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【表現評論】メモリーズオフ#5 とぎれたフィルム コアレビューその16 まとめ(完結)【全作再プレイシリーズ】

●メモオフシリーズ、その他作品、様々なネタバレが含まれます。

⚫︎前回の記事

⚫︎タイトル画面が変化

タイトル画面があすか単体から麻尋と主人公に。元々はこれ。

今までは単独ヒロイン→全員集合という変化でしたが、今回は違いましたね。分からなくもない。正直、#5は麻尋以外はほとんど端役です。実質唯一の本編とも言える麻尋ルートで映画撮ったのは、主人公と木瀬師匠と麻尋だけですからね。

⚫︎2024年から見た#5の感想

やっぱりビデオとかカメラとか、ガジェットを出すと古くささが出ます。想君のインターネットとか、#5のビデオテープとか、古代の遺物のような感じ。#5は映画周りでかなりのレトロ感を感じました。

で、肝心の内容ですが、これが2024年に発売されたとしたら、非常に微妙な作品でした。前作の完璧に近い完成度が嘘のように、随所に荒さが見えたように思います。

BGMの質はいつも通りで、リバースカットを含めた麻尋のルートだけはそれなりによかったんですが、ダブルヒロインとも言えるあすかの方が微妙なクオリティだったり、色んな場面で主人公の行動原理がおかしかったり、明らかに不自然な行動を取るヒロインがいたりと、色々とツッコミどころがありました。CGも若干怪しいのが多かった気がする。

僕がいつも強調している、メモリーズオフの魂である、ヒロインの自己犠牲という概念も、この作品にはほとんどありません。

あまりにもシナリオが短すぎるおまけヒロインとか、明らかにクオリティが低すぎるルートはなかったんですが、めちゃくちゃ素晴らしいというルートもなく、どのルートも中〜中の上くらいに収まったという印象を受けます。

ルート別にシナリオを評価すると下記の通りです。

B 麻尋+リバースカット
C 香月 美海 瑞穂
D あすか

*評価基準
S メモリーズオフの魂
A 全体的に素晴らしい&特別に光る部分がある
B 全体的に素晴らしいor特別に光る部分がある
C よくまとまっているor光る部分がある
D C評価と比べると見逃せない欠点がある
E 見どころが少ない&見逃せない欠点が多い

今までのルート別評価は次の記事に載せてます。

今作の攻略キャラは5キャラで、それなりにボリュームは感じさせる作品でした。麻尋以外にもテキストの量はきちんと確保されています。ただ前作と比較すると、どのシナリオも最後の一伸びに欠けていたという印象を受けますね。そもそも前作が普通ではないんだよ。1st〜想君と比べるといつも通りか、という方が正しいのかもしれない。

コアレビューの量も前作は25記事、今作は16記事なので、レビューの量は格段に減ってますね。前作を細かくレビューしすぎていたのか、単純に#5のシナリオが前作より短くなっているのか。なんとも言えません。それからは師匠のレビューだけで6記事あるからね。異常だよ異常。

BGMは上述の通り、いつものクオリティでした。テーマBGMは本当に神です。各キャラのBGMもなかなか良かったです。特に良かったのは麻尋とあすかかな。一番聞く曲だし。ただキャラBGMは、あんまりメモリーズオフ感を感じませんでした。どこかでも言った気がするけど、infinityシリーズっぽい。特に麻尋の曲。いつもの泣かせる感じではなく、ちょっとレトロなゲームミュージックという感想を抱きました。

主人公は生まれも育ちも普通で、生い立ちに悲しき過去を持っているわけでもありません。ただ、幼馴染兼親友の雄介が死んだ悲しみを抱えているという点で、やはりメモリーズオフの主人公ではあります。この男、今までと比べると普通の人間に見えますが、沸点が低く、しょっちゅうキレ出すという、いかにも映画監督っぽい(偏見)性格をしています。正直今までの主人公で、一番好感が持てない人物だったかもしれない。あからさまに修司を見下してる感じも受けましたし、女に目が眩んでCUM研のメンバーをほとんど放置していたので、こりゃあかんわと。もっと言えば、かっこいいというか、男気を見せる場面もほとんどなかったですね。健ちゃんとかショーゴ君は、多少の男気を感じさせる場面もあったわけですが、春人君はそんなところもない。プラス面が少なく、マイナス面が大きい人物でした。

