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物語な詩群

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物語詩を集めます。
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#物語詩

鷲の魔導士の最期の詩(物語詩)

鷲の魔導士の最期の詩(物語詩)

あなたの美しい声は
降りしきる雪のような言葉は
もう耳にすることが出来ない

あなたのやさしいゆびさきの
ほっそりとした文字は
もう二度と描かれることはない

あなたのひそやかな明るい
朗らかな足音は
もう二度と聞かれることはない

全てはこの時に終わってしまおうとしている
このことに耐えきれず
抗いの禁呪として
わたしはあなたを氷の中へ繋ぎとめる
やがて燃え上がる陽の朝焼けに
この冬が溶けてしま

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言葉の奥の何か/青淵の底で/時折ぎらりと光るもの

言葉の奥の何か/青淵の底で/時折ぎらりと光るもの

言葉を発する奥にある何か
それは
我らの意思決定より速やかに
決断した何か

後付けの欺瞞に世が満ちるのは
誰もが
真実の言葉を持ちえるが故

歪み続ける像が
陰謀論を引き寄せる
爬虫類よりも愚かな説話を

頑是ない言葉がある
抗うことの出来ない機構によって
言葉は既に生まれている

仮想である我らは
果たして自然言語で書かれているか
それとも

意味を呑むことは
感覚器で為され
言葉としてそれを

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今世紀の中葉に遂に我らは遥か太陽を朋とする(物語詩)

今世紀の中葉に遂に我らは遥か太陽を朋とする(物語詩)

今世紀の中葉に
遂に我らは
遥か太陽を朋にする

星々の秘密が
ほんの少し明かされた
守られたこの星の世が
特別な一つであることが
その徴としてあった

空想はもはや
現実に追いつかなくなっている
高度に発達した化学と科学が
自然言語を超えて
不思議と神秘について
次々に新しく語り続けている

未来という現実は
眠るものを食い散らすことでなく
遍く溢れる熱量を
享受することの先にあった

激変する

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声(物語詩)

声(物語詩)

優しい神様はいない
傍にいるのは
いつも優しい悪魔だけ

いいえ

何処かで護られている
何時も知らないうちに
危うさから逃れて

いつも悪魔から
少しずつ遠ざけている
堕ちてしまわないように

見えないように
護ってくれることに
甘えずに道を進みなさい

人は人と
釣り合ってしまうから
少しの悪が次第に深まる

それゆえに

他のために優しくあれば
魂は魂と
等しく惹かれ合うのだから

或る晩(物語詩)

或る晩(物語詩)

そうだった
あの月のやけに明るい晩のこと
母は只事ではない様子で
裸足でわたしを外へ
引き摺って行こうとした
わたしが必死で逃げると
そのまま母は走り出て行って
鬼のような姿になり去ってしまった
最後に何か言ったが覚えていない

あれは、冬のとても寒い夜のことだったと思います。眩しいほどに月が輝いていたのです。
かつて、様々なことがありました。結局最期の時にやっと、解放されたのです。逃れたかったの

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人魚の歌

人魚の歌

おとぎ話の漁師の網は
アザラシの化けた人魚を捉えた

人魚は歌う
アザラシの歌を
美しい人魚のため
漁師は少し盗みをした

漁師は娘におとぎ話を聞かせる
秘密をそっと誇らしげに

人魚は歌う
許されぬ恋の歌を
海岸を魚のように泳ぎながら

足の動かない娘は
足のある人魚におぶさって
毛皮の秘密を尋ねた

白い灯台に北の太陽が映え
緑の深い海際の山を背に
黒いドレスの人魚が歌う

惑いの誘いは靡く長

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