エッセイ 磯地美樹さん

日本声楽家協会が定期的に発行している会報には、毎回声楽家や講師の先生方よりオピニオンやエッセイをご寄稿いただいております。このnoteでは「エッセイ」と題しまして、以前いただいた寄稿文をご紹介します。
今回は2012年6月号-7月号より日本声楽アカデミー会員のメゾソプラノ歌手、磯地美樹さんのエッセイを掲載いたします。

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「ほんの少し、エジプト紀行」
磯地美樹 メゾソプラノ

今年のメインイベントは、2011年末から12年の2月末までのヨーロッパコンサートツアー。(あら、もう今年のメインが終わっている?)

そこで、“また”色々なハプニングがありました。
ドイツからチェコに行くときには、工事中で列車が1区間、走らないのでバスで行くように言われ、スペインからドイツに戻るときには予約していた航空会社が潰れて消えていたり(!)。「どうしろというんじゃ!」と何度、叫んだことか・・・(日本語で)。

ドイツでお世話になっていた「ドイツの母」から電話があったのは、スペインにいたときのこと。
「ドイツは寒い。こうなれば南に行こう!”Nil(ニール)”に行くよ!」
ニールとは、ナイル川のこと。ナイル川って・・・アフリカの?
「あそこはアラビアよ!」
エジプトはアフリカ大陸にあると、地理で習ったんだけど・・・。

スペインでもドイツでも、ついでにチェコでも、もちろん(?)日本でも、「なんで今、エジプトに行くの?この情勢で?」と言われたけれど、ドイツの母は気にしない。
「どこであろうと、ここの通りでも事件は起こる。なら行かなくてどうするの。」
それもそうか、と8日間のナイル川を船で行く旅に行きました。

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いつかは行ってみたい、この目で見たいピラミッドやスフィンクス。
でも今回は、この2つとも見ずにナイル川の旅。ピラミッドやスフィンクスが、カイロにしか(?)ないと初めて知りました。


ルクソールから船に乗って次の町まで移動して、神殿や遺跡を見物すると、これでもかというくらいのスケールの大きさに圧倒されます。

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何年どころか何千年も前に、このような建築ができたこと。
床から天井までびっしりと彫られているヒエログリフを見ていると、文明とか歴史に思わず溜息が出ます。

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ある朝は気球に乗ってナイル川に上る朝日を見よう、早起きして気球に乗り込みました。
車と違って音もなく、すーっと上がって行って目の下には王家の谷やパピルスの畑、別の気球などが見え、「あれはハトシェプスト女王の葬祭殿!」などと感動しているうちに、気づいたら背後にはナイル川の上には神々しく上る太陽が輝いていたのでした・・・。このために乗ったのに、まんまと見逃すとは(!)。

面白いのが、どこに行っても民族衣装や民芸品などを売る、声掛けがすごいこと。船を降りると一斉にわらわら集まって、「これ、グッドマテリアル!」「1Euro, 1Euro!」、「見るだけ、見るだけ!」、「全部タダ!」
目が合うだけで、彼らはもう捕まえたといわんばかり。
「日本人?ヤマダハナコ!」・・・山田花子さん、グローバルな人気(?)。

ボートに乗っていると、2人の男の子がカヌーで近寄ってきて、歌い始めるのも、びっくり。

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しかも2人で色々な歌を(ふれ~る~じゃっく~、ゆぴゆぴいぇ~いぇ~♪)5分以上、歌っていたのには、拍手喝采です。 
さらに船の上にいても、ボートで近寄ってきて下から叫ぶのが、「1Euro!」「見るだけ!」そしてポーンと何か放り投げてくる。ぼんやりしていると、頭に降ってくるのです。手に取って見ると、テーブルクロスやバスタオル。いらないと投げ返す、コントロール感必須のシステム(?)。逞しい。

文明とか歴史が、としみじみ思うヒマもなく、「見るだけ!全部オマケ!」コールに応戦しないと(無視させていただけない)、前にも進めやしない。帰国して、店員さんが放っておいてくれるのに感謝しつつ、少しだけあの喧騒が懐かしいと思う、今日この頃です。
次回はスペインでのハプニングを乞うご期待・・・言われていないですけど(!)。