれた。やせ細り枯れた田畑の中を通り、屋敷の中に入ると、そこには故郷の村長と同一人物としか思えない老人が臥せっており、土色の顔とわずかに光る目をこちらに向けて、枯れ果てた口を開き、絞るように声を発しようとしていた。

はたして2人は、村を救う方策を外に見出すことができるであろうか

【続く】

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