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声楽タイムズ第19回 Lois Alba『Vocal Rescue』

この note では「声楽タイムズ」と題しまして、声楽コラムや声楽曲の紹介、発声文献や本の紹介など、日本声楽家協会研究所会員の執筆した様々な角度からの声楽にまつわる記事を掲載します。
今回は日本声楽家協会研究所会員のテノール歌手、渡辺正親さんに英語の声楽文献の紹介を書いていただきました。
この記事では、Lois Albaの著書『Vocal Rescue』の内容の中から取り上げております。

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渡辺正親 テノール
都留文科大学、東京藝術大学卒業。ニューヨークIVAI修了。日本声楽家協会研究所会員。新国立劇場合唱団契約メンバー。洗足音楽大学演奏補助要員。ベルカントアトリエ講師。

Lois Alba『Vocal Rescue』

皆様こんにちは。声楽家・オペラ歌手の渡辺正親です。
今回はLois AlbaのVocal Rescueより引用、意訳をし、歌唱における10の神話とそれに対しての著者 Lois Albaの考えを紹介します。ご参考ください。

※→はLois Albaの考え。()は渡辺による解釈。

1.声の美しさは意図的な筋肉コントロールに依存する

→もしこれが真実であるなら、我々は筋肉の回路図を知り、どの程度操作するかを知る必要があります。私からすると、この神話は奇妙な話で、声は耳で識別することに依存するものだと思います。

(筋肉のコントロールを学ぶことは重要ですが最終的には無意識で行うものと私も思っております。人間は個人差はありながらも最大およそ7つまでの“思考”を脳は処理できるそうですが、動作は神経回路も複雑なため2つくらいまでしかできないでしょう。そのため無意識のコントロールが重要になると言えます。)

2.大きな声は「喉を開ける」ことによってどの程度の空間を作るかどうかという事と同等である。

→喉を開けることばかりやっていると音は喉の後ろに行き、間違った感覚を与えてしまい、(そば鳴り)さらに舌が力んでしまう。

3.軟口蓋は常に上げていなければならない

→これをやると、カヴァーされた音や自然な輝かしい高音を作れなくなります。

4.喉頭は常に低く保持する

→これは「保持する」ということころが鍵です。常に保持すると後年声が揺れます。(低喉頭そのものを否定はしていないようです。)

5.良い発音はそれぞれの母音においてどこに舌をセットするかを知っておく必要がある。

→明確に発音するために筋肉をコントロールしながら自然に歌うのは不可能です。聞くことが大切。(耳から入るということ)

6.歌手の耳には声は上行形、下降形スケール関係なく同じサイズ感に感じるべきである。(音域すべて同じクオリティの声ということだろう)

→間違っています。高音でサイズ感を同じままにしてしまうと音は広がってしまいます。(開いた声、白い声など)解決策は母音を丸くし、声が小さく、細くなるような感覚を許容することです。(→これとほぼ同じ意見をチェザーリ、ジーリも述べています。Voice of the mindなどを参照)

7.母音と子音は同じ動作、同じ場所で作る

→結果としてはそのように思えるでしょう。しかし実際、子音は母音よりも上にあるかのように場所を感じ、作るものです。ただ子音をささやき声で発音し、その後即座に母音を歌うことでこれが達成されます。

8.大きな息の排出は高音に大きな力を与える

→真実は正反対です。少ない息が高い強度を与えます。これと細くなる感覚(6を参照。)を融合させましょう、喉に空間を作らないことです。

9.スタジオでは音楽とテクニックのみに集中しなさい。そしてその後、あなたがステージに出るときキャラクターに神経を集中させなさい。

→リハーサルであろうともあなたが音を出すときは言葉の裏にある感情に命を与るべきです。もしそうでなければ、ステージでもあなたの役に命が宿ることはありません。

10.役を勉強する前に契約を待ちなさい

→声に新たな役を覚えさせるのは時間がかかり、もしあなたが正しい発声フォーム出ない場合、仕事の中で声を回復させるのは困難です。あなたの知っている(学んだ)役を試すことはあなたの声の未来となり、あなたを助けてくれるでしょう。

この本の著者はLois Albaはソプラノ歌手で著名な大歌手とも共演し、後年は指導者として活躍しました。自身がローザ・ポンセルやリリー・レーマンに習っていたこともあり、本に載っている発声スケールはオールドイタリアの物や黄金期世代の歌手のスケールがあり、大変に素晴らしいものばかりであります。日本語訳されていないのが惜しい本でもあります。

高音に関する細くするアプローチは伝統的なイタリアの発想と言えます。丸い母音については母音修正と関連します。なお、母音修正の意見も人によって少し違いがあるので音質がわずかに変わってくるのも特徴としてあげられるとおもいます。

※チェザーリの母音修正の意見と似ていますが、個人的に彼の場合はO,U母音の修正に少し癖があるように思われます。門下生の録音を聞くと参考になります。(O,Uの修正がかなり良い方向に働いたメソッドは私はメロッキ派と考えています。)ただしチェザーリのi,e,aの母音の修正はかなり参考になると思います。

いかがだったでしょうか。参考になりましたら幸いです。