あとね、この作品はメモリーズオフとしては珍しく、過去から交流のあるヒロインが、ぽっと出のヒロインに敗北するゲームになっています。他の作品を全部調べても、大体メインヒロインは、幼馴染か、過去から接点がある人物なんですが、#5はあすかや香月を差し置いて、ぽっと出の麻尋が大勝利する物語です。IFもノエルがぽっと出の枠ですが、あれは瑞羽もいるし、どっちかと言えば瑞羽の方が真ヒロインだからね。そういう意味では唯一無二のゲームでした。

そしてメモオフのコアレビューの肝心な点は、昔と比べて作品の評価がどう変わったのか、ということです。再プレイシリーズですからね。#5ははっきり言って、昔よりかなり下がりました。

コアレビュー開始前の番付がこちら。

神 ゆびきり それから 星天
良 ♯5 1st
普 想君
理解不能 T-wave 2nd
メモオフではない傑作 IF

それから終了時点での番付がこちら。番付の表記は若干変えました。

殿堂入り 1st
S それから
A ゆびきり 星天
B ♯5 2nd
D 想君
理解不能 T-wave 
メモオフではない傑作 IF

#5終了時点での番付がこちら。

殿堂入り 1st
S それから
A ゆびきり 星天
B 2nd
C #5
D 想君
理解不能 T-wave 
メモオフではない傑作 IF

1stは殿堂入りで、2ndとそれからは上昇。想君と#5は下降しています。やっぱりやり直すとかなりイメージ変わりますね。2ndなんか再プレイ前は碌な思い出がなかったですし、#5はもっと良かった記憶があった。ただ昔と一つ違うのは、全ての作品を連続でプレイしているので、前作との比較度合いがかなり上がっているところです。リアルタイムでやってた時は、前作をやったのが1年前とかだったわけですからね。そこで印象が変わっている面は確実にあると思います。

#5の評価が下がった理由は、やっぱり映画を撮るという動機がいまいち理解できなかったところにあります。雄介との約束を守りたいという麻尋の願い、雄介の意思を受け継ぎたいという春人君の願いは、今生きているCUM研の人間関係を崩壊させてまで叶えるべきものなのか、最後まで納得できませんでした。この部分は物語全体の骨組みになるはずなので、その屋台骨がぐらついてるなら、作品全体の評価も微妙になりますよねという話です。ただ♯5でしか摂取できない栄養素もあります。詳細は個別キャラの感想で語りましょう。

⚫︎麻尋ルート&リバースカット 動機の正当性

酒乱の父親に激しいDVを受けていたというガチの悲しい過去の持ち主。親友の死に関わっている、ミステリアスな人物として登場しますが、中身は超がつくほどのポンコツです。出かける前はカバンの中身を全部出して指差し確認するものけど、やはり忘れるというくらいの物忘れの激しい人物。感情を素直に出せないところがあり、素直になっている時は聖女かな? って思えるくらいの感じですが、素直じゃない時は生意気でいけすかない性悪女になるギャップがあります。

木瀬師匠によると、スタイルがいいらしい。スタイルの良さが明言されたキャラは、モデル組は当たり前としても、それ以外だと麻尋くらいじゃないですかね。

#5の物語は、雄介の遺作である「光の階段」という映画脚本を、麻尋がCUM研に持ち込むところから始まります。

麻尋は雄介の死に関わっているということもあり、CUM研メンバーにとっては、歓迎すべき人間ではありませんでした。特に雄介の妹であるあすかは、母親に麻尋が雄介を殺したんだと擦り込まれており、不倶戴天の敵くらいの認識になっています。他のメンバーも雄介がなぜ死んだのか、麻尋とどういう関わりがあったのかはわからない状態なので、少なからず疑いの目を向けています。

実際はDVを受けそうになった麻尋を雄介が庇って死んだというのが真相なわけですが、そんなこと他のメンバーは知らないからね。麻尋にとって父親からDVを受けていた事実は、他人に話すことが不可能な過去だったので、真相を話すことも難しかったと。でもなんで雄介には話せたんでしょうね。割と謎。作中では誰にも直接話した形跡はなかったと思います。

麻尋は、雄介が必ず君(麻尋)を守るという約束を果たして死んでしまったので、一緒に映画を作ろうという雄介と交わした約束を、何が何でも守らなければならない戒律として考えています。だから雄介から聞かされていたわずかな手がかりをもとに、ルサックの同僚である信の手助けも借りて、CUM研を探しあて、一緒に映画を作ろうとやってきたわけです。

