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週刊レキデンス~22回~腎性貧血の新たな幕開け

ここ 2-3 年、腎性貧血の治療薬が調剤薬局でも取り扱われるようになりました。何故調剤薬局で?この疑問に腎性貧血治療の歴史とともに振り返ってみようと思います。

HIF-PH 阻害薬とは?

まず、調剤薬局で腎性貧血治療が取り扱われるようになった大きなきっかけは、「 HIF-PH 阻害剤」の登場が大きく関わっています。

この薬なんて読むのでしょうか? 「HIF = ヒフ 」と呼んでいるようです。 「ヒフ-ピーエイチ 阻害剤」って読むみたいです。
 HIF-PH 阻害剤は、腎性貧血のエリスロポエチン(以下、EPO)の産生に関わってきます。 慢性腎臓病(以下、CKD)になると、EPO の産生が低下して貧血が生じてしまうのが「腎性貧血」です。

定義
腎性貧血とは,腎臓においてヘモグロビンの低下に見合った十分量のエリスロポエチン(EPO)が産生されないことによってひき起こされる貧血であり、貧血の主因が腎障害(CKD)以外に求められないものをいう。保存期 CKD 患者では、血中 EPO 濃度の測定が診断に有用なことがある。(1)

腎性貧血1

貧血状態になって全身への酸素供給が低下していくと、 HIF シナグルが亢進、EPO などのタンパク質産生が誘導されます。
つまり、体内は貧血状態及び酸素供給を改善しようと、代償機能が起こります。 この代償機能をより活性化させて腎性貧血の治療を行っていくのが主な目的、GOAL になります。


EPOHIF の標的遺伝子の一つです。HIF の転写活性は PHD(プロリン水酸化酵素)によって制御されています。
正常酸素状態(つまり貧血じゃない状態)では、HIF の内 HIF-1α はプロリン残基末端が PHD により水酸化されると、(ユビキチン化され、プロテアソームにより)分解されます。 低酸素状態になると、HIF-1α のプロリン残基末端は水酸化されずに、分解を免れる。 分解を免れた HIF は、EPO などのタンパク質産生への転写活性化が行われます。(2)(3)

腎性貧血2

しかし、腎性貧血による低酸素状態の HIF 活性化だけでは EPO 転写活性には不十分であるとの指摘があり、さらなる低酸素状態を作る必要があると研究が進められてきました。
そこで、人工的に HIF シグナルを更に活性化させるために、HIF を活性化させて、EPO の産生を促進させる HIF-PH 阻害剤が誕生、腎性貧血の改善が期待されたのです。(4)

過去の腎性貧血治療

HIF-PH 阻害剤が誕生するまでは一体どういう治療方法が行われていたのでしょうか?
主に3つ挙げられます。
1.輸血
2.EPO( rHuEPO (遺伝子組み換えヒトエリスロポエチン)製剤)の注射
3.ESA (赤血球造血刺激因子製剤)の注射

輸血から注射薬への移り変わり

rHuEPO の注射が始まるまで 1980 年代以前は、輸血を主に行っていました。 CKD で生じた貧血には、頻繁に輸血することが必要でした。しかし、輸血を何度も繰り返す事で起こりうるのが、感染症アレルギー反応の問題です。HIVB型肝炎C型肝炎が主な感染症として報告されています(5)
この様に感染症リスクが高い輸血を行っていましたが、1953 年  EPO がアラン・J・エルスレフ (Allan J. Erslev )によって発見されます。(6)

その後、 1957年 EPO の産生臓器が腎臓である事を レオン・オリス・ジェイコブソン( Leon Orris Jacobson 1911年– 1992年)やユージン・ゴールドワッサー( Eugene Goldwasser 1922年– 2010年)らが突き止めました。(7)

そこから 20 年後、1977年 ヒトEPO の単離・精製にユージン・ゴールドワッサーらが成功したのです。(8)

EPO の発見から 32 年の 1985 年。
ついに ヒト EPO の遺伝子クローニングに Genetic Institute 社と Amgen 社が成功、 rhuEPO の量産化へ歩んでいきます。 この技術の進歩により輸血でHIVなどの感染症が回避されることに繋がりました。(9)(10)

日本では、1990 年 rHuEPO  エポエチン アルファとベータの承認、販売が開始されました。

腎性貧血3


参考:

1.日本透析医学会雑誌 49 巻 2 号 2016
2.Journal of Japanese Biochemical Society 88(3): 302-307 (2016)
3.Haase VH.Kidney Int Suppl (2011). 2021 Apr;11(1):8-25. PMID:33777492
4.日腎会誌 2019;61(4):490‒498
5.Semin Dial. 2012 Sep-Oct;25(5):539-44.PMID: 22686519
6.Blood. 1953 Apr;8(4):349-57. PMID: 13032205.
7.Nature. 1957 Mar 23;179(4560):633-4. PMID: 13418752
8.J Biol Chem. 1977 Aug 10;252(15):5558-64. PMID: 18467.
9.Nature. 1985 Feb 28-Mar 6;313(6005):806-10.PMID: 3838366.
10.Proc Natl Acad Sci U S A. 1985 Nov;82(22):7580-4.PMID: 3865178


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