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週刊レキデンス ~第15回~ 血圧治療どこまで下げた方がいいの?

血圧が高いと心血管疾患による死亡率が高くなる傾向にあるのが、フラミンガム研究(1)を始めとする多くの研究で分かってきました。そうすると、「血圧を積極的に下げよう」運動が始まります。ふと、ある1つの疑問にぶち当たりませんか?

血圧はどこまで下げたら良いのだろう?

この問題に対して、1979 年に 90mmHg 以下に減少した患者の心筋梗塞の相対危険度は拡張期血圧(以下、DBP)が 100-109mmHg の患者の 5 倍以上P<0.01)だったと、血圧を下げすぎる事もリスクが大きくなることが報告されています。(2)

Jカーブ現象

これはどういう事でしょうか?
大まかに表現すると、血圧が高すぎるとリスクが高く血圧が低すぎてもリスクが高い。これは、グラフにすると「 J 」や「 U 」を描くように見えることから、血圧の J カーブ現象が起こることを意味しています。

論文検索-実務実習 (5)

RCT

J カーブは、果たしてランダム化比較研究(RCT)でもその傾向は見られるのでしょうか?
あまり RCT の報告は無いのですが、主に取り上げられている試験は、HOT(Hypertension Optimal Treatment)試験です。この試験は、1998 年に高血圧の治療における最適な DBP 目標を探るために 90mmHg未満、85mmHg未満、80mmHg未満を比較したものです。(3)その試験の事後解析で、SBP:138.5mmHgDBP:82.6mmHg が一番リスクが少なく U 字型のグラフが得られることを示しました。(4) 
※SBP=収縮期血圧

観察研究

一方で観察研究はどうでしょうか。 1987 年、虚血性心疾患がある患者は、拡張期血圧と心筋梗塞の間に J 字型の関係がある可能性について報告しています。(5)更に、2006 年 DBP:84mmHg で CVD イベントが最下点に減少するという INVEST(6)試験の事後分析で J 字型のグラフが描かれる事が報告されました。(7)

更に、ACCORD試験 (8)とSPRINT(9)を組み入れたネットワークメタアナリシスでは、70-80mmHg が一番心血管イベントのリスクが少なく、60mmHg未満はリスクが高くなると報告がでています。DBP<60 HR:1.46(1.13-1.90 P=0.004)、DBP>80 HR:1.24(0.82-1.86 P=0.30)(10)

まとめ

Jカーブ現象についての議論は決着がついていませんが、腎疾患や脳卒中、動脈硬化や糖尿病などの基礎疾患を持っている群に対して過度の降圧は、虚血性心疾患を招く可能性があると考えられるのでは無いでしょうか?(11)私の個人的な印象ですが、何事もほどほどにすることが何よりも一番の治療なのかもしれませんね。

参考:

1:Kannel WB,et al. Dis Chest.1969 Jul;56(1):43-52.PMID:5789839
2:Stewart IM.Lancet. 1979 Apr 21;1(8121):861-5.PMID: 86103
3:Hansson L,et al. Lancet. 1998 Jun 13;351(9118):1755-62.PMID:9635947
4:Kang YY,Pulse (Basel). 2016 Jul;4(1):49-60.PMID:27493904
5:Cruickshank JM,et al. Lancet. 1987 Mar 14;1(8533):581-4.PMID:2881129
6:Pepine CJ, et al. JAMA. 2003 Dec 3;290(21):2805-16.PMID:14657064
7:Messerli FH,et al.Ann Intern Med.2006 Jun 20;144(12):884-93.PMID:16785477
8:N Engl J Med. 2008 Jun 12;358(24):254
9:N Engl J Med. 2015; 373: 2103-16.
10:Li J,et al.JAMA Netw Open. 2021 Feb 1;4(2):e2037554.PMID:33595663
11:Gaffney B,et al. ntegr Blood Press Control. 2021 Dec 14;14:179-187.PMID:34938115

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