ただなぁ。これが#5の問題点なんですよね。

何が問題かっていうと、麻尋が無理矢理にでも映画を作ろうとしたことで、CUM研の人間関係はメチャクチャになる訳ですね。特にあすかは拒否反応が大きくて、あすかを第一に考える修司も一緒に関係が崩壊します。人間関係が崩壊するというのは、メモリーズオフではよくあることですが、物語としては、人間関係が崩壊するに足る、止むに止まれぬ事情がセットでなければ意味がないはずです。しょうもねえ理由で人間関係が崩壊する様を見せられても、なんだそりゃとなる訳ですし。

で、#5において、雄介の遺作の脚本で映画を作りという行為が、止むに止まれぬ事情なのかは、正直非常に微妙な話です。作中の修司君のセリフ、たかが映画だろ! という言葉に全てが集約されてます。作中の人物にそういう言葉を言わせているということは、作ってる側にも同じ認識があった訳ですが、その部分をきちんと乗り越えられたとは感じなかったです。最後の最後まで、何でこの映画作るん? 生きている人間を犠牲にしてまでやることなのか? そこまでの動機があるのか? という印象が拭えませんでした。

故人との約束を守りたいという願いが、今生きている人間よりも優先される訳ないじゃないですか。どう考えても。修司君の言うとおりですわ。しかも犠牲になろうとしてるのは、その故人の妹ですよ。雄介君もそんなこと望んでないんじゃないですかね。

文章を書いていると、だんだん論点が明確になってきた気がしました。

つまり、#5の最大の問題点は、麻尋が雄介と映画を作るという約束を何がなんでも守ろうとする理由をうまく作れなかったところと、映画作りと排反するものが麻尋にとっては浅かったところにあります。

前者はそのままの意味です。命日までに作りたいとか、雄介との約束を守りたいとか、そういうことが何よりも優先されるべき理由がないという話。

後者がどういうことかというと、麻尋にとっては、映画作りと排反するものがないんですよね。麻尋にとって映画作りと、CUM研の人間は天秤にすら載っていません。なので葛藤はほとんどなく、映画作りを最優先します。そういう両天秤の葛藤を描くのがメモリーズオフの味だと思いますが、この作品は特にそういうものがありません。とにかく映画を作るんだ! CUM研? あすか? まあ可哀想だけど映画が優先だから! という感じでゴリ押しです。

CUM研のメンバーと麻尋は、もう少し過去から関わりを持たせた方が良かったんじゃないかという気がします。そうすればCUM研と映画が天秤に乗っていたかもしれない。ただ過去から知ってたらミステリアスな人物にならないからね。創作というのは難しい。

で、春人君は麻尋のせいで雄介が死んだと誤解していた訳ですが、交流するうちに麻尋と綺麗に和解して、映画作りを行うことになります。ただこれもCUMの人間に反対されたので、仲間を放置して春人麻尋木瀬さんのみで実施するという、なんとも寂しいものになっています。いやいや、春人君監督なんだから説得してくださいよ。雄介君も草葉の陰で泣いとるわ。

そして映画撮影を続けていくうちに、なぜかCUM研メンバー、特にあすかの物分かりが良くなり、あれよあれよと諸問題が解決し、春人と麻尋が結ばれ、麻尋が出演する分の別撮りを終え、雄介の命日になり、麻尋が行方をくらますところで春人視点の物語は終わります。この表ルートでは何も謎が解決しません。

表ルートの後に時系列が戻り、春人と出会う直前くらいの麻尋視点で物語が再開します。これが#5最大の売りであるリバースカットです。このルートで信が裏で活躍していたり、麻尋がCUM研のメンバーと交流して問題解決を図っていたことがわかります。香月からは春人を助けてやってほしいと頼まれたり、あすかとは雄介から預かったペンダントを渡して仲直りしたり、修司には謎の説教をかましたりと、色々やってましたと。

表で言っていることと、リバースルートで内心考えていることが全然違うシーンが多々あり、麻尋が生意気そうに見えて感情を素直に出せないだけの超絶不器用な可愛いやつであることもわかります。これはリバースルートの素晴らしい点で、#5でしか味わえないものです。恋愛ゲームとしては、この1点のみで#5の価値が保証されている。ギャップでやられたしまったユーザーは数知れないはず。あと信君とめちゃくちゃ仲良かったこともわかります。智也と信のような関係です。

