恋愛は本当にあるのか2023

80年代、大学生くらいのとき、そのときは祭日かなんかで、平日のラジオを昼間から聞いていた。
時間帯的に主婦向けの番組だった。
パーソナリティはだれか忘れたが、「おもしろおじさん」的なタレントだった。80年代だから、昼間っから多少の下ネタもOKだった。
その番組のリスナーが電話出演するコーナーで、
「夫にどうしても愛情が持てない」
という女性が出て来た。
でも見合い結婚して十数年になるらしく、その人に子供がいたかどうか忘れたが、深刻なトーンでもない。というか、そのコーナー自体がもともと深刻なものではなかったから。
女性の電話の声は、まだ若かった。三十代半ばくらいじゃなかったか。この当時は二十代で結婚する人が多かったから。

そして、夫を嫌悪しているとか、人間として興味が持てないとか、小馬鹿にしているとか、そういう感じでもなかった。
「ラジオに出たくて悩みを捏造してくる」タイプの人かもしれないと思ったが、そういうふうにも感じられなかった。
こういうのってもともと、物怖じしない、ミーハーな人が出るものと思っていたので、不思議な感じだった。

おじさんパーソナリティーが遠回しに、
「でも夫とセックスはしたんですよね?」
と聞いたら、
「いや、初夜のときは逃げ回ってましたよ」
という答えが返って来た。
終始、謎の電話だった。

このことを私が30年以上も覚えているのは、当時から、以下のような予測を立てていたからだ。

「この奥さんは、お見合い結婚で、『結婚はしなければならないものだ』と考えていて、親の言うがままに結婚して、でも結婚生活がいやだったわけではなくて、でもずっと半信半疑で、情報過多の世の中で、『燃えるような大恋愛』みたいなものがこの世のどこかにあり、自分はそこからあぶれているのではないか、と考えているんじゃないか」

ま、私のまったくの想像ですがね。

その後、恋愛小説「ノルウェイの森」を読み、そのときは「ふーん」くらいにしか思わなかったが、30年くらい経って気づいたけどあの小説って女性の方が主人公を愛しているかどうか、なんかよくわかんないんだよね。
ひさしぶりに冒頭部分だけ読んだら、主人公が、
「彼女はぼくのことを愛してさえいなかった」
という回想の言葉が出て来る。
「ノルウェイの森」、当時は読んでいるやつはミーハーの極致、みたいに思われていたが、あれは「自分のことを愛してさえいない相手を好きになって、いちおう恋愛したときやるべきコースを一周して、それでも違和感があって……」みたいな、かなり「恋愛」に関して真摯な小説だったと、今頃思うのだ。

そして80年代に昼間のラジオで「夫をどうしても愛せない」と言っていた女性は、たぶん幸福で、でも他人と自分を比べてなんだか自分は幸せじゃないんじゃないか、と思っていたと思う。
そうなると「人間の異性への愛情とはどこにあるのか、存在するのか、しないのか、もしかして自分で『ある』とか『ない』とか思い込んでいるだけなんじゃないか?」と思ったりもする。

まあ、そんなことはどうでもいいんだ……。
つまらぬことを書いてしまった。

おしまい

この記事が気に入ったら「スキ」(ハートマーク)をつけていただくとモチベーションになります。




この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?