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【表現評論】メモリーズオフ ゆびきりの記憶  コアレビューその24 詩名ルート8(終)【全作再プレイシリーズ】

●メモオフシリーズ、その他作品、様々なネタバレが含まれます。

⚫︎前回の記事

⚫︎詩名に悲しき過去

路上で歌ってたら当時は見知らぬ相手であったちなつだけ立ち止まって声をかけてくれたという悲しき過去。ちなつはいい子だなぁ。いい子? そのおかげで今も音楽を続けられていると。ペタペタの公募に出して優秀賞をもらって特別ストラップももらったと。特別ストラップは勇気の石のようなものだと。それは天川先輩は裏切れませんよ。T-waveといい、ゆびきりといい、サブヒロインにはあまり悲しき過去を持たせないよう意識したのかもしれない。それからと#5でやりすぎたか。星天もそれほど悲しき過去はなかった。イノサンフィーユはテーマ自体が重いから別枠。

⚫︎小芝居

詩名と直樹君をくっつけるべく、小芝居を打ち続ける風流庵の一同。付き合ってる詐欺は亨の片ヤオで間違いなさそう。さらには亨はリサと二股かけてるような芝居まで打って直樹君を焦らせます。お前、あたりまえじゃねえからな! って叫びたい。ここまでしてくれるキャラクターなんて、二次元でもそんないないぞ。どんだけ聖人だよ。ほんまに。でも直樹君は恋愛面の認知機能を剥奪されてるからね。仕方がないと言えば仕方がない。ここまでお膳立てしてやらないと何にもできない。赤ちゃん人間。

でもなぁ。どんだけ聖人でも、詩名の享に対する評価は「いい人」でしかないんだよなぁ。まあ女なんてこんなもんよ。りりすもそう。あすかもそう。享は「いい人」を貫いて一生を終えてほしい。それが聖人の役割ですわ。

⚫︎詩名の様子

屋上で詩名と遭遇。顔合わせるだけで気まずい直樹君。向こうも気まずそうなわけですが、そこの違和感を持って欲しい。直樹君が気まずいのはわかるけど、本当に亨が好きなら詩名の方が気まずそうなのはおかしいでしょうが。でもおかしくないんです。直樹君完全にアホになってるから。恋愛脳で視野が5円玉の穴くらいしかない。

「天川先輩のこと、ちゃんとする気ならいつでも言ってください。アタシ、協力しますから!」
「っ……違うよ」
「え?」
「だから、ちなつのことは……そういうんじゃないって……」
結構……堪えるな。
好きな子から、他の女の子とのこと協力するって言われるなんて……。

メモリーズオフ ゆびきりの記憶

これはいいシーンですね。詩名が抱えていた痛みを直樹君にも体験させるという最高のシーン。このシーンだけでも詩名ルートの価値はあるかもしれない。いのりの痛みを体験させられる、カフェ編の一蹴君みたいなもんです。こういうの好きなんだよな、と今更ながらに自覚する。人間何もかも体験しなければわからない。骨折の痛みは骨折してみないとわからない。好きな相手と別れる痛みは、好きな相手を別れてみないとわからない。好きな子から、他の女の子とのこと協力するって言われる痛みは、好きな子から、他の女の子とのこと協力するって言われてみないとわからない。

⚫︎霞再再再登場

前前前世的な。やたらと詩名ルートには出てくる女。BGMで場を支配してくる。部屋を出てからも、直樹のことを監視してるっぽいことを匂わせてきます。直樹君は何も気づかない男なので何も気づかない。直樹君は久しぶりに会った霞に事情を話します。久しぶりかな。もうこれ以上お膳立てすることねえよってくらい整えてくる。

「私思うんだけど……その娘ーー詩名ちゃんって子……貴方のこと好きだったんじゃないかな?」

「だから、私が言いたいのは、その詩名ちゃんは貴方に恋心を抱いていたんじゃないかっていうこと」
「恋心? 詩名が? でも、アイツは享さんのこと……」
「だから、それ自体が貴方の勘違いじゃないかっていってんの」

メモリーズオフ ゆびきりの記憶

直樹君以外は誰もが気づくことは当然霞も気づきます。世界でひとつだけの気づかない男。特別なオンリーワン。この話を聞かされて享が好きだと考える奴はひとりとして存在しない。詩名から享というワードなんて一回も出てきてないし。直樹君国語の問題解いたことないんか? 本文中に出てきてないことを考えるなって言われたでしょうが。

仮に霞の言ったとおりだったとする。
そうすると、俺と詩名は両思いだったということになるわけだ……。
だけど……。
だけど、今はその事を少しも喜べない。
だって……。
もしもそれが自室ならば、俺は詩名に対して、とんでもない事をしてしまったのだから……。

メモリーズオフ ゆびきりの記憶

霞のおかげで認知が正常に戻ったのはいいけど、今度はヤバいをやらかしたしまったことに気付きます。罪の重さを自覚する男。狂った人間が正気に戻るって実は危ないことなのかもしれない。

⚫︎詩名視点の効果

再び詩名視点。このルートは詩名視点の効果が発揮されています。表でわからなかった(推測するしかなかった情報が)どんどん出てくる。詩名視点で出てきた情報はこのくらいですかね。

・最初はちなつにくっついてる謎の人くらいの認識だった。
・恩人の恋人を好きになるなんてあってはならないことだと思った。
・それでも先輩が先に気づいてくれれば天川先輩には義理立てできる。
・ズルいけどこれに賭けるしかなかった。
・一緒に曲を作ればすぐに自分の気持ちに気づいてくれると思った。
・朝によく出会うのは待ち伏せしていたからだった。偶然ではない。