話が進んでいくと、麻尋は命日の墓参りで雄介の母親と遭遇し、人殺し呼ばわりされたことで自分の罪を再確認して、引っ越したことがわかります。そこからまた春人の視点に戻る。

失踪後、春人は麻尋を探しまわり、信に預けられたビデオテープで麻尋の過去を知ります。信から麻尋は澄空に引っ越したと聞かされ、探し回るものの、一向に見つからず。結局は映画を完成させて麻尋が現れるのをワンチャン待とうという結論になり、CUM研の人間と仲直りして映画を完成させます。ただ結局完成させても麻尋は現れませんでした。

CUM研メンバーと仲直りできたのは麻尋のおかげということが、リバースカットからわかるんですが、春人君なんもしとらんやん、と言いたい。全部女任せかいと。少なくとも人間関係は放置で、修復しようとすらしてませんでした。とにかく俺は麻尋と映画を撮るんだ! 一点張りです。惚れた女に目が眩んだ男にしか見えない。

エピローグでCUM研のメンバーが海辺を歩いていると、偶然そこにいた麻尋を発見します。願い続けていればきっと叶うというのは作品のテーマで、雄介もずっと探し続けていたホッキ貝を何気なく見つけるシーンがあったんですが、、ラストも全く同じ構成でした。しかも麻尋は金がなくて実は引っ越していなかったというオチ。

どうなんでしょうねこの終わり方は。投げやりに終わらせたとも読めますが、作品のテーマ通りと言えなくもない。テーマ通りにやって投げやりに見えるのなら、創作物としてはテーマがおかしかったということなのか。

ということで、納得できない点が非常に多い物語でしたが、リバースカットの麻尋の可愛さで全てが許されるという内容でした。いいじゃない。ギャルゲーなんだから。みんなが優等生じゃなくてもいいんだよ。

ギャップNo. 1ヒロインです。

⚫︎あすかルート 設定だけは真ヒロイン

春人君の幼馴染兼親友である雄介君の妹。子役をやっていた女優。単独でパケ絵を飾ることもあった人です。昔から顔は知ってるけど、話すようになったのは雄介は死んだ後という、一風変わった幼馴染。これは幼馴染って言うのか? 小さい頃からの知り合いといえばそうですが。

性格はちょっとわがままで、いやちょっとじゃないくらいわがままで、自分が可愛いと理解しているムーブでゴリ押ししてくるタイプです。さすが女優。超絶機械音痴で料理音痴で勉強もできない。可愛い以外には何もできないヒロイン。いいんだよ。可愛ければなんでも。

メモリーズオフは伝統的に父親が終わってるパターンが多いわけですが、あすかは珍しく母親が終わってるタイプです。母親は娘を手駒のように扱って女優業をやらせ、自分はウハウハの生活を送っています。ウハウハか知らんけど、金使ってそうな生活。あすかは女優業でクソ忙しい生活を続けた結果、友達もできず、学校に居場所もなく、家族となかなか会えないせいか、家に帰っても居場所がなく、その影響でカメラ恐怖症になり、現在休業中になっています。母親はほんまつかえんわこいつと言って(ないけど)、あすかをネグレクトし、家には戻らず遊び呆けているという、完全毒親です。あすかは毎日コンビニの飯を食ってるらしい。可哀想すぎない? よくグレなかったな。こんな環境で。あすかはお母さんは兄さんが死んでから変わったって言ってるけど、多分元からおかしいぞ。この人。

雄介が映画バカになってからは、仲が険悪になったようで、映画も映画制作も嫌いだと豪語してます。そもそもカメラ恐怖症だからね。ただ雄介が映画を撮ろうとした動機は、妹の仕事が不調になっているから、妹が主演の映画を自分で撮ろうと思ったことらしい。伝わらなかった兄弟愛。仲が悪かったせいか、雄介が死ぬ前にも喧嘩しており、仲直りすることなく死んだことに対してトラウマじみた後悔を抱いています。

そして兄が死んでからは智也のように完全に塞ぎ込んでいたようですが、そこに修司と春人が来て救われたというのが、作中までの1年ほどの出来事です。なので開幕時点で主人公ラブ勢になっている。なぜ修司君ラブ勢にならなかったのか。それは最大の謎です。どちらかというと、修司君の方が世話焼いてたのにね。恋愛の理不尽ですわ。かわいそう。

