音楽家にきく 第1回 山下裕賀さん

日本声楽家協会には多くの音楽家の方々が在籍されています。
このnoteでは「音楽家にきく」と題しまして、音楽家の方へインタビューを行っていきます。
今回は日本声楽アカデミー会員のメゾソプラノ歌手、山下裕賀さんへのインタビューを掲載いたします。

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インタビュアー:日本声楽家協会事務局員 前田桃

① どのようにして音楽の道に進んだのですか?
音楽を始めたのは、幼稚園生の頃。小1から近所のピアノ教室に通い始めました。歌は習っていませんでしたが、歌うことは大好きで、小さい頃はお菓子が入っているマイク型の容器を持ち、机の周りを回りながら歌っていたようです。今でもその頃の動画が残っています。ピアノはずっと続けていましたが、習い事の一つとして習っていました。その後、教育大付属の高校へ進学し、漠然と音楽の先生になりたいと思っていましたが、一人籠って練習するのが苦手でこの練習量じゃピアノはだめだ・・・と感じ、また母(中学音楽先生)からの勧めで声楽を習い始めました。音楽教師をしている母から見ると、「歌の方が向いてるかも…」と思っていたようです。

本格的に声楽の勉強を始めたのは高校2年生の時、母に誘われ芸大の学祭(藝祭)へ行きました。合唱と仮装オケ(*出演者が仮装をして演奏するオーケストラのコンサート)を聞き、衝撃を受けました。世の中には凄い人たちがいて、音楽に囲まれた生活を送っているすごい世界があるんだな・・・と。その後、高校3年生の春に伊原直子先生のレッスンに通い始め、その後無事に合格し、東京藝術大学での生活を送ることになりました。中学の時は水泳をやっていたので水泳の選手になる夢を持っていたのに、まさか想像もしていなかった歌手という人生を送ることになってびっくりしています。母の読みはすごい!

オペラの道に進むことを決意したのは、学部3年生の時。大学院生が出演されるオペラ「ドン・ジョヴァンニ」に合唱で参加した際、演技をしながら歌うことが楽しくて、私もオペラに出たいと思いました。高校の文化祭でも劇のキャストの一人として出演していましたので、舞台にたって何かをすることは好きだったのかもしれません。

② 「裕賀」のお名前はどのような由来ですか?
名前の候補が3つあったようです。①さくらこ ②楊貴子(よきこ) ③ひろか。父が初めて私を抱きあげ顔を見たときに「これは、ひろかだ」と思ったようです。裕賀の「裕」はゆたかという意味、「賀」は下の貝(おおがい)がお金の意味でおめでたい意味で付けたようです。一発で“ひろか”とは読まれないので、小学生の時には大体男の子と間違えられて「山下ゆうがくん」と呼ばれることもありました・・・笑。

③ ご出身地のおすすめスポットと食べ物を教えてください。
出身は京都の太秦です。太秦は緑がとても多くて、自然豊かな場所です。畑を見に行くことが好きでした。
その中でも、以前住んでいた嵐山が一番大好きです。自転車で嵐山まで行き、中村屋さんのコロッケをよく弟と食べていました。素朴な味でおいしいんですよね~。小さい頃は有名な場所とも知らず、芸能の神様で有名な車折(くるまざき)神社の石畳に寝転がって、泳ぐまねをして遊んでいました。

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④ 人生を変えた衝撃の一曲はなんですか?
思い出の曲、忘れられない曲はシューベルトのバラのリボン。学部1年生の時に伊原直子先生から渡された曲です。それまでドイツ語の曲(リート)を歌ったことがありませんでしたので、必死に勉強し、わからないなりに自分の中で向き合いました。レッスンで歌い終わったあと、伊原先生が「いいリートを聞いたわ。ありがとう」といってくださって、自分が歌ったものが、人に届いた瞬間だと実感し、感動したことを覚えています。
また、2019年6月に出演した日生オペラ《ヘンゼルとグレーテル》ですね。音楽ですべてのシーンが見えてくるこのオペラの魅力を知りました。初めて大きい舞台で主役をさせていただいた作品でしたが、共演者にも恵まれ、多くのことを吸収することができました。それまで、舞台では“こうやらなきゃいけない“という意識があったのですが、等身大の自分で居てもいいことを学び、気づくことができました。

⑤ 本番前のルーティンはありますか?
「あれやって、これやって」と考えていた時期もありましたが、どんな状況でも歌えるように特別なことをすることをやめました。色んな事を気にしてしまう性格なので、「あれやってない、これやってない」と思うと不安になってしまいますから、すべていつも通りを心がけています。ただ、出発前にまっしろいノートに、公演名と決意をなぐり書きして、テンションを高めてから出かけています。
 ずっとスポーツをやっていたので、試合に出る前は必ずストレッチをしていました。これは共演者に言われて気づいたことなのですが、歌う前も無意識のうちにジャンプをしたり手首を回したりしています。
舞台=試合なのかもしれませんね。ストレッチをすると集中することができます。

食べ物は、「肉と白米!!!!」。前日は甘いデザートを食べます。そして、運動をしてから出かけます。
歌う前もモリモリと食事を取れるタイプなので、おなか一杯食べてしまい、ドレスがぁぁ・・ということもあります・・(笑)

⑥ お気に入りのドレスやアクセサリーはありますか?
基本的に青系が好きです。その中でもロイヤルブルーのドレスが一番好き。学部3年の時に受けたコンクールの本選で着るために気合をいれて買ったドレスがあるのですが、自分の気持ちが引き締まるドレスなので、ここぞという時に着ている勝負ドレスがあります。
もう一つ、よくつけているブレスレットがあります。大学院1年の時に芸大メサイアのアルトソロを歌わせていただく機会がありまして、私の音楽の原点でもあるピアノの先生が京都から来てくださった際にいただいた思い入れのあるアクセサリーです。その先生の教えや先生の好きな作曲家がとても今の自分に影響していていますので、お守りのようなものです。

⑦ 今後の活動についてやりたいことを教えてください。
今後もオペラに関わっていきたいのですが、歌曲も勉強したいと思っています。オペラに通ずることもありますから。そして、歌詞がより自分のものになるように、語学の勉強をしたいと思い、今勉強をしているところです。

⑧ 最後に、30年後の自分へ伝えたいことはありますか。
現役で歌っていたらいいな~。これが大前提としてあります。人間として、歌い手として、周りの人を大切にしていてほしいです。猪突猛進な部分があり、目の前のことに忙しくなると、細かいことが吹っ飛んでしまう時があるから、感謝の気持ちを忘れずに、周りの人を大事にしていってほしいと思っています。
一生勉強だと思っていますので、しんどいと思っても、歌うことは好きという気持ちを忘れずにいてほしいです。


山下さん、ありがとうございました。

次回の「音楽家にきく」もどうぞお楽しみに!