母を偲ぶとき
私の母は、もう10年前に亡くなっているのだけれど、実家には、母の遺した写真がたくさん残っている。
ずっとそのままになっているのが気がかりで、最近ようやく、整理し始めた。
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母は晩年、長い病を患った。闘った末に、あらゆるものをそのままにして旅立ってしまった。
そのあと、父と私で協力して、母が遺したものを色んな形で整理してきた。
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母が遺したもので、私の生活に取り入れたものがある。母が友人の結婚式に着ていた訪問着は、今は私が友人の結婚式に着ていくようにしている。
父がいつか母に渡した結婚指輪は、サイズを変えて、夫が私に渡す結婚指輪になった。
茶道や華道の道具は、私もいつかやるかな、と思って長く残していたけれど、最近やっと手放した。
私と母は別の人間だから、母のすべてを受け継ぐことは難しい。
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なかなか手を離れないのが、料理のレシピ集だ。当時はまだ、ネットで検索できるレシピのデータベースが整っていなかったから、クックパッドのレシピなどがプリントアウトされた状態で残っている。他、新聞や雑誌のレシピの切り抜きも多くある。
料理好きな母だったけれど、最期の方は、薬の影響で味がわからなくなってしまった。
それでも、レシピは好んで読んでいた。読めば味を想像できるから、短い「詩」を読むような感じで楽しんでいた。
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先日、大量のレシピの切り抜きを一つ一つ手にとって眺めながら、今後、私が作るかどうかを考えてみた。
使う可能性のあるものだけ選り分けて、あとは手放そうと思ったけれど、しばらくして、もう二度と集められないよなあと思い直して、また紙袋に静かに仕舞った。
染みとか走り書きメモとか、まだそのままの形で取っておくことにした。そんなに場所を取るものでもないし。
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母の遺した写真は全て、データ化することにした。
写真をスキャンしてパソコンに保存し、フォルダに名前をつけて並べてみた。
幼少期、学生、社会人、新婚、出産、職場……
色んなライフステージを迎えた母が、時系列順に綺麗にフォルダに収まった。
私の記憶の一番上には、病と闘っていた母ばかりが保存されていたけれど、そうだった、母は元気な人だった。
特に、26歳のとき、エジプトに行ったときの写真は気に入っていたのか、大きく引き伸ばしてあった。ラクダに乗った写真もあった。
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元気な母を思い出す方が、母も、私も、母のことを今も記憶に留めている人も、きっと嬉しい。
作業が少し落ち着いたら、母の軌跡をたどるフォトブックを作ろうかと思いついた。
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これは、誰のための作業なんだろう……
わからないけれど、写真を通して元気な母に会えるのは嬉しい。
ちょっと明るく、温かい気持ちになれた気がした。
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