幼馴染、親友の妹、慕ってくれるわがままな後輩、女優、ネグレクト毒親、主人公に救われた経験あり、メモリーズオフらしきトラウマ持ち、云々。

このように真ヒロインに相応しい属性てんこ盛りのあすかですが、実際は微妙な扱いです。メモリーズオフは伝統的にメインヒロインが二人の制度になっていますけれども(それから除く)、この作品はそれっぽく見せておいて、実質真のヒロインは麻尋だけになっています。あすかは普通にかませ。なぜパケ絵にいるのかわからんレベルです。実際タイトル画面が変わったらいなくなってるし。ミスリードかな。ファンディスクにはあすかもいるらしいけど、本編では明らかに麻尋と並ぶヒロインではない。リバースカットがあるのは麻尋だけだし。物語の本筋に関わるのもほとんど麻尋だし。

なぜ差がついたのかといえば、親友の死で止まってしまった春人の映画作りの夢を叩き起こす動機が、麻尋にはあったけど、あすかにはなかったというところです。#5は春人君が映画作りの情熱を取り戻すというのが本筋ですからね。あすかは映画嫌いだし、カメラ恐怖症だし、春人が映画作りに集中したら構ってもらえなくなるしで、春人君の映画作りを応援する動機がなかったので、どうやっても本筋になりえないという、負け確の設定になっています。実際麻尋が来た時も麻尋に対しては居場所を取らないでよと反発し、春人にも映画なんて撮らないでくださいよと言ってます。ドリームキラーになっちゃってる。でも境遇考えたら仕方ないよね。家にも居場所はない。女優やってたせいで学校にも居場所はない。私の居場所はCUM研だけなんですとなっても、誰も責められない。

あすかルートでは最終的に映画よりあすかだろ、という実に正しい結論に至り、あすかのことを気にかけて色々とやっていく訳ですが、やっぱりそれじゃ物語の本筋にはならないよね、という根本的な欠陥を抱えています。麻尋を選ぶと倫理的におかしいし、あすかを選ぶと本筋から外れてしまうというダブルバインドになっている。せめてあすかルートで映画撮れたらよかったのに。撮ろうとしたらカメラ恐怖症が発覚して終わったし。実際はあすかを降ろして無理やり映画は完成させた訳ですが、それじゃダメでしょ。エピローグはあすか主演で撮ってたけど、途中の過程は全すっ飛ばしだし。

修司君の扱いも酷いんですよね。このルート。このルートだけじゃなくて全て酷いという話は置いておく。春人君が、お前に相応しいのはずっと世話していた修司の方だ、と伝えるシーンがあるんですが、確かにずっとお世話してくれたのはオズ先輩だけど、私が好きなのはハル先輩なんです! という返事が返ってきます。なんで? この理由が全くわからない。まあ恋愛なんてそんなもんと言われればそうですが、なぜずっと付きっきりだった方ではなく、どちらかと言えば適当な方に惚れてしまったのか。そこがわからない。顔か? 顔なのか? 幼馴染なんだから実は昔から気になってたとか、そういうエピソードを入れて欲しかった。そうじゃないとオズ先輩があまりに可哀想じゃないですか。ピエロってレベルじゃねーぞ。

終わり方もあっさりすぎて驚きました。カメラ恐怖症のあすかを主演からおろして映画作りを続けていたのがバレて、裏切られたと思ったあすかが失踪する訳ですが、数日探し回った後、雄介の墓の前で再会して、そこで無くしたはずのイルカのペンダントを見つけて、よくわからんうちに仲直りして終わりました。どゆこと? ペンダントはいなくなった麻尋が置いて行ったものでしょうが、仲直りがあっさりすぎるでしょ。そっから年代ジャンプして、最後にあすか主演の映画を撮っているシーンで物語は終わります。もうちょっとなんかなかったんでしょうか。正直この終わり方でかなり評価が下がっています。信頼を裏切るってそんな軽いものじゃないですよね。しかも春人君、何回もやらかしてるし。そもそも春人君は適当な嘘を付きすぎなんですよ。適当な嘘がバレて事態が悪化するというのが黄金パターンになっている。

まあでもね、直球で押してくる後輩の幼馴染ってだけで勝ち確です。かまってかまってオーラを全面的に見せてくるし、押しかけ女房してくるし、わがままムーブからたまにしおらしくなるところが可愛いし。一途だし。可愛けりゃなんでもいい。シナリオ? 細えことはいいんですわ。ギャルゲーなんだからキャラが可愛けりゃいいんだよ。そういう原点に立ち返らせてくれるキャラクターなのかもしれない。

他のルートでもあすかはよく出てくるんですけどね。基本お邪魔虫というか、噛ませとして出てくるので、何かと不遇なキャラかもしれません。

設定あつ盛り度No. 1ヒロインです。

⚫︎香月ルート メインでよくない?

