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【小説】彼女と僕〜あと100日で新型コロナウイルスは終わります〜

 大人になっても少年の心を持っている人がタイプ。なんて言葉を昔はよく聞いた。結局それは嘘で、男前でお金がある前提の中においては、少年っぽい人が更にモテ要素を持っているということだ。

 自分で言うのも変な話だけれど、幸いにも僕はこの最低条件をクリアしている。ただし、「そこそこ」がついてくる。
 そこそこ男前で、そこそこお金持ちである。けれどモテない。なんて話をしていると「限度あるし。」とツッコミを入れてくれる女友達くらいはいる。

 梢は昔は彼女っぽい存在だった時期もあったが、早々に「ちゃんとした彼」を作り、結婚、出産と昭和世代の理想のようなスケジュールで人生を進めていた。子育てが一旦ひと段落した最近、僕の会社の手伝いに週3日程度、事務所に遊びにきている。

 そう、本来であれば僕の経営するイベント会社は忙しく、梢の手ならぬ、猫の手も借りたいような時期が年に数回ある。しかしながら今年に限っては常に暇なのだ。

 新型コロナウイルス。

 昨年末に世界的に流行が始まったこの未知のウイルスのおかげで、春から秋にかけてのイベントは全て中止となった。
 特に忙しくなるゴールデンウィークの準備を見越して、梢に手伝ってもらうように声をかけたのだが、手伝ってもらう仕事がなくなってしまった。梢は自身が暇であることと、僕が暇だと知っていることもあり、週に3日程度遊びに来ているということになる。一応、全額ではないが、アルバイト料は支払っているので、これでも雇用主と従業員の関係ではある。

「っていうか、かずくんさぁ、結婚しないの?」
「いや、相手いないし。」
「昔はモテてたのにねぇ。」
「掘り出し物だと思うけど?一応社長だし、年取ったけどイケメングループには入ると思うし、腹筋も一応割れてるし。」
「厨二病じゃん。」
「少年の心を持った大人ってことで。」
「程度の問題。ちょっとやばめじゃん?」

 世間がコロナ、コロナうるさいし、ワイドショーもずっとコロナ。そんな中、独身と既婚者、社長と専業主婦、男と女、メタル好きとK-POP好きとことごとく共通点のない40代2人が揃うと無言の時間が生まれる。
 無言の時間が始まり、どちらかが耐えられなくなったとき、この会話が繰り返される。

「SNSとかやってたっけ?」
「一応やってるよ。イベント会社だから使い方は知っておく必要があるし、アルバイト募集したりしてるし。」
「ふーん。」
「イベントの告知は版権とか色々あるから、うちの会社ではやらないけどね。うち主催のイベントとかは無いから。」
「じゃ、暇だよ〜って内容アップしてみたら?」
「は?」
「だって暇じゃん?しかも昔から無駄に文才あったじゃん。暇な毎日をアップし続けてみたら?今ってそう言うのが仕事になったりするんでしょ。」
「コンテンツビジネス?あれは元々フォロワーが多い人だから成立するんだよ。それにそのためにフォロワー増やすのとか面倒だし。」
「いいじゃん、いいじゃん。」

 僕はその日から梢に言われたように記事をアップしていくことにした。

「おじさんだからFacebookじゃない?」

この一言でFacebookで記事をアップしていくことになった。あまり、僕個人を全面に出したくもなかったので、会社のページを管理ページとして作成し、そこへ記事をアップするようにした。

・ネガティブにならないように
・自虐ネタに走らないように
・嘘にならないように

これだけを注意して書くことにした。

 しばらくすると昔のアルバイトや友達を増やしたいビジネス系の人たち、元々の友人、地元の友人たちから少しずつ友達申請と管理ページへのいいねやフォローが集まるようになった。と言っても数は少ない。
 コメントがあれば返信し、返信が3往復も進むといいねで切るなど新しくルールを追加しながらFacebookのページを運用していった。本業が全く暇だったので、いい暇つぶしだった。

 「やることできたじゃん。忙しくなったら手伝いに来るから、また言ってね。」

 と言う一言で梢は来なくなった。昔から自由人だったのでさほど気にもならなかったし、このご時世、少ないがアルバイト料を払っていたので、少しだけ安心もした。

直子:お久しぶりです。代表の方とは大学が同じで、懐かしくてコメントしてしまいました。こんなご時世ですが、頑張ってくださいね。

 名前で直感はしたけれど、まさかな?と言う昔馴染みからのコメントがついた。

A社:ありがとうございます。お久しぶりですね。

 僕はA社の人(SNSの中の人)と言うことを忘れて、普通にコメントに返信をしてしまった。あ!と思ったが、削除するのも変だなとコメントはそのままにDMでの連絡に切り替えた。

かず:久しぶり。コメントありがとう。よくたどり着いたね。
直子:偶然見つけたんだよね。だって、ほら、今めちゃめちゃ暇だから。
かず:直子の会社も暇なんだ。
直子:うん。うちは工場だから密になりやすいんだよね。ラインとか。私は事務なんだけどクラスターになると厄介だからって交代で出勤することになったから。今は週休3〜4だよ。暇。
かず:どこも大変なんだね。

 直子の今の状況は全く知らないが、それを知るために、少しだけカマをかけたメッセージを送った。

かず:でも旦那とか子供とかも家にいるから色々大変なんじゃない?
直子:いや、独身だし。

 少しだけ、心が躍った。
 僕と直子は同じ大学、同じ学部、同じゼミの同級生だった。当時、僕はそれなりにモテていて、割とチャラい感じの大学生だった。いわゆるセフレのような子も何人かいたし、梢も友達以上恋人未満ではなく、セフレ以上恋人未満だった。
 直子もお気に入りの子の1人だったのでその中に加えたくて何度か口説いたこともある。感触としてはイケる!だったが、何度も玉砕した。最後に玉砕した時になぜダメなんだ?と言う情けない質問をした。直子は

「ダメじゃないんだけど、私以外が多すぎる。それにかずくんは、何でもすぐに出来て、何でもすぐに飽きるでしょう?だから、もしも私以外の人を全部切って、私だけって付き合ってもすぐに飽きると思う。っていうか、飽きるって確信してる。だから絶対ない。」

 僕は、よくわからない説明だったけれど、最後の「絶対ない」が強く響き、トラウマのように直子を口説くことができなくなった。

かず:独身なんだ。だったらさぁ

 急に焦ったのか、改行と間違え送信してしまった。そして直子がわかっていたかのように即レスしてきた。

直子:ダメ。だって飽きるじゃん。
かず:今度は飽きない。それに今は僕は1人だから直子以外の女の子が多いわけじゃない。
直子:飽きないって証明もないし、結局コロナだから会えないし。
かず:わかった。じゃ、100日経って、まだ僕が直子と付き合いたいと言う気持ちがあれば、付き合おう。
直子:100日って短っ!
かず:短くないよ。100日の前に大学卒業から20年ずっと好きだったから。
直子:へぇ〜。でもなんで100日?
かず:あと100日で新型コロナウイルは終わります。​


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 今回はこちらの企画に参加させていただきました。早く、「収束」ではなく「終息」して欲しいという願いもこめ書きました。
 皆様の暇つぶしになったら嬉しいです。


いただいたサポートだけが僕のお小遣いです。ジリ貧(死語)