ハート-連載小説-

第1章 破壊

第一節 世界が逆さまになっている

心臓から碧くてどろどろとしたものが落ちてくる。翔は心を落ち着かせるために、(水筒の)水を飲んだ。これで5杯目だ。とうに喉は潤っている。でも、水を飲まずにはいられなかった。一瞬記憶を失いそうになる。なんとか正気を取り戻す。教授がホワイトボードに世界遺産の名前を書きながら何か説明している。

この日、翔は3度パニックになっていて、とうに限界を迎えていた。そういう日はたいてい記憶がない。これ以上聞いたら、パンクすると脳が判断して、聴覚神経を麻痺させる。防衛本能なのだろう。そんなことを考えながらも意識がギラギラしている。「この人を切りつけたらどうなるのだろう」という強迫観念が次から次へと浮かんでくる。死んだように眠る。

気づくと大学の最寄駅にいた。翔は山形行きの電車に乗った。いつも通りの混雑具合だ。何も考えることができない。呼吸が苦しくなる。そして、家に帰った。

 次の日、僕は2限を欠席し、3限から行くことにした。それでも、翔はベッドから起き上がれなかった。欠席の連絡を教授にすると、また眠りにつく。

 そうだ。こうなったのはいつからだろう。中学の頃、翔はいつも一人だった。 その時に、未来と一緒にいた。はじめて付き合った相手は未来だった。未来と一緒にいると空虚な精神に何かを注がれている気がした。しかし、そのコップに底はなく、 いつも満たされていない気分。

 「そうか。」ため息をついた。部屋は南向きで12時には28℃を超える。それが寝苦しさを与え、仕方なく翔は起きる。口を濯いで、歯磨きをした。
 翔は菓子パンを頬張り、身支度をして、大学へ向かった。



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