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週刊レキデンス ~第17 回~ ピロリ菌除菌の歴史 こうやってたどり着いたのかも?

今では 1 次除菌は PPI+AMPC(アモキシシリン)+CAM(クラリスロマイシン)の 3 剤併用療法が標準療法ですが、この治療法にどうやってたどり着いたのでしょうか? 

始まりはビスマスから

PubMed で H.pyloriHelicobacter pylori で検索すると、1990年の報告が最初の方に出てきます。この当時は、コロイド状亜クエン酸ビスマス(CBS)とラニチジンを比較した試験など(1)、ビスマスを主に使用した治療法を試みていました。(2)(3)
また H.pylori も菌なので、同時期の抗菌薬を試みた治療方法では、フラゾリドンメトロニダゾールを比較した試験(4)が挙がっていました。
そして、翌年の 1991 年ごろからはPPIであるオメプラゾールを用いた報告が挙がってきます。(5)(6)
更に興味深いのは、現在の併用療法とは組み合わせが異なるものの(ビスマス+アモキシシリン+メトロニダゾール)、この試験で3重療法が当時は除菌率が良かったことが示されています。(7)この辺りから現在に近い形の併用療法が登場してきました。

 1993 年、ランソプラゾールが単独よりも、アモキシシリン併用した方が除菌率が良かった(25% vs 84%)という報告が。(8)
同時期になクラリスロマイシンの報告も出てきています。ここで興味深いのは、メトロニダゾール+ビスマス+テトラサイクリンが当時の標準と記載されている所です。この時もまだ、ビスマスが制酸薬の代わりの薬だったことが分かります。(9)

制酸薬の有効性

現在の様な、制酸薬が併用療法に組み込む必要であることを示すには制酸薬の有無で比較する必要がありますよね。
そこで、ついに1994年に出された報告で、制酸薬としてオメプラゾールを使用し、オメプラゾール+3剤併用(ビスマス+テトラサイクリン+メトロニダゾール)と無しの3剤併用を比較した所、オメプラゾール有りの方が十二指腸潰瘍治癒率が高かった(P=0.003)事が分かり、制酸薬がピロリ菌除菌に必要かもしれないと、少しずつ輪郭が掴めてきました。(10)
その後、オメプラゾールとクラリスロマイシンを併用した群がオメプラゾール単独よりも優位に除菌率が優れていました (P<0.001) また1年後の潰瘍再発率も併用群の方が有意に少なかったことが示されました。(P<0.001) (11)

ようやく登場

そして、ようやく1996 年に今の形の、オメプラゾール+アモキシシリン+クラリスロマイシンの 3 剤併用療法が登場してきます。この報告では、現在推奨の用量よりも僅かに多い、オメプラゾール 20㎎ +アモキシシリン 1000㎎ +クラリスロマイシン 500㎎ を 1 日 2 回でした。(12)

同時期 MACHⅠ study において3剤併用療法が約 90% 以上の除菌率があることを示しました。
OAC250:84%、OAC500:96%、OMC250:95%、OMC500:90%、OAM:79%、OP:1% でした。(O:オメプラゾール、A:アモキシシリン、C:クラリスロマイシン、M:メトロニダゾール、P:プラセボ)(13)
また、1999年に発表された MACHⅡ study では、OAC:94%、AC:26%(比較→P<0.001)、OMC:87%、MC:69%(P<0.001) とオメプラゾールの追加によって除菌率が高まることが示され、除菌における PPI の必要性がより強く求められるようになってきました。(14)

こうして、ビスマスを主要メンバーに携えて試し、徐々に抗菌薬を 1 つずつ加えていき「 2 つが良さそうかも」となり、更に制酸薬は H2 受容体遮断薬か、PPI か試行錯誤していく中で、PPI を選択した今の形に段々出来上がっていったようです。

現在の除菌療法

現在流通しているピロリ菌除菌セットは4種類です。
①ラベキュア、②ラベファイン、③ボノサップパック、④ボノピオンパック
元々 2000 年の 9 月に プロトンポンプ阻害薬(以下、PPI)とアモキシシリン750㎎ 、クラリスロマイシン200㎎ もしくは 400㎎ を 1 日 2 回内服する治療法が保険収載されました。
その後、2007 年 二次除菌としてクラリスロマイシンに代わりメトロニダゾールを含めた 3 剤併用療法が認められました。2010 年 6 月には、胃 MALT リンパ腫、特発性血小板減少性紫斑病、早期胃癌に対する内視鏡的治療後胃におけるヘリコバクター・ピロリ感染症の効能・効果が追加承認されました。
これらを含めたピロリ菌除菌の成功率を高めるには、用法用量を遵守し完遂することが大切であることが分かりました。そのために2010年3剤が1パックになっている ランピオンパック・ランサップ が発売されました。(15)(16)

その後 2016 年、通常のPPI の代わりにボノプラザンを用いたボノサップパック/ボノピオンパックが発売
すると 2018 年 7 月 2 日ランピオンパック/ランサップ 販売中止にすることを武田製薬は発表しました。(17)(18)理由は単純だ。除菌成功率が良い ボノサップ/ボノピオン の販売に注力するためである。

ボノプラザン(VAC) vs ランソプラゾール(LAC) で比較
除菌率:92.6%(95%CI 89.2%-95.2%)vs 75.9%(95%CI 70.9%-80.5%)、差は16.7%(95 %CI 11.2%-22.1%)ボノプラザンの非劣性を確認(P<0.0001)(19)
除菌率:95.8% vs 69.6% (95%CI:88.3-99.1% vs 57.3-80.1%) P=0.00003 統計学的有意差を示す(20)

非劣性だけでなく、統計学的有意差までも示されてしまったのです。 

参考

1. Hu FL,et al.Zhonghua Nei Ke Za Zhi. 1990 Jun;29(6):339-41, 382. Chinese.PMID: 2269032.
2. Rauws EA,et al.Lancet. 1990 May 26;335(8700):1233-5.PMID: 1971318.
3. Kazi JI,et al.J Pak Med Assoc. 1990 Jul;40(7):154-6. PMID: 2125658.
4. Xiao SD,et al.Hepatogastroenterology. 1990 Oct;37(5):503-6. PMID: 2253927
5. Catalano F,et al.tal J Gastroenterol. 1991 Jan;23(1):9-11. PMID: 1747501
6.Wagner S,et al.Z Gastroenterol. 1991 Nov;29(11):595-8. PMID: 1771934
7. Wagner S,et al.Z Gastroenterol. 1991 Nov;29(11):595-8. PMID: 1771934
8. Pallone F,et al.Clin Ther.1993;15 Suppl B:49-57.PMID: 8205595.
9. Peterson WL,Am J Gastroenterol. 1993 Nov;88(11):1860-4.PMID: 8237933
10. Hosking SW,et al.Lancet. 1994 Feb 26;343(8896):508-10.PMID: 7906759.
11. Logan RP,et al.Aliment Pharmacol Ther. 1995 Aug;9(4):417-23.PMID: 8527618.
12. Chen S, Zhonghua Nei Ke Za Zhi. 1996 Dec;35(12):799-802. Chinese. PMID: 9592303
13. Lind T,et al.Helicobacter.1996 Sep;1(3):138-44.PMID: 9398894
14. Lind T,et al.Gastroenterology. 1999 Feb;116(2):248-53.PMID: 9922303
15. ランピオンパック インタビューフォーム
16. ランサップ インタビューフォーム
17.https://www.takedamed.com/content/medicine/newsdoc/180702LANLPN.pdf
18.https://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/mem/pub/di/trend/201807/556817.html
19. Murakami K,et al.Gut. 2016 Sep;65(9):1439-46. PMID: 26935876
20. Maruyama M,et al.Can J Gastroenterol Hepatol. 2017;2017:4385161.PMID: 28349044


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