高校からの友人でCUM研メンバーの裏方担当。仲間思いで視野が広く、細かいところまで配慮ができる人物です。人間の好き嫌いも少なく、色んな人とフラットに付き合える。CUM研の金庫番でもあるので、経理にはうるさい。面倒なことも厭わずやってくれるので、サポート役に最適。部下に欲しい。ただ結婚したら小遣い制で縛り上げられることは間違いなさそう。カレー好き。感動するとすぐ泣く。恋愛絡みでからかわれるとすぐキレるなど、微妙な癖を持っているところもあります。沸点の低さは春人君にも劣らない。

実は幼馴染でもない、友人関係がある程度続いているヒロインってあんまりいないんですよね。詩名はいるけど、あっちは先輩後輩の関係だし。友達関係になるヒロインはいるけど、出会ってすぐ仲良くなるパターンばっかりだし。同級生で数年来の友人という、メモリーズオフの中でも独特な立ち位置にいるヒロインです。細かいところで気が利かない、大雑把で行動力だけはあるらしい春人君とはベストカップルと言っても過言ではない。

物語の内容は、なんと修司を除いたCUM研メンバーが集まって雄介の映画を撮るという内容になっています。これがメインルートでよくない? だって麻尋ルートは香月いないんですよ。こっちの方がメンツ揃ってるじゃん。

映画を撮影しつつも、香月がバラバラになったCUM研のメンバーをなんとかしようと奔走するという話が続くんですが、やっぱりこの主人公は人任せなんだよなぁ。自分でなんとかせえよと。行動力はどこに行ったんだ。

その途中で香月は急にアホになり、修司とあすかをくっ付ければ全てが丸く収まるなどと言い出します。当然丸く収まるはずもなく、事態は余計に拗れまくって収拾がつかなくなりました。なぜそんなアホな作戦を思いついたのか。全く謎。そんな無計画な人間じゃなくない? おまけに失敗した時にリスクがデカすぎる。とにかく失敗したあと、落ち込む香月を慰めようとデートしたりなんだりする過程で、二人がより惹かれあっていくという内容になっています。

最後の方で、香月は麻尋に、なぜそこまで雄介の映画にこだわるのか聞き出そうとします。最初映画を作ろうとした時は、今は聞かないと放置していた問題ですが、そろそろ聞かせてくれてもよくないかと。で麻尋はなぜかブチギレ。仲間だったらなんでも話さなきゃらならなのかよ! ほんならもう辞めるわ! と言って逃亡します。まだ話したくないって言えばよくない? みんなすぐキレるんですよね。この作品。みんなというか主に麻尋と春人。しかも怒りの原因がよくわからんという。何見てんだよ! ってキレてくる雅師匠の方がまだわかる。

香月は麻尋がいなくなったことで完全に塞ぎ込んでCUM研を離れようします。私がいるといつもこうなると、中学生の時の悲しき過去も開示されます。男2女2の4人グループでつるんでたけど、女1が好意を寄せていた男1が香月に告白してきて、遠慮した香月が男1に対して女1がお前を好きらしいからそっちに行けと言い、関係が崩壊したという話です。

どう説得してもCUM研に戻る気配がなさそうな香月に対して、春人君は高校の頃に4人でやった桃園の誓いを電飾で再現し、CUM研に戻そうと試みます。さらに男気告白して、自分の欠点をあげつらう香月を悉く論破し、お前がどれだけ好きなのか証拠を見せてやると言ってキスして終わりました。いやぁ。エンディングにふさわしい盛り上がりですね。#5はどれもこれもエンディングがあっさりしすぎなんだよな。卒業式をジャックしろとまでは言わないけど、このくらいやってほしい。

結局麻尋は戻ってきませんでしたが、CUM研のメンバーは全員戻ってきて、仲良く映画を撮ってるシーンがエピローグとして流れます。もうちょっと作り込んでたら、これがメインルートで良かったんじゃないか? 香月は真ヒロインに相応しい格を持っている。友人と仲が深まって恋人関係になるという、王道のような話だし。主人公の一番の理解者で、いつもそばで支えてくれていたという、最高のヒロインだし。主人公の欠点を見事に補えるヒロインだし。麻尋以外は全てが丸く収まった話になってるし。雄介の映画を撮ると全員が不幸になるのではないか。あと友人キャラにしては見た目が良すぎますね(謎の言いがかり)。CGの出来も一番良かったかもしれない。

