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「雪舟伝説」展@京都国立博物館

雪舟展ではなく雪舟”伝説”展というところに惹かれて、京都国立博物館で開催されている特別展に行ってきました。

正直なところ、水墨画って何が面白いのかよく分からないという先入観で、雪舟を積極的に見てこなかったのですが、今回初めて面白いと強く思いました。
気付いたら4時間半ほど、じっくり見てしまい、最後は閉館時間に追われるように博物館を後にしたのでした。


全体的な感想

雪舟受容がどのように行われたのかがテーマではあるものの、雪舟の作品もたっぷりあって大変充実した展覧会でした。
なにせ、雪舟の国宝作品6件、すべてが全期間通して展示されていますから!

雪舟の後、長谷川等伯、雲谷等顔を経て江戸時代、そして明治時代へとどのように継承されていったのか、展覧会の肝となるところも豊富で興味深かったです。
特に、今では雪舟筆とは見なされていないものも、当時は雪舟筆と認定され、それが受容されていったというくだりも大変面白かったです。
その例として《富士三保清水寺図》が挙げられ、この構図は富士山画の基礎となっていたようです。江戸初期はもちろん、江戸後期においても数々の画家たちが同じような構図で富士山を描いており、一種の型のようになったのかなと感じさせられました。

また継承者たちが、ただ模写するのではなく、自分たちのスタイルに取り込んでいるのが見れるのも良かったです。
一番顕著なのが、金を使うようになったところ。ほぼ同じ構図・絵なのに、金を使うことによってこうも印象が変わるのか…と、そういう楽しみ方もできました。

逆に雪舟の絵をそっくり模写し(模本というらしい)、それが鑑賞対象として需要があったのも興味深かったです。
今でいうところの、フェルメールなどの絵をキャンバス地に精巧にコピーしたものを部屋に飾る感じでしょうか。
自分が持っている雪舟の巻物が痛むのを恐れて、模本を作らせ、見たいという人に模本の方を見せていた、というのもあり、今でいう観賞用・保存用と買うのと同じ感覚なのかなとも思いました。

今まであまり触れてこなかったジャンルだったからか、どれもこれも面白く感じ、充実した鑑賞時間となりました。

本日のBest

国宝 四季山水図巻(山水長巻)雪舟筆 室町時代 文明18年(1486) 山口・毛利博物館蔵

画像は展覧会公式サイトより 四季山水図巻(山水長巻)(部分)

現在、絵巻物に興味があるためか、この四季山水図巻が一番印象的でした。
もう一つ、京都国立博物館所蔵の四季山水図も展示されていたが、こちらの方が大きく見ごたえが抜群でした。

実際に見れる部分は期間によって少しずつ変わっているようなのですが、実物大の全幅のパネルがあり、それを見ると流れも見れて非常に面白かったです。
巻物は横に横にのびていき、パノラマビューのような形で見れるわけですが、どのように景色が切り替わっていくのかが大変に興味深く何度も何度もぐるぐる見てしまいました。
道が手前から横方向に奥へ奥へと進んでいき、それが見えなくなりそうになる前に、その前景では新しい陸地の繋がりが始まったり、大きな河なのか水辺が広がって画面が開けたかと思うと、その岸辺から山中になって木々のうっそうとした感じになったりと、その画面の切り替えにもメリハリがあるのです。
終盤から人が徐々に多くなっていって、交流の場なのか人がたくさん集まっているシーンもあったかと思うと、城郭なのか壁がしばらく続き、その壁が崖によって行き止まりになったところで巻物が終わるのです。

この繋がりの中にはよく考えると辻褄が合わない部分もあって、水辺の家から山に入ったかと思ったらそこは崖、みたいなところもありました。
でも見ている時には違和感はまったくなく、ちょっとしたトリックアートのようでもありました。
ちょうどその部分が公開されていて、何度見ても騙されてしまうのは、説得力のある絵によるもののような気がしました。
紙の外にも繋がっているかのような連続性を感じさせる描き方をしているのもミソのようでした。それこそ紙の外では辻褄合ってないはずなんですが。

