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財布を乗せた高速バスを追え。

皆さんは財布を忘れた経験があるだろうか。
今ではキャッシュレスが進み、最悪財布がなくてもスマホだけで支払いができ、どうにか生きていける時代になった。
でも数年前ならどうだろう。
例えば居酒屋に財布を忘れたら歩いて帰らなければならなかっただろうし、旅先で無くしてしまった日には最悪だ。

1.はじまり

あれは4年前。
僕が大学生の時に、和歌山の高野山で開催される地方創生のイベントに急遽代打で参加した時のことだ。
当時僕が暮らしていた宮崎から高野山までは次のような交通手段を予定していた。

まずは飛行機で宮崎空港→伊丹空港へ
その後、高速バスで伊丹空港→難波駅に
そこから電車とケーブルカーで難波駅→高野山駅へと行く。
まぁ〜遠い。遠い。
遠いというか行きづらい。

2.いざ高野山

当日の朝、飛行機で伊丹空港へ向かった。
いつも大阪に行く時には格安のピーチを使って関空に行っていたので、伊丹に来たのは久しぶりだった。高速バスの乗り場に少し迷いながら無事に乗り込み、ここから難波駅までは揺られるだけだ。席に座って数分すると、飛行機に乗った分の疲れが来てすぐに寝てしまった。

………

ふと目を覚ますともう難波駅が見えていた。
「あ、やばいやばい」と思ってバタバタと降りる準備をする。

無事にバスを降り、駅に向かうまでの間にSuicaを財布から取り出すために財布を取り出そうとポケットを探る。余談だが僕はせっかちな性格で、次やることを見越して、そこに移動する間に財布やらスマホやらを準備しておく習性がある。

ゴソゴソ…
ゴソゴソ…
ないなぁ…

ポケットに財布がなかった。

「あれ?バッグに入れたかな」と思ってバッグもみるがない。
ここまでバスを降りて30秒くらい経っている。

え、まさかバスの中⁈
うわ、そうだわ!
前座席に付いているネットに財布入れたわ
‼︎

そう確信を持ったが、あまりにもやばいハプニングすぎると人は思考が止まる。

え、まじでないじゃん。
どうしよ。

一瞬で青ざめた。
そしてすぐに頭が働く。

え、これお金なかったら高野山にも行けないじゃん。
代打なのに行けんやん!
ちなみに今回の移動費は全てその行くはずだった人から出してもらう。
その人に合わせる顔がない。
財布バスに忘れてイベント参加出来ませんでしたっていう理由なんて聞いたことない。

仮に高速バスの会社に電話しても、受け取り場所まで行けるかわからないし、受け取って高野山に向かっていてはイベントに大遅刻する。
いずれにせよやばい。やばい!
も〜旅の初っ端から何ちゅうトラブルや
‼︎‼︎

3.財布を乗せたバス

というかバスはどこだ!
既に降りて1分ほど経過している。

パッとバスが走った方向を見ると、とーーーーくに見える見える。
俺の財布を乗せているであろうバスが。

バスまで500mくらいあるだろうか。
もう考えてる暇はない。
とにかくやれることはやろう!

次の瞬間、運動会のリレーばりに街を走り出した。
大阪の街は人が多い。
人の間を縫い、人が多すぎて通りづらい道はフェンスを乗り越えてプロのパルクール選手ばりにバスを追いかけた。
バスは信号に引っかかっては進み、また引っかかりを繰り返している。

近づいては離され、近づいては離されを繰り返す。


と、恐ろしいことに気づいた。
俺が乗っていたのはただのバスではなかった。高速バスだ。
バスの行く先を見ると、高速道路の入り口らしき方面に進んでいるではないか!

あそこに乗られたら終わる。The ENDだ。

高野山に行くことも出来ないし、宮崎に帰ることも出来ない。
なぜなら無一文だから!!!

もうとにかく走りに走って走りまくった。
街ゆく人の目なんて気にしてる場合じゃない。
たまに結構急いで走っている人は見かけることがあると思うが、急いでるどころではない人が走っている。
文字通り必死だ。

バスまであと200m

もうすぐでバスに追いつくが高速道路の入り口が迫る。やばいやばい。
頼むって!

スタミナは既に切れていたが、ここでギアを上げて追いかける。

4.バスVS俺の結果は…

ここで赤信号にまたバスが引っかかった。

よしよし。
いいぞ!いいぞ!赤信号!
こんなに普段は嫌われ者の赤信号に感謝する日はもうないだろう。

頼むから待ってくれバス。いや俺の財布‼︎
ようやくバスに追いついた!

が、運悪くバスは3車線あるうちの歩道側ではなく真ん中に停止している。

信号が青になったらどうしよう…
事故に遭う可能性もあるな…
と思ったが、意を決して停止している歩道側の車の間を通り、バスのドアを鬼の形相でノック。ジェスチャーで忘れ物をしていることを伝えた。

運転手さんは驚いていた。
そりゃそうだろう。
普通、車に乗って真ん中の車線で止まっていても、人がノックしてくることなんてまぁない。

運転手さんは何かを察したのか、すぐにドアを開けてくれた。
とっさに乗り込み、自分の座席を確認する。

あった‼︎よかった〜‼︎‼︎

すぐにバスを降りて、歩道に避難。
なんとか財布を取り戻した。

勝利の余韻に浸りながら、駅へ向かう。

サッカーやっててよかった…
学年リレー選ばれるくらいだけど短距離割と早くてよかった…

5.あとがき

その後は無事に高野山に着いてイベントに参加することができた。

ちなみに、次の日の早朝に高野山から宮崎に帰ることになっていたので、宿から高野山駅まで歩いていた時…
目の前から

ガサッ‼︎

と音がしたので顔を上げると
野生のシカが

何か?

みたいな顔でこっちをみていた。

いや、「何か?」じゃねぇよ!

わかる人はわかると思うが、ポケモンで草むらに入ったらいきなりポケモンが飛び出してきて戦闘シーンに入るような感覚だった。
思わずポケモンの戦闘BGMが頭の中で流れた。
その後、シカは何度かモンスターボールを当てるも捕まえ切れなかったポケモンのように山の方へ消えていった。

高野山の神様がシカをお使いに何かを僕に伝えてくれようとしているのかと思ったが、特によくわからなかった。

僕は眠い目を擦りながらケーブルカーで高野山から降りて、平凡な日常が待っている宮崎へ帰った。

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