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週刊レキデンス ~第8回~ GLP1作動薬 注射と経口

前回は、インクレチンの歴史を遡ってみました。
インクレチンについて振り返ってみましょう。インクレチンとは、食事により腸管から分泌されるホルモンのことであり、それにはGLPGIPがあります。このインクレチンは、血管を通って膵臓にたどり着き、β細胞からのインスリン分泌を促す事が出来ます。図1にまとめてみますとこの様な感じでしょうか。

さやぴー企画-インクレチン物語 経過

この動きを補助的に行っていくのがGLP-1作動薬、またインクレチンはDPP4という酵素によって分解されやすいため、その働きを抑える事でインクレチンの作用を増強させるDPP4-阻害薬があります。

GLP-1作動薬

今回はその中でも GLP-1 作動薬の話をしていこうと思います。
GLP-1 作動薬は現在日本では、6つの皮下注射剤と1つの経口薬が承認、発売されています。GLP-1はアミノ酸です。そしてGLP-1 作動薬は、GLP-1 とアミノ酸配列の相同性を有するヒトGLP-1 アナログ製剤です。そのため皮下注がメインになっています。


日本で最初に承認・発売されたのは、2010年6月 リラグルチド(ビクトーザ®)です。酵素によって分解されて、作用時間が短いために、ノボノルディスクファーマはGLP-1に脂肪酸を付加して作用の持続化を図ることで製剤化に至りました。(1)
しかし、2010年10月 インスリン治療から切り替え後の投与で、糖尿病性ケトアシドーシスを発症し、死亡例も報告されたことを受け、製造販売元のノボノルディスクファーマに「使用上の注意」を改訂すると共に、ブルーレターを配布するように厚生労働省医薬食品局安全対策課から指示が入りました。(2)

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何故ブルーレターが発されたのだろう?

なぜ、ブルーレターが発されたのでしょうか?経緯は以下の様です。
インスリン分泌能が低下又は、持たない病態の場合は、GLP-1作動薬を投与しても血糖降下作用を示しません。そのために、臨床試験の段階で1型糖尿病患者は除外されていました。 
しかし、実際はインスリン分泌能が低下している患者に対して使用されたことにより、高血糖状態を引き起こしたり、ケトアシドーシスが生じ死亡に至る症例がでてしまいました。このため、厚労省はブルーレターを発したのでした。つまり、「同じ皮下注射薬だけど、インスリン製剤の代わりに使う薬じゃないよ」という事をここで、私達はブルーレターのお陰で改めて認識することが出来ました。

それからのGLP-1作動薬

その後、エキセナチドやリキセナチド、デュラグルチド、セマグルチドが承認、発売されてきました。上記に示したように、GLP-1作動薬はアミノ酸のため酵素によって分解されやすく、経口投与には向かない薬です。しかし、2021年に経口剤の製剤化に成功し、承認発売されました。それは、サルカプロザートナトリウムを添加することで、酵素で分解されにくくなり、経口投与を可能にしたのです。それでも分解されにくくなったという限界のためか、服用のタイミングは、起床時の空腹時といった少し特殊な用法になっています。(3)

さやぴー企画-インクレチン物語くすり

GLP-1が経口剤になれたことから

タンパク質、アミノ酸からなる薬の経口投与が可能になったこの技術は、現時点で経口投与が難しいとされている、他の薬剤も経口化への発展する可能性があると考えられます。GLP-1作動薬の皮下注のように注射を患者さん自身の手で行うことは「恐怖感」を感じるでしょう。この恐怖感によって治療の導入が遅れてしまっては、更なる疾患や合併症の進行に繋がってしまう恐れがあります。もし経口投与出来る薬が増えたら、より患者さんのアウトカム改善に繋がるのではないでしょうか?

参考:
1:ビクトーザ インタビューフォーム
2:https://www.yakuji.co.jp/entry20845.html
3:リベルサス インタビューフォーム

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