見出し画像

『この気持ちもいつか忘れる』感想



住野よるさんによる最新作、
『この気持ちもいつか忘れる』を読んだ。

皆さんにおすすめしたい思いもあるので、ネタバレを避けつつ感想を少しまとめておきたいと思います。(※まっさらな状態で読みたいという方は念の為ご注意ください。)


作者の住野よるさんは、『君の膵臓をたべたい』や、現在実写映画が公開されている『青くて痛くて脆い』を書いた方で、僕自身、新作が発表される度に読ませて頂いている、大好きな作家さんです。




『この気持ちもいつか忘れる』


【あらすじ】
退屈な日常に飽き飽きしながら暮らす高校生のカヤ。平凡なクラスメイト達を内心で見下しながら、自分自身も同じくつまらない人間であることを自覚していた。そんなカヤが16歳の誕生日を迎えた直後、深夜のバス停で出会ったのは、爪と目だけしか見えない謎の少女だった。突然のあまりに思いがけない出会いに、動揺するカヤ。しかし、それは一度だけのことではなく、その後、カヤは少女・チカと交流を深めていく。どうやらチカはカヤとは異なる世界の住人らしい。二人の世界には不思議なシンクロがあり、チカとの出会いには何かしらの意味があるのではないかとカヤは思い始める。


【公式サイト】




ロックバンド THE BACK HORN さんとの共作となっている本作。先行限定版にはミニアルバムも付属している。

小説と音楽の世界観の共有を味わう、初めての読書体験だった。互いに影響し合ったからこそ生まれたであろう物語と歌詞は、“蜜”に結びつき、合わさって一つの作品になっていた。
是非 THE BACK HORNさん による楽曲と共に読んで欲しい一冊です。



よるさんの作品には、自分の中に、そして誰の中にでもあるであろう心の一部分を、さらに濃く煮詰めたような価値観を持った主人公が登場することがある。
本作の主人公、カヤもまた同じで、周りや自分のことを「くそつまんねぇ」と蔑み、諦めながらも、“特別”を追い求めているような青年だった。
そしてそんな極端な価値観にも、共感を覚える自分がいた。


よるさん初の恋愛長篇となっていた本作。
異世界の少女とカヤの、お互いのことを知りたいという思いや触れ合いが、丁寧に、儚い緊張感を漂わせながら紡がれていく。その特別な恋愛(レンアイ)体験を、僕は鼓動を早め読み進めていった。同時に、そこに少しの“危うさ”を感じながら。

その“危うさ”に打ちのめされてからの後半は、実によるさんらしい作品の内容だったと思う。前作である『青くて痛くて脆い』や『よるのばけもの』に通じるものも感じた。
これまでの価値観をぶっ壊され、心を揺さぶられるような感覚。カヤが自問自答を繰り返していくのと共に、僕自身も目まぐるしく感情が移り変わっていった。

また、よるさんの作品はタイトルに意味が込められていることが多い。
だからこそ、読み進めていくうちに頭を掠めるようになる「この気持ちもいつか忘れる」という言葉。“忘れた”先に待っているのは、幸か不幸か。

それは是非この物語を読み、自らの目で確かめて頂きたい。



読み終わった後に、付属していた THE BACK HORN さんによるミニアルバムを聴いた。どれも素敵な曲だったのはもちろんのことだが、曲を聴くことで、物語に対する見方がさらに広がっていくことが嬉しかった。逆もまた然りで、曲の歌詞も、物語と合わさることで完成するように思えた。

映画×音楽というのはよく体感するものだが、小説×音楽という掛け合わせを、これほどまでに深く楽しんだのは初めてであった。


よるさんの作品には、いつも自分の考え方が変わるくらいの影響を与えられている。今作も、そんな作品の一つであった。生涯の一冊として、これからも何度も読み返していきたい。



といったところで、簡単にでしたが『この気持ちもいつか忘れる』についての感想でした。
気になった方は是非、読んでみてください。



さて最後に、一度読み終えて気になったところや謎について、少し書き出しておこうと思います。謎は謎のままという可能性も大いにありますが、もし読んだ方で感想や考察がある方がいたら、コメントやTwitterなどで教えて下さると大変嬉しいです。


※この先はネタバレを含みます



①カヤの世界はどのような世界か?
戦争が始まり戦時中になっているようだが、普通に日常は送れている様子。時代感も、現代っぽいけど明確には掴みずらい。けど、ここはわざと曖昧にしている気もする。


②名前の伏線
「前の席の田中」と「横の席の田中」が出てきた時に少し違和感を感じてはいたんだけど、まさか伏線だったとは気づけなかった。そもそもいちいち「アルミを飼っている」とか付けていたのも伏線かな。
出席番号が近いというのは鈴木と須能で理解できるけど、斎藤でも近くはあるので、これは伏線とまではいかない気がする。和泉はラストで触れられてますよね。
呼び方に意味を持たせるというのは、『君の膵臓をたべたい』にも通じる方法だなと感じた。


③「見つからないように」とは?
正直これが一番気になる。ほぼカヤしか言っていなくて、一度だけ兄が言っていたはず。チカとの別れのシーンでも言っているので重要な言葉だとは思うし、よるさんが書くこの手の言葉にはちゃんと意味があるような気がするんだけど……読み直します……


④チカが会っていたもう一人は誰か?
ずっと斎藤(紗苗)だと思ってたんだけど、ミスリードだった。女性であることは確実。今ふと思ったけど和泉かな……要考察。


⑤「ふりをしていたんだね」の意味
まだ自分の中でしっかり飲み込めていない部分。これは自分の解釈で理解していきたいので、ゆっくり考えていきます。



こんなところでしょうか。正直チカ関連では他にも気になるところはありますが、そこはファンタジーなのであまり深く考えても仕方ない気がしています。意見や感想、他の気になるところなどもあれば、教えて頂けると嬉しいです。



ネタバレなしで感想を書くにあたって、カヤの心の成長について触れられなかったのがもどかしかったです。最後に成長することが分かっていると、途中の展開のドキドキが減ってしまうと思ったので。
今作は、今までの物語以上にハッピーエンドかバットエンドかがよめない作品でした。

それにしても、よるさんの作品に登場する女性はほんとに“強い”。僕自身、主人公と同様に彼女達から学ばされています。
往々にして、だいたい拗らせるのは男の方なんですよね。女性の方が案外サッパリしている。そういった登場人物の心情に共感するのも、僕がよるさんの書く物語が好きな理由です。


また次の作品も楽しみに待ちながら、今は『この気持ちもいつか忘れる』の余韻に浸りたいと思います。


最後まで読んで下さりありがとうございました。

それでは。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?