こちらの作品を雲谷等益が写したものも展示されており(1つ下の階だったので、往復して見てしまいました)、そちらと比べると、雪舟の絵は力強い筆致ではあるものの繊細な筆運びなのが分かりました。
線などは太いし、水気の少ない筆で岩の表面を描いているのですが、筆致の偶然性を楽しむというよりも、そうしたカサカサしたものをもコントロールしているような感じがしました。

おまけですが、四季山水図巻を眺めるかのような動画がYouTubeにあがっていました。
上下が少し切れているのですが、絵巻物の楽しさが感じられます。

その他気になった作品

重要文化財 四季花鳥図屏風 雪舟筆 室町時代(15世紀) 京都国立博物館蔵

画像は上のリンク先で確認できます。
ポスターにもなっている作品で、右隻には鶴、左隻には鷺などが描かれています。
右隻は松が力強く描かれていて、中心の鶴もまっすぐ立っているので、縦の動きが強調されています。
左隻は、白梅の枝が横にのびていったり、鷺が横にふわっと飛んでいるので横の動きが強調され、右隻と左隻との対比になっているようでした。

個人的には左隻が好きでした。
冬景色の中で、あまり色味がないのですが、その抑えた表現の中でさまざまな筆致でちょっとした差を表現されているようでした。
例えば白梅の枝はのびのびとしていたり、芦は複線で細切れに描くことで芦の乾いた感じを表現していたり。
その中でひっそりたたずむ鴛鴦にわずかな色がのっており、雪の中にぼうっと色が入っている感じがしました。

これに付随して興味深いのが、これを模した雲谷等益の「四季花鳥図屏風」。
構図がほぼ一緒だけれども、金泥がひかれていたり、少しばかり省略されていたりします。
その差に時代なのか、雲谷等益のセンスなのかが反映されているように感じました。

雲谷等益の方には芦がなかったり、右隻と左隻を合わせた時の中心部が空白っぽかったり、右隻の松や岩が大人しかったりします。
そこにうっすら金が輝いているので、力強さというよりも明るさを感じました。
どちらがいいというのは好みの問題だとは思いますが、個人的には確実に左隻に関しては雪舟が好きでした。

富士三保清見寺図屏風 狩野山雪筆 江戸時代(17世紀)

展覧会公式サイトより

卒論で狩野山雪を取り上げたからではないですが、トップ3に入るくらい気に入った作品。
キャプションを見ずに「素敵だな…」と思って、誰だと思って山雪と分かった時には、私のきゅう覚も捨てたもんじゃないなと思いました。

かちっと几帳面なのは山雪らしいと言っていいのでしょうか(突然、弱気)。
シンプルな富士山の形に、手前の山や松、家々が細かく描かれている、その対比が落ち着く感じがしました。
画面全体に対して非常に割合が少ないものの、山や松とそれぞれ遠近感をしっかり出しているのも良かったです。
それらがしっかり整理して描かれているからこその、富士山のシンプルさが際立ち、優美さが表現されている気がします。

山水図 葛飾北斎筆 江戸時代(19世紀)

北斎も水墨画を描いていたんだ!という驚きとともに、その素晴らしさにびっくり。
小さな作品ながら、画力のすごさがひしひしと感じられました。
輪郭線ではなく面としてとらえて明暗を描いているのが、少しだけ西洋っぽさを感じました。

崖に木が生えており、遠景にはうっすらと山があります。
木の先には、鳥が飛び立っており、崖・木・山というどちらかという静の世界の中で動きがあります。それが全体から見ると本当に少しの動きなので、静かな雰囲気を壊すこともなく、そのバランスが素晴らしかったです。


最後の部屋まで見ごたえたっぷりの展覧会でした。
会期が結構短いので逃さないように気をつけて行きましたが、見逃さずに本当によかったと思えるくらい、楽しく、また色々と吸収できました。
山水画をもっと勉強したくなりました。

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