相棒度No. 1ヒロインです。

⚫︎美海ルート シリーズ一の才女

主人公の従兄弟という唯一無二のヒロイン。あすかの親友。早蕨(さわらび)というシリーズで最も読み方がわからない難読苗字の持ち主です。わらび餅のわらびなのか。陵も読めないけど、こっちも全然読めない。おまけにさわらびと呼ばれるシーン、あったかな。いのりの方は雅師匠が陵(みささぎ)と呼んでいたので、何回か聞く機会がありましたが。雅師匠は全員名字呼びですからね。さよりんだけあだ名だけど。ちなみに一番名前が読めないのは英です。マジで読めない。えいちゃんだろえいちゃん。

1年毎にエピソード記憶がリセットされるという病気? の持ち主で、そのために毎日日記をつけています。ただその謎が明かされるのが本当に最後の最後なんですよね。それを知るまでは不可解な行動が多い。

物語は叔母さんに頼まれて家庭教師になるところから始まります。ところがどっこい、美海はおそらくメモリーズオフで一番頭がいいキャラで、家庭教師なんていらないじゃん、という結論になります。映画のセリフなんかは一回聞けば全部覚えるとか。これまの作品で頭が良かったキャラと言えば天才肌の縁と、上級ババアに厳しく躾けられた雅師匠ですが、多分その二人よりも上っぽい。努力する天才。だから家庭教師なんてハナからいらないんだけど、叔母さんが春人を呼んだのは、病気で塞ぎ込む美海に前向きに生きて欲しかったから、というのが真の理由でした。美海も映画好きなので話も合うだろうと。メモリーズオフで先生と呼んでくれるヒロインは美海だけです。向こうのほうが頭いいんだけどさ。むしろ美海先生だよ。

ある時春人は美海が書いている脚本を気に入って、それで映画を撮ろうと考えます。これにはCUM研のメンバーも賛成。麻尋が関わらなければみんな賛成してくれるんだよなぁ。みんな納得ずみで映画撮影を再開します。1年間苦悩してた割にはあっさり再開してますが、まあそこはいいとしよう。

デートシーンが書けないからデートに連れて行ってくださいという展開になり、そこで告白するわけですが、やっぱり付き合えませんと振られてしまいます。もうすぐ記憶リセットの日が近づいてたからね。その後、春人くんもようやく病気の真相を叔母さんから聞き出します。

で、完成した脚本が超絶バッドエンドだったので、書き直さんかいと問い詰めますが、こんな状態でハッピーエンドなんて書けませんよ! と言われてしまいます。それはそう。

「先生。ひとつお願いがあります」

「もうすぐ私、きっと先生のことを忘れてしまいます」
「そしたら、なにも覚えていない”今度の私”には近づかないでくださいね?」

「また今度も、先生を好きになってしまったら困るじゃないですか……」

メモリーズオフ とぎれたフィルム

このやり取りは#5で一番切ない。

その後、記憶リセットで入院する美海を見舞いに行くシーンがあります。ここで昔あった時からずっと好きだったことが明かされます。いやぁ〜。何気に主人公を好きな歴は一番長い人ですね。最後の別れを告げた後、春人は美海がつけていた、自分の関する日記を全部消去しました。二度と思い出さないようにと。その時にハッピーエンドで終わる本当の脚本を発見します。

美海と再開すると、やっぱり記憶は綺麗さっぱり無くなっていました。春人はそのハッピーエンドの脚本で作った映画を美海に見せます。そこで不意に「先生」と呼ばれて、いきなり男気告白。向こうの視点だと、まだ出会ったばっかりですけどね。なぜが懐かしい気がすると言って、少し記憶の断片が残っている風を匂わせていました。まあ昔から好きだったと言ってるので、記憶云々はあまり関係ないのかもしれないけど。

最後は春人が全部覚えててくれるから、もう日記はつけませんと物語が結ばれました。いやぁ。素晴らしいハッピーエンドだった。しんみりするいいお話でしたね。詳細は書かなかったけど、あすかの友情が存分に発揮されるお話でもありました。

頭の良さNo. 1ヒロインです。

⚫︎瑞穂ルート 一体何歳なんだよ

わかりやすいお色気キャラ。バイト先の店長で、雄介と春人がかつてお世話になった映画監督である三木耕作の奥さんです。なんと未亡人ヒロイン。作中では年齢不詳ですが、公式情報だと24歳? つばめ先生と1歳しか変わらんとか、うせやん。34歳、いや44歳の間違いなのでは。ミッキー監督はいつから付き合ってたんだよ。田中一太郎さんとカナタくらい離れてそう。

メモリーズオフは年上ヒロインが少なく、初代から数えても小夜美、静流、つばめ、りかりん、葉夜、瑞穂、クロエ、鈴、織姫しかいません。春玉は年上だっけ。言うほど少なくなかった。でも大体のキャラはせいぜいひとつ上か、ふたつ上くらいか。つばめと瑞穂と鈴は大卒以降の年齢だろうから、かなり離れてますね。

最初はひたすらバイトの描写が続くという苦行があるんですが、それをくぐり抜けると、三木監督に似ているという理由で、瑞穂の方から誘惑してくる形で関係が始まります。明言されてませんが、多分体の関係から始まってる。始まるんだけど、付き合ってはいないという、ギャルゲーにあるまじきストーリーになっております。

いや、お互い大人だからさ〜。いちいち告白とかいらないわけ。なんとなく一発かましてから付き合い出して、いちゃつき始めるわけですよ。ギャルゲーがそれでいいのかは知らない。

で、なんとなく付き合ってる雰囲気になるんですが、春人くんが本気になればなるほど、瑞穂の方は好意をはぐらかします。しかも未亡人ということは黙ったままでいるというおまけ付き。

このルートでは、あすかを振った後に、あすかがその人結婚してるんですよ! と暴露してきます。な、なんだって〜! とはならない。そんな雰囲気醸し出してますやん。

夫の代わりとしてあなたを求めたわけじゃない、と弁解してますが、寝言では夫の名前を呼んでいます。嘘つき! ってことで春人君ブチ切れです。

ちなみに夫が死んだ顛末は、砂漠で遭難して、喧嘩して、夫が差し出してきた水を飲んでたら、実は水は一本しかなくて、夫の方は死んだということになっています。それで罪の意識を感じているとか。メモリーズオフのヒロインらしいヒロイン。

で、仲直りのために最初に飲んだバーに誘うと、そこへ来る途中に瑞穂は事故死します。最後に信が瑞穂から預かった手紙を読むと、夫が死んだことで他人に気持ちを素直に伝えられなくなったことや、トラウマを抱えていたことや、本当に春人君を愛していたことなどが綴られていました。春人君はそれを見て、喧嘩別れして死別したことをとてつもなく後悔する、という終わりを迎えます。後味が悪い。

年上のお色気キャラということで、どこかおまけっぽい雰囲気を出しているヒロインですが、なかなか悪くはなかったですね。一番イチャついてる感じが出ているルートでした。恋愛的に翻弄されるという、メモリーズオフらしからぬオンリーワン要素もあるし。適当にはぐらかしたり、変な行動を取ってた理由も最後に明かされるし。死別するヒロインも唯一無二です。みなもは生死不明だったし。

肌色率No. 1ヒロインです。

⚫︎まとめのまとめ

上述したように、あすかと麻尋の選択という部分で、どちらを選ぶにせよ根本的な欠陥を抱えているゲームになっています。なので高評価にはならない作品なんですが、リバースカットという唯一無二の特徴を備えているオンリーワン作品でもあります。致命的な欠陥を抱えているけど、特別な武器を持っているということで、なかなか評価が難しい。それからの後に続く作品という意味でも、評価が難しい。メモリーズオフ本編としてはKID最後の作品となった#5ですが、改めてプレイすると、昔よりも作りの荒さが見えた気がします。それからは細部に渡って丁寧だったんですよね。でも1st~想君がそんなに丁寧だったかと言われるとそうでもないので、やはりそれからが特別であって、#5はメモリーズオフとしては通常営業だったのかもしれない。テーマBGMは神です。オレンジとロマンシングストーリーも神。

最後はシリーズ恒例のベスト○○を挙げて終わりにしたいと思います。

ベストシナリオ 麻尋&リバースカット
ベストキャラ あすか
ベストBGM Screen wiz you

特にひねりのないラインナップに。いやでもなぁ。あすかは惜しいキャラでした。もっといい形のシナリオがあったんではないかと。真ヒロインに相応しいストーリーが見たかった。

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