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週刊レキデンス ~第19回~ スタチンの治療が始まった 1次予防

コンパクチンは遠藤によって発見されましたが、有効性・安全性に疑念があり販売が断念しました。(1)(2)
しかし、それだけでは終わりません。三共(現 第一三共)は、コンパクチンの投与後の尿中活性代謝物水酸基を加えたものを開発。それがプラバスタチンだったのです。

それに対してメルク社は、他のカビ類(Aspergillus terreus )から抽出をした際にコンパクチンよりも炭素が 1 つ多い化合物を発見しました。それがロバスタチン(別名:メビノリン)です。 そこから更にロバスタチンから更にメチル基を導入して改良を重ねたのが、シンバスタチンです。

第一世代と第二世代

その後、合成で開発されたフルバスタチンアトルバスタチンロスバスタチンピタバスタチンが登場します。
前者の2つは半合成で誕生、後者は合成で誕生という違いから、前者を第一世代、後者を第二世代と表現することがあります。

では、いよいよスタチンのエビデンスに迫っていきましょう!!

WOSCOP試験

欧州では心筋梗塞の発症率が高いために、スタチンによる LDL-C の低下治療は冠動脈疾患への1次・2次予防が有効的であると判断されています。
イギリスでのスタチンの1次予防の大規模臨床試験と言えば 1995 年に発表された WOSCOPS 試験です。
この試験は、心筋梗塞を経験していない高コレステロール男性 6595 人を対象にした大規模な臨床試験です。結果は、平均年齢55歳、BMI26、血圧136/84 くらいの人たちに、プラバスタチン40㎎/日投与することで、致死的な心筋梗塞冠動脈心疾患死亡率の複合を31% RR:0.69 (0.57-0.83 P<0.001) 有意に減らすことが示されました。(3)

もう少し細かく見ていくと、致死的な心筋梗塞のみは -31% 、冠動脈心疾患死亡率は -28% でしたが、後者は有意差を認めませんでした。総死亡率に至っても -22% の減少効果は見られたものの同様に有意差は見られませんでした。

これは、平均年齢55歳と比較的若めの人が対象になっています。つまり働き盛りの人たちが含まれていると考えることも出来ます。 この人たちが今痛くも痒くもない高コレステロール血症で薬を飲み続ける意味は何だ??と問う時に私達が一緒に考えるきっかけになる気がします。 将来の心筋梗塞をどう捉えるか。今家族や大切な人がいる場合将来のリスクをどう評価して決断していくのか。その助けになるかもしれません。

ここまで大規模な試験結果が出ていれば、日本人にそのまま適応しても大丈夫でしょ。と考えることも出来ますが、多くの臨床医はこれらの結果を当てはめようとしませんでした。( MEGA study開始は 1994 年。 この時まだWOSCOS 試験結果は発表されていなかった )

その理由は罹患率の差にあります。

欧州や欧米では心筋梗塞の発症率が高い反面、日本では 心筋梗塞 < 脳梗塞 だったのです。
そのために日本人に対するスタチンで LDL-C の低下治療を行っても、脳梗塞リスクや死亡リスクを減らす事が出来るというエビデンスは当時無く、積極的な治療を施して良いのか議論となりました。(4)(5)

MEGA Study

そこで、日本人を対象にした低用量スタチンによる1次予防の試験 MEGA study1994 年に開始されました!
この試験では、心血管リスクのない群を対象に心血管イベントを含む複合アウトカムが33%の減少心筋梗塞は47%減少が見られました。
二次アウトカムですが、脳卒中(HR:083)のうち脳梗塞(HR:0.76)も減少傾向であったが有意差が得られなかった。また総死亡率も、28%の減少傾向だったがこれも有意差が示されなかった。ほぼほぼ WOSCOP 試験と同様な結果となりました。
しかし、試験デザインが PROBE 法というオープンラベルであること(通常は盲検化、特に二重盲検が望まれる)、複合アウトカムで WOSCOPS 試験よりも多くのアウトカムが含まれているために、結果が過大評価される可能性があるなどとして、単純にWOSCOPS 試験と同様に考えるのは気を付けた方が良いのでは?と多くの議論を呼んだのでした。(6)

参考

1. Endo A, J Antibiot (Tokyo). 1976 Dec;29(12):1346-8.PMID:1010803
2. Endo A.J Lipid Res. 1992 Nov;33(11):1569-82. PMID:1464741
3. Shepherd J,et al.N Engl J Med. 1995 Nov 16;333(20):1301-7.PMID:7566020
4. Circulation. 1994 Jul;90(1):583-612. PMID:8026046
5. Ueshima H,Circulation. 2008 Dec 16;118(25):2702-9. PMID:19106393
6. Nakamura H,et al.Lancet. 2006 Sep 30;368(9542):1155-63. PMID:17011942

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