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読書紹介 ミステリー 編Part14 『奇術探偵 曾我佳城全集 秘の巻』

 どうも、こぞるです。
 本日ご紹介する小説は泡坂妻夫先生の『奇術探偵 曾我佳城全集 秘の巻』です。曾我佳城という引退した奇術師(プロマジシャン)を名探偵に据えた短編をまとめたものとなります。
 泡坂先生は、ご自身も実際に著名な奇術師であるという一風変わった経歴の持ち主としても知られています。

ー作品内容ー
 曾我佳城(そがかじょう)の行くところに怪事件あり……若くして引退した美貌の奇術師、その華麗なる舞台は今も奇術ファンの語り草である。そして、もう1つの貌は名探偵。弾丸受止め術が自慢の奇術師がパートナーを撃ち殺してしまった。舞台に注目する観客の前で弾や銃をすり替えた者は誰か。佳城は真相を見抜けるか。

 なぜかクラスに一人、マジックが上手な人っていますよね。

変わった名前

 変わった名前ですよね、作家さんも主人公も。小説において、変わった名前の人って様々出てきますが、個人的に泡坂先生のネーミングセンスが好きです。
 特に、作中のお話にはほぼ毎回マジシャンが登場するのですが、彼らは基本的に芸名で登場し、芸名で存在し続けます。当たり前のように本名が出てこないミステリー小説って、面白いですよね。
 こういった泡坂先生独自のユーモアが全編を通して優しく包み込んでいて、単純にいうと好きです。
 
 この作品シリーズではないですが、先生が書いている別のシリーズの主人公の名前である亜愛一郎(あ あいいちろう)の名前とか大好きです。

マジックトリックミステリー

 ミステリーの謎も手品の種もトリックって言いますよね。トリックの意味は相手を騙すこと。それがお客さんを楽しませるために使うか、人を痛い目に合わすために使うかの違いですかね。
 目的のベクトルは真逆ですが、やはりそこには親和性があります。
 昔、仲間由紀恵さんが主演されてたミステリードラマも主人公の山田はマジシャンでタイトルが「トリック」でしたね。仲間さんはあんなに美しいのに、扱いは曾我佳城と大違いでしたが……。

 今作では、どこかしらのマジックショーで行われるマジックがその時々の事件のテーマになることが多いのですが、そのマジックの使い方が、ただ殺人事件のトリックに使われているだけの話は少なく、事件のきっかけになるだとか、事件の背景に存在するだとか、バリエーション豊富に用いられているところが面白いです。

 曾我佳城の謎の解き方自体が、手品がこうだから、この謎にも応用して!というよりかは、それをヒントに発想を飛ばして、一見あり得なそうな動機のつながりを見つけるということが多いタイプなので、いい意味で奇術に囚われすぎていない感じが、読みやすく楽しいです。
 あと、マジックのタネとかちょくちょく書いてあるのも、個人的に嬉しいです。タネを知るとつまらないっていわれたりもしますが、マジックというものを実は単純だったりするそれを面白くできる奇術師ありきのエンターテイメントだと思っているので、知らず楽しんで知ってからも楽しめるなんて、2度美味しいじゃないか!などと思ったり。

一番楽しむ方法

 楽しむからの流れで、本作の中で私の中で一番残ったセリフが、曾我佳城による奇術の楽しみ方への言及でした。以下引用です。

「……奇術は楽しんで見るのが一番いいんです。もっと上手な見方は、その場の雰囲気をもっと楽しくするように、奇術家に協力する」

 いい言葉ですよね。正に!げにまっこと!って思うのですが、作る側の人がなかなか言いづらい言葉だと思います。でも、今作では曾我佳城はすでに引退しているので、あっさりと言えてしまうのです。

 そして、これは奇術だけに限ったことではないと私は思うんですが、いかがでしょう?  
 読書だって映画だって演劇だって、オケラだってアメンボだって、楽しみたいなら楽しむための努力が必要なんじゃないかと思う次第です。

 難しい顔して腕組みしながら作品を見て、批評点を並べ立てることってできるし、もちろんそれが仕事である方もいるわけですが、一端の素人である私としては、全力で楽しむことに心血を注ぎたいので、改めてこのように言語化してくれたことに、大感謝です。
 楽しいだけでもいいのに、楽しむ方法まで知れちゃうお得感。ラッキー。

さいごに

 扱っているのは殺人事件が多いですし、その裏には重たい動機や儚い思いが隠れていたりするのですが、上述のネーミングセンスであったり、地の文が極端に少ないテンポのいい会話などにより全体としてユーモラスで読みやすい作品となっています。
 なので、ミステリー初心者にもオススメです。

 また、本作はタイトルに『秘の巻』とありますが、元々出版されていた『奇術探偵 曾我佳城全集』という本を2冊に分けたものです。なので、もう一冊『戯の巻』というのも出版されていますし、今年2020年に『奇術探偵 曾我佳城全集 上・下』というのも創元推理文庫から出版されています。
 残念ながら作者の泡坂先生がお亡くなりになっているため、新作が出ることはありませんが、これまでに出た名作は様々な形で出版されていますので、お手にとってみてはいかがでしょうか。

それでは。





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