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ヲススメラヂオの小説 part9 『クレイジー・ジャック』

 どうも、こぞるです。
 ヲススメラヂオ第9冊目でホンノハシさんに紹介していただいた、ドナ・ジョー・ナポリ作『クレイジー・ジャック』という、童話・『ジャックと豆の木』のある種パロディ的作品でもあるこちらについて書いていきたいなと思います。
 
 ラジオは以下のリンクから別ページに行くとありますので、先に聞いていただけると、よりこれを書いている奴が何を言いたいのかがわかりやすくなるかと思います。30分ほどですので、家事や課題、作業のおともにいかがでしょうか。

ー作品内容ー
 壁にぶつかるという奇行をくり返すジャック。周囲から「クレイジー・ジャック」と呼ばれ、幼なじみのフローラにまで見放される。そんなとき妖精にもらった七色の豆の種。この虹を植えよう−


『ジャックと豆の木』って知っていますか?

 そもそもなのですが、この作品のパロディ元である『ジャックと豆の木』のお話を知っていますか?

 簡単に書きますと、
 ある日少年ジャックが牛を売りに出そうと連れていたところ、ある老人に「この特別な豆と交換しよう」と話を持ちかけられます。その話に乗って豆と交換したジャックでしたが、彼の母親は、たかが豆にとカンカンに怒り、その豆を庭に捨ててしまいます。
 すると、豆は一晩で天高くまで伸びていき、不思議に思ったジャックが登っていくと、雲の上には巨人の家が。ジャックはそこから様々な宝物を盗み出すのですが、あるとき、巨人に見つかってしまいます。大急ぎで豆の木を降りて辛くも逃げ切ったジャックが、豆の木を切り倒すと、ジャックを追いかけてきた巨人は豆の木と一緒に倒れて、ぺしゃんこになってしまいました。
 チャンチャン♪

 バージョンによって様々変化しますが、大筋はこんなところでしょう。
 いかがでしょう?ある朝目を覚ましたら、庭からめっちゃ長い豆の木が雲を突き抜けていたら、みなさんは「よし、登ろう!」となりますか? 私は、言葉巧みに豆と牛を交換しちゃう気持ちも、巨人の家から宝物を盗み出したくなる気持ちも、まあ、童話ながらに分からなくはないですが、「よし、上ろう!」はわかりません。

 今作『クレイジー・ジャック』では、その「よし、上ろう」に至るジャックの人生・理由・心理が見事に描かれています。

親が人だということ

 年を重ねるとだんだん「ああ、親って生まれた時から親じゃないんだなあ」っていう当たり前のことがリアリティーを持って実感できるようになります。私の両親も、精一杯親として頑張っていた部分があったのだろうと。
 本作では、原作童話ではあまり描かれない父親という存在が、物語の前半部分に色濃く登場します。その父親は一つ欠点として、賭け事が好きという性癖を持ち合わせています。
 そんな彼の行動が、家族に迷惑をかけていることは、主人公の目を通して述べられる母親の行動からもわかるのですが、主人公はその父親のことをかっこよくたくましい男だと信じています。頭の片隅では馬鹿なことをしていると分かっていても、子として、その人を信じていました。

 作中の前半と後半で7年の時が経つのですが、大きくなったジャックも、物語の中で、ある賭けに出ます。
 息子だからという理由で、父の考えを肯定していたのではなく、大人になり父が馬鹿な賭けをしていたということが分かった上で、自分も賭けに出ることにしたジャック。
 これをクレイジーな遺伝の悲しさとみることもできるでしょうが、ただの子供の頃の憧憬ではなく、大人になっても、一人の人として、ジャックは父が好きであれたことの証なのかなと感じ入りました。

戻りたい現実があること

 豆の木を登って巨人の家に行くというのも、ある種、異世界ファンタジーと言えるかもしれません。
 そこには、地上にないような魔法の道具やお宝が多く眠っています。描かれていないその後の世界で、童話世界のジャックは、また雲の上に行きたいと思わなかったのでしょうか?金の卵を産む鶏なんかを手に入れていますから、莫大な資産でバベルの塔の建築計画を始めてしまうとか。してもおかしくないように思います。
 ですが、この『クレイジー・ジャック』のジャックは、そんなことはしないでしょう。なぜなら、そんな夢がある世界よりも戻りたい現実があるからです。

 『ブレイブストーリー』だって、『千と千尋の神隠し』だって、どれだけ異世界に魅力があろうとも、やはり帰りたいという気持ちがあります。
 『クレイジー・ジャック』のお父さんは、ある日ジャックに語りかけます。
「食べるもの、住む家、そしてお互い。必要なのはそれだけだ」
 自由であることの強さもこの世にはあるでしょうが、戻るべき場所がある強さもあるのだと感じさせる言葉でした。

さいごに

 ぜんぶで200ページとちょっとしかないため、本当にあっさり読めます。だからといって、内容が薄いかというと、そんなことは全くないので、ぜひ読んでみてください。
 すでに絶版なっているというお話で、新刊の入手は難しそうだったのですが、簡単に調べたところ、多くの図書館には置いてあって、私が見たものは全て貸し出し可能だったので、図書カードを持っていればどなたでも読めるかと思います。

 正直あまりメジャーな本ではないため、今回の企画でオススメしてもらえなければ出会えない本だったかもしれません。そういった点も含めて、ご紹介してくださったホンノハシさん、ありがとうございました。

それでは。




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