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「勝手に DI 室」妊婦への投与 高血圧/心不全

令和 4 年( 2022 年)にカルシウム拮抗薬 2 剤(アムロジピンベシル酸塩及びニフェジピン)の「使用上の注意」の改訂が行われました。(1)


背景

妊婦さんの血圧が高いと、PIH (妊娠高血圧症候群)の発症リスクが 7.7 倍に上がったり、早産リスクが 2.7 倍新生児死亡率が 4.2 倍になるなど、母子ともにハイリスクとなってしまうことが知られています。(2)

このように妊婦さんが血圧が高い状態を、妊娠高血圧症候群(HDP=Hypertensive Disorders of Pregnancy)と呼びます。
もともと、妊娠中毒と呼ばれていたものが、2005年に妊娠高血圧症候群(PIH=pregnancy induced hypertension ) (3)に、さらに2018年に「妊娠時高血圧を認めた場合、妊娠高血圧症候群とする」と定義されて、HDP に名称変更がなされています。

そのため、血圧コントロールは 140/90mmHg 未満を目標にするのが良いと考えられています。
1 つこんなコホート研究があります。合計 18,155 組の母と子を妊娠 20 週後の血圧に応じて 4 つのグループに分類して解析を行いました。やはり、血圧が140/90mmHg 以上の患者さんは、早産などのリスクが高い事が読み取れます。(4)

Hypertens Res. 2024 Jan 18.PMID: 38238512.

ここ数年前まで、妊婦に使用が出来る降圧剤は、メチルドパやラベタロール、ヒドララジンなどと限られていました。しかし実際に日本のデータベースを基に解析した結果、アムロジピンとニフェジピンの使用歴があり、安全性について非投与群と比較して統計学的な差も無かったことから「禁忌」が解除と至りました。(5)

カルベジロールとビソプロロール

令和6年(2024年)には、カルベジロールとビソプロロールの妊婦への投与について検討が行われました。(6)

背景

これは、①慢性心不全に対する両剤の需要が高まっていること、②高齢出産の増加、③先天性心疾患患者の予後の改善が行われていることを中心に検討が行われました。 

現状で妊婦に投与が出来る β 遮断薬( αβ 遮断薬)はアテノロール、プロプラノロール、ナドロール、ラベタロールです。これでは循環器ガイドラインで心不全に有効性が期待されているカルベジロールとビソプロロールが使用できず、機会損失に繋がってしまう恐れがあります。(7)

ビソプロロールの検討であるが、以下の研究結果により、(文献1)先天異常について有意な発生率の増加とは関連が無く、(文献2より)心奇形性は妊娠初期で高まったが、ビソプロロール特有のものではなく、他の降圧薬と同様の結果であったと判断が行われました。

それでも使えない降圧薬

それでも妊娠の可能性のある患者さん達に、胎児に影響があったという報告が増えている薬があります。それが ACE阻害薬やARBを使用した場合です。これについては、厚労省から注意喚起が2023年5月に発されました。(11)(12)(13)

まとめ

① アムロジピンとニフェジピン:妊婦への禁忌解除(高血圧観点から)
② カルベジロールとビソプロロール:妊婦への禁忌解除(慢性心不全観点から)
③ ACE阻害薬とARB:禁忌継続

参考

1.アムロジピンベシル酸塩及びニフェジピン)の「使用上の注意」の改訂https://www.mhlw.go.jp/content/11120000/001015135.pdf
2.BMJ. 2014 Apr 15;348:g2301. PMID: 24735917
3.心臓 Vol.146.No.11(2014)
4.Hypertens Res. 2024 Jan 18.PMID: 38238512.
5.Pregnancy Hypertens. 2023 Mar;31:73-83.PMID: 36646019
6.カルベジロール及びビソプロロールの「使用上の注意」の改訂について https://www.mhlw.go.jp/content/11120000/001232817.pdf
7.心疾患患者の妊娠・出産の適応,管理に関するガイドライン(2018 年改訂版)日本循環器学会 / 日本産科婦人科学会合同ガイドライン
8.J Hypertens. 2018 Oct;36(10):2109-2117 PMID: 29985206
9.Eur J Clin Pharmacol 2009; 65(6): 615-625.PMID: 19198819
10.Circ J. 2016 Sep 23;80(10):2221-6. PMID: 27593227
11.ACE阻害薬または、ARB使用の妊娠・妊娠の可能性のある患者さんへの注意喚起  https://www.pmda.go.jp/files/000252410.pdf
12.2023年5月のDSU https://dsu-system.jp/dsu/web/viewer.html?file=/dsu/317/317.pdf
13.2023年5月18日「医薬品・医療機器等安全性情報」No.401
https://www.pmda.go.jp/files/000252524.pdf



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