読んでいればどれも推測はできることですが、答え合わせがあるとちょっと爽快感がある。ほーらやっぱり、みたいな。

ここで一番重要なシーンはこの筆者の気持ちが開示されてるシーンですね。

アタシはズルいことをした報いを受けなければならなかった・
ーーがんばれ。
そう言っている先輩は、アタシが別のひとの事を好きだって思ってた。
アタシが他の男の子を好きだって思って、それを応援してくれた。
ーー応援するから・
そう言われるたびに、先輩はアタシのことなんて、なんとも思ってないって告げられているようなものだった。
ーーきっと上手くいく。
そう言われるたび、アタシと誰か他の男のことが恋人同士になればいいとーーそう思っているんだってことがわかった。
それはまるで……。
まるで拷問みたいだった。

メモリーズオフ ゆびきりの記憶

無自覚に相手を殴り続けることの恐ろしさ。聞いてるか。直樹よ。私と同じ痛みを味わえって言ってるんだぞ。言ってないけど。皆さんも僕も言葉には気をつけましょう。人間の99割はメンタルだからね。言葉のナイフほど恐ろしいものはない。コアレビューが言葉を選んでいるかどうかは、あんまり選んでないけど。この辺は難しい。言葉を選ぶと何も書けないし何も言えない。あまりに言葉を選ばないと直樹君になる。

こういうの見ると、やっぱりそれからでもいのり視点が欲しかったよなぁ。もしかしたら外伝であるかも知らんけど、本編にないと意味がない。

回想を見ると、享から付き合ってくれと言ったようです。要するに亨はその時点で事情をほぼ把握してたことになる。そんなに詩名と絡みもないだろうに。たまに詩名と直樹が一緒にいるところに遭遇したから、そこで見た僅かなやり取りから、咄嗟に事情を推測したのか。探偵並みの推理能力です。

⚫︎正気に戻った狂人

詩名に対しての悪行が走馬灯のように流れていく直樹君。狂人が正常に戻ったらこんな感じなのかもしれない。詩名もショックだけど、直樹君にとってもある意味トラウマになっている。無自覚に殴り続けてたら、あるとき拳が血まみれになっていたことに気づく感じですかね。そらトラウマになるわ。知らぬうちに手真っ赤なんだから。

⚫︎デートに乱入する男

周りのありとあらゆるお膳立てによって詩名と亨のデートに乱入し、男気告白を試みる直樹君。詩名はあまりに驚きに???状態です。亨は全てわかってましたとばかりにこのセリフ。

「なぁに、驚いた顔してんだよ。詩名ちゃんが俺のこと好きじゃないなんて、あの夜会った瞬間にわかったっての」

「おっと、驚くのはまだ早いぜ。ついでに、そこの鈍感男が詩名ちゃんを好きだってことも、俺たちは早くから知ってたぞ……」

「ったく……いらん世話焼かせやがって」

メモリーズオフ ゆびきりの記憶

すげえいいこと言ってます。これぶん殴られた後だからね。強引に誘う演技してたところにパンチで乱入された後のセリフだから。殴られた後にこれ言えるやつ、地球上におる? いやぁ。やっぱり最後は亨さんなんだよなぁ。今回はメモリーズオフ界の道化師こと、佐賀亨さんの聖人っぷりを寿いで締めにしたいと思います。

直樹と詩名はどうなったのかって? 普通にちゅきちゅき言い合って終わりだよ。いつも通り。言葉にしたら3秒で終わることも、なかなか言葉にできないのが人間なのかもしれない。

あとちなつとの関係がどうなったのかは謎ですね。深掘りするほどのテーマでもなさそう。それにしてもやっぱりこのED曲は神ですわ。

最後の最後にタイトル画面が変化。最後にクリアしたヒロインが出てくるようです。

胸はあります

⚫︎詩名ルートまとめ

いやぁ。全然覚えてなかったけど、これは神ルートですね。メモリーズオフのサブヒロインのルートでは一番好きかもしれない。いや、もちろん言いたいことはわかりますよ。ゆびきりの各ルートの一般的評価はあまり知りませんが、曇りなき眼で見ると、そこまで高評価できないであろうことも承知しております。あまりに直樹君がアホすぎるからね。こんなアンジャッシュコントのどこが神ルートやねんと。そう言いたいのはよくわかる。

でもさぁ。このルートはそういうテーマなんですよ。「レジェンド級の鈍感男VS絶対に気づかせたい乙女」がテーマなんだから、直樹君がアホなのはテーマ通り。詩名がちなつに遠慮して遠回りなのもテーマ通り。鈍感男が正気に戻ってとてつもなく後悔するのもテーマ通り。このテーマを余す所なく、パーフェクトに描き切ったということで、個人的には神ルート認定です。詩名のBGMもいいしね。声もいいし。性格もいいし。言うことないじゃん。

直樹とちなつの二人の写真撮ってるふりしてフレームに入れてたの直樹君だけって話、出てこなかった気がするけど、僕の勘違いですかね。そういう話なかったかな。俺が過去の記憶を捏造して思い込んでただけなのか。クロエ先輩の一目惚れの話も本編だと思い込んでたし、やっぱり思い込みって怖いですね。直樹君もそう思うだろ?

後は全てをクリアした後に、直樹君にアドバイスしていた時の霞の心境をもう一度考えてみたい。次は姫ちゃんルートです。

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