容姿
「あなた、私と付き合ってくれない?」
人違いかと思い振り返ってみるが、そこには誰もいない。どうやら相手は私に向かって言っている様だ。そんなことが現実に起こりうるのだろうか。
なぜなら相手は学校の中でも5本の指に入るくらいの容姿であり(あくまで私個人の印象だが)、加えて学年でトップ3の学力を持つ俗にいう高嶺の花的な存在であるAだったからだ。対する私は成績は真ん中より少し下、部活にも入っておらず、17年間ほど生きてきて容姿について誉められたことは一度もない。そんな私が今、Aから告白をされている。
「付き合うって、その、言葉通りの意味だよね?」
私は言われた言葉の本当の意味を推測しながら聞いた。
「そうよ。他にどんな意味があるというの?それで、答えは?付き合う?付き合わない?」
Aは言った。
どうやら本当に私と付き合う気のようだ。しかし告白の割には、いささか好意というものがかけている気がした。しかし、恋愛という意味での好意を向けられたことがなかった私は、彼女の本心は知る由もなかった。
私は彼女の申し出を受け入れ、交際がスタートした。
交際している間は、本当によくある高校生の付き合いとなんら変わりはなかった。放課後に一緒に帰ったり、休日には二人で映画やショッピングに出かけたり、もちろん手を繋いだり、キスもした。
ある休日、私はAの家で二人で映画を見ていた。何の映画を見ていたかは忘れてしまったが、映画を見終わった後の少し手持ち無沙汰な時間に私はAにある疑問を投げかけた。
「君は何故僕と付き合いたいと思ったのかい?僕よりも容姿に恵まれていて、学業やスポーツで優秀な奴なんていくらでもいるじゃないか。」
彼女は顔色ひとつ変えずに私の疑問を聞いていた。そして、ふっと微笑みこう返した。
「私がいつも付き合いたいと思う人は、決まって容姿が優れていない人なの。これは悪い意味で言ってるんじゃなくて、あくまで一つの事実としてあるものなの。確かにあなたよりも容姿が優れ、能力が秀でている人なんてたくさんいるわ。でもそういう人たちと喋っていると何故だかとってもつまらないの。私が話していて面白いと思う人はみんな周りからブスと言われる人ばかり。変わってるねなんて言われるけれど、私からしてみたらあなたたちの方こそどうしてあんなにもつまらない話を目を輝かせて聞いてられるのか不思議でならないわ。傷つけてしまったなら、謝るわ。」
私はこの答えを聞き、妙に納得したのを覚えている。
そこからAとは卒業まで付き合った。大学はそれぞれ別々のところに合格し、次第に連絡を取らなくなり自然消滅の様な形で彼女との関係は終わった。あれから一切彼女とも連絡は取っていないし、彼女がどんな人生を送っているのかは全くわからない。ただふとあの時の会話をときどき思い出しては、忘れるを繰り返している。
*完全なお作り話です
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