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週刊レキデンス ~第 16 回~ ピロリ菌を飲んでみたら

ヘリコバクターピロリこと、H.pylori の除菌方法が今の形になったのはどういった経緯があるのでしょうか? それを旅していくために、まずH.pylori が発見された所から探っていきましょう。

今からたったの 39 年前 

時は遡る事、39年前の 1983 年 ロビン・ウォレン(John Robin Warren) は消化性潰瘍を患っている患者さんの胃に湾曲した生物がいることを発見しました。これが H.pylori 菌の発見だったのです。後に バリー・マーシャル( Barry James Marshall )と研究を進めていくと、胃潰瘍や消化性潰瘍を患っている多くの患者の中にいることを突き止めました。(1)(2)後に彼らは、この功績を称えられ 2005 年のノーベル医学生理学賞を受賞しています。

衝撃的な実体験の記録

H.pylori を発見後、彼らの考えは中々浸透しなかった。そこで 1985 年バリーは自分の胃が H.pylori 感染陰性である事確認した上で、患者から培養した H.pylori を飲み込み自ら感染させ胃炎を起こさせたのです。(3)

この記録、行動にはびっくりしました。彼は、何故このような行動に起こしたのでしょうか?ここにインタビューを載せた記事があります。

「ジョン・ハンターが淋病と梅毒に自己感染した」歴史を読んだことがあるので、自己実験については知っていました。それに加えて、発見をしてから2年間H.pyloriが病原体であるいう事を証明できる動物モデルがいませんでした。 そこで、理論が正しければ私の胃が H.pylori 陰性である事確認した上で感染をすれば、数年後には胃炎や潰瘍を発症するでしょう。

そういった経緯で彼は、自分を胃、消化管を用いてH.pylori感染の証明を行ったのです。実際に接種した後、5日後の夕食後、腹部膨満感と食欲減退が生じ、その後透明な酸を含まない液体の嘔吐が生じ、その後内視鏡にて感染を確認したそうです。
その結果どうなったかと言いうと、記事には続きがありました。

14日後内視鏡検査を行い、結果が出る前に奥様の指示により抗生物質を飲み始めめたようです。しかし、その時の生検ではピロリ菌は検出されなかったようで、すでに自然治癒していた。(4)

という結末だったようです。なんという展開でしょうか、奥様の指示で結果が出る前に薬を飲んでしまい、さらには抗菌薬の影響で治癒していたのか自然治癒だったのかは分からず終いだったとは。

しかし、抗菌薬を用いた臨床試験の結果が出てくるのは 1990 年位なので、大分早い時期から抗菌薬で対応してしまっていたのですね。やはり「菌」だからでしょうか?またこの時なんの抗菌薬を飲んだのでしょう? 気になりますね。

参考

1. Warren JR, Marshall B.Lancet. 1983 Jun 4;1(8336):1273-5. PMID: 6134060.
2. Marshall BJ, Warren JR.Lancet. 1984 Jun 16;1(8390):1311-5.PMID: 6145023
3. Marshall BJ,et al. Med J Aust. 1985 Apr 15;142(8):436-9. PMID: 3982345
4. Marshall B.Can J Gastroenterol. 2008 Nov;22(11):895-6.PMID